癒しの風荒みの海

先輩、と彼の後輩である若きデビルサマナーは彼を呼ばわった。
彼はなんだいどうしたんだいなんでも言いなさいと大変甘い言葉を心の中で練りながら沈黙をもって振り返ればそこには真剣な表情の少女が一人。彼女は何事にも大変真面目で真剣に向き合い取り組もうとするためそういった表情は珍しくなかったが、何かを決意したかのようにこちらを真っ直ぐ見据えてくるその視線。
それに視線を合わせることで返答とした彼を彼女はもう一度呼び、



「これまで大変ソーリーでした」



謝った。
彼には心当たりは全くなかった。


「私はあまり深く考えることをしなかったプロセスです。そのせいで先輩のセルフ修行の邪魔となっていたとは…気がつかなかったのは私が未熟であるセオリー」


これからは、と彼女は言った。
これからは先輩のことを先輩などと失礼な呼び方はせず、正式にライドウ殿と呼ぶが正解のセオリーです。


そのあまりにも突然の出来事に彼は何も答えることができなかった。沈黙をもって返すのはいつものことなのではあるが。では失礼しましたライドウ殿。お時間をいただいた感謝です。と一礼し有無を言わさず背を向ける後輩の姿に彼は待ってくれとは言えなかった。
そこで待ってくれそんなご無体な、と叫べるような性格であれば世の中もっと簡単であるのにと彼は歯ぎしりをしつつその場に立ち尽くすしかなかった。




















「いやな、凪ちゃんがお前の喜ぶことはなんだって聞くからさ。ねぇタヱちゃん」

「ライドウくんは後輩がいるってことだけで嬉しいのよって教えてあげたのよ。ライドウくん、凪ちゃんに先輩って呼んでもらうだけでうれしいんだからって。そうよね鳴海さん」

「そうそうそしたらさ、凪ちゃんてば"私が先輩を先輩と呼ぶことが先輩の邪魔だったとは迂闊でした"ってさあ」

「"師匠曰く、相手をハッピーにさせることはいざというプロセスまで取っておくがセオリー。あまり連発すると先輩のセルフ修行になりません"って決意しちゃってね」

「まあつまり、なんだ。いざって時しかお前のこと先輩と呼ばないと決意したんだな。それがお前のためだし、凪ちゃんのセルフ修行とやらでもあるんだって話だよ」

「だから凪ちゃんに悪気はないのよライドウくん」

「…」

「…」

「…」

「あ、あっそうだ!俺コーヒー入れるか?そうするか?お前も飲むだろライドウ。豆を新しく仕入れてきたんだぜ」

「そ、そうだわ鳴海さんそれがいいわ!わたしも大学芋買ってきたのすっかり忘れてたの!ほらライドウくん好きなだけ食べて!ね!?」

「…」

「…」

「…」

「悪かったよ。俺が悪かった」

「ごめんなさいライドウくん。こればっかりは謝るわ」








先輩と呼ばれることがメディラマ効果のライドウくんとしかられる大人たち。
このライドウはきっとタヱさんに「誰が好みなの」と聞かれたら即「先輩って呼んでくる凪」と即答する。(そこはかとないフェチっぽさは気のせいか)