目の前に見知った後姿があった。薄い色の髪をまとめたその後ろ姿は部屋の中をじっと覗き込んでいるようである。その恐ろしいまでの集中力。一点集中したら最後背後に立つ自分の気配さえ気がつかない。そのあまりに思いつめたような面持ちに思わず、何をしているのかと背中に問いかければ振り返りもせず今勇気を振り絞ってるところという返答が返ってくる。勇気?マリカが?
「いやね、せっかくいい天気だし外で一緒にお茶でもどう?とか話しかけたいなって思って」
「…誰に?」
黙って部屋の中に視線を送る彼女に合わせ覗きこめば中にはやはり見知った背の高い幼馴染とその友人である少女。なにやら楽しそうに言葉を交わしては幼馴染がにやりと笑い、少女は顔を綻ばせて微笑んでいる。ただでさえ怖いもの知らずのマリカがおびえるような相手は中には見当たらなかった。
「リウに用か?」
「違う違う。リウじゃなくって」
うううどうしようと呻きぎゅうと柱を握りしめる幼馴染の姿にジェイルはようやく悟るに至った。レン・リインを誘おうとしているのか。よく考えれば…よく考えなくてもこれまで年の離れた姉以外周囲は男ばかりであったシトロ村で生まれ育った彼女である。遊びといったら棒きれを振り回したちゃんばらごっこだの木登り競争だのを少年たちに交じり心から楽しんでいた彼女である。彼女の姉も姉でそんなマリカを諌めることなくむしろどんどんやりなさいと応援するような人物である。
同世代の少女になんと言って話しかけていいかわからないのだろう。
ようやく合点がいったと腕を組み、何を気にするんだと問いかけたジェイルに、マリカは気にするでしょ!とようやく振り返った。
「リウが連れてきた女の子だし、ぜひとも仲良くしたいと思ってるの」
「そうだな」
「でもほら私正直加減がわからなくって」
「なるほど」
「あなたたちと同じ扱いでいいなら楽なんだけどな」
「それでいいんじゃないか?」
へえ?と間の抜けた声をあげたマリカの肩を軽く叩き、それでいいと思うがと繰り返す。同じ扱いでいいじゃないか。何か問題あるのか?
その言葉にぽかんと口をあけるしかなかったマリカはしばらくそのまま動きを止めていたが、やがて納得がいったのかいかなかったのかよし!と肯いた。
「わかったそれで行くわ!当たって砕けろとも言うしね」
砕けたらまずいだろう、というか俺が言いたかったのはそういうこととはちょっと違うような気がするがとジェイルは思ったが彼が言葉を選んでいるうちに彼女は問答無用で部屋に突入していった。あれだけ柱を握りしめていたのはなかったことのように堂々と。たのもう!などと宣言しながら。
ああマリカいつも俺たちに対してどんな扱いをしているんだいやいつものお前ならそれでいいのか?そうか?
一時を待たず聞こえてくるはずの一緒にお茶でもうんぬんの言葉が聞こえる前に、彼はその場からそっと立ち去った。
そして、少し経ったらこの部屋へ戻り、あっけにとられた表情で残されているに違いないリウを釣りにでも誘ってみるかと考えた。彼はきっといつもの困ったような笑みを浮かべてなあジェイル、どうしたのマリカはと尋ねるだろう。
それにうまく答えられる自信は彼にはなかったが。
「なあジェイル、どしたのあれ、マリカ。すっごい張り切っちゃってまあ」
「マリカも勇気を振り絞ってるんだそうだ。応援してやってくれ」
「は、話が読めないんですけど?」
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マリカをみんなでかわいがればいいな妄想です(笑)