ライ麦畑のUFOキャッチャー

楽しそうじゃねえかよぉとどこからともなく姿を現した男を見て、ティーダは出たなポンコツと魔物でも出たかのごとく吐き捨てた。
お前の父親じゃなかったかと尋ねれば、戦友は本人を目の前にしながら「すっげえ不本意だけどさ」と頬を膨らませ分かりやすく憤慨した。そんな戦友をスコールは珍しいものを見る目つきで思わずまじまじと見つめた。お前の親は凄いんだろう。なんとかボールっていうスポーツの人気選手だったって話じゃなかったか。セシルから仕入れた情報を披露してみれば本人は言葉に出した通り大変不本意らしく、それとこれとは話が別と言い切った。


「あんな自分勝手で我儘で年がら年中上半身ハダカのオッサンなんて父親とは認めないッス」


そういうものなのかとスコールは考えた。長いこと父親という位置が空位であった自分としては、それがいったいどういうものが普通とされるのかがあまりしっくりこないのである。たとえ年がら年中半裸であろうが自分から見れば目の前のジェクトという男はなんだかんだ世話焼きで豪快で息子想いのいい父親ではないかと思ってしまうのだが当人から見ればそうでもないのだろうか。
まあたしかに服を着たほうがいいとは思うが、いやそういうティーダも薄着じゃないかと声には出さないでいれば隣にいた戦友の一人が「まあ敵側に身内いるってのは微妙だよなぁ」と肩をすくめた。


「セシルの兄ちゃんみたいに人ができてりゃいいけどさぁ、俺の身内もだめだ。自分勝手でわがままでナルシスト。あれが身内だなんてやってらんないね」

「そう言やクジャもすさまじい衣装だよな。上半身裸ていうよりどっちかっていうと下」

「バッツ頼むからそれ以上言うな分かったから」


元気出せよジタンー人間服装じゃないぞハートだよハートと笑顔をふりまくバッツの横で、崩れ落ちるジタンを思い上手く話を流してやろうと気を使ったのかティーダがそういやスコールの親父ってどんな人なんすか?と尋ねた。


「やっぱスコールみたいにクール?」

「ああ、リーダーみたいな感じ?」

「…少なくともあんなに眩しくはない」


自分がクールかそうでないかは置いておき、スコールはここにはいない底抜けの笑顔を思い出した。おーっす妖精さん、俺今誉められちゃったよどうするよ、クールで渋くて男前だなんて期待に応えられるか心配だよ。言われてもいない言葉が勝手に脳内で再生され、思わず額を抑える。ああもうあんたは楽しそうでいいなまったく。大体渋くて男前はどこから出てきたんだ。
母親似と父親の友人に言われたこともあるし、俺にはあまり似てないと思うと言葉を発せば「見てみたかったッス!」「底抜けに明るかったりして!」「それどんな突然変異でスコール誕生?!」との回答が口々に返ってきた。どちらか問えば俺よりもお前達のほうが似ているんじゃないかという言葉をやはり心の中だけで発し、敵軍のラインナップを思った。どいつもこいつも格好いい鎧だの派手派手しい衣装だの凄まじいオーラだのを身にまとうとんでもない奴らである。あの中に自分の父がいることを想像する。
…なんだか可哀想なのは気のせいだろうか。



「むしろ、俺の父親はカオス軍に参加すべきだったと思う」

「えぇ?なんでよ?」

「あの人はここぞという本番の時に足が攣って話にならないから」


敵に回すならあれほど楽な奴もいない、と真顔で肯くスコールを今度は仲間たちがまじまじと見やるはめになった。一体どんな人間なのか想像がつかない、他に何かないのかと尋ねられ彼はしばらく考えて(なにぶん、彼自身父親のことをよく知らないのである。任務だというのに道に迷ったり、しかしそれを全く反省せず楽しんでいたり、言葉遣いが変だったりということはよく知っているのだが)、ぽつりと言った。


「…少なくとも服装は普通だ」

「そこなの!?」













「なあ坊主たち、いつになったら俺様の相手してくれんだあ?」

「やべ、忘れてた。おーいフリオニール!頼んだ!」

「なんで俺?!」



バッツとジタンとティーダを同じ組み分けにしてたら収拾つかなかったに違いない。