圧倒的縦社会


会議までの待ち時間をもてあまし、そういやさぁ、とヒューズは口を開いた。
このあいだの大捕物の被害者の一覧を作ってて思ったんだけどよ、妖魔の女って姫名前になるルールでもあるのかあれ?
本名じゃねえよなあさすがにと独り言半分にぼやけば、どのジュースのボタンを押すか悩んでいたのか販売機の前で動きを止めていた相棒がその言葉に振り返り、妖魔は、と答えた。
正確にはいつものごとく黙ったままであり、同僚にしか通じない微妙な身振り手振りではある。



曰く、妖魔は自分より強いものから名を与えられれば、それが名前となります。前の名は捨てます。


なるほどねえと煙草に火をつけつつヒューズは相槌を打った。ありゃみんなあの変態妖魔の命名だったっつうことだな。道理で薔薇だの獅子だの耽美な名前な訳だ。

弱い妖魔は強い妖魔に飼われます。ファシナトゥールの主は特に強かったから片っ端から集めることができました。つまり彼の趣味です。

妖魔の世界は上下関係が厳しいねぇ。


おっかねえ世界だねと零せば、目の前の相棒はジュースを片手に着席し人間も似たようなものですなどと言う。そのまま手のひらを返しヒューズに向けた。



あなたの名前も局長の趣味でつけたものですね。

あーなるほど、そういう考え方もある。俺のこと一目見て「よろしくなヒューズ!」だもんな。新人時代にクレイジーとか呼ばれる悲しさを知れっつうの。しかも否定権は一切ないし。

自分より強いものから名を与えられれば、それが名前となるものです。

ま、妖魔だったらそうなんだろうけど……待て待て待て待て?っつうことはなにか?お前元々の名前捨てっちまったってことか?局長が冗談半分でお前を命名しちまったから!?

その通り。

つか自分より強いものってそういうもんでいいのかよ…。局長のおっさんでいいわけ?




その言葉に何を言っているのかというように沈黙の名を持つ者は電気回路の安全装置の名で呼ばれる者を見返した。なにをあたりまえのことを言っているのか。これ以上当然なことはない。






給料をくれる人が一番強い。

異議なし。



両手を上げ降参の意を表せば、分かればいいと沈黙の妖魔は肯いた。人間だろうがなんだろうがこの場所で働く者にとっては自らのリージョンを作り上げる実力の妖魔よりも世界征服をたくらむ悪の組織の長よりも、上司の中年に逆らえないのである。










IRPO高濃度妄想。
ここへコットンも加わるとカオスな会話状況になります。