ドラゴンの背に乗ってため息をつく青年の肩をユーリックは叩いた。
目の前を埋め尽くすが如く襲いかかってきた敵艦隊は青き龍が縦横無尽に駆け殺戮したために目の前の空は開けていた。太陽がまぶしい。
悩み事なら言ってみな、とやさしい声をかけられ、ノウェは最近本当に待ち遠しいんだと答えた。
「俺はいつレグナみたいになれるんだろう」
真剣な顔だった。
変な仮面に変な服装ではあるものの、ごく一般的な思考を持つ男は思わず龍の背から落ちかけ、あやういところで持ち直す。え、すみません、なんですって?
「…すまんノウェ、もう一回俺にもわかるように言ってくれないか」
「俺はいつになったらドラゴンになれると思う?」
「……なあマナ、理解できない俺が悪いと思うかい」
「安心して。私は一切理解しようとは思わないわ」
「涼しい顔で見捨てたなあんた!!い、いやそれよりノウェどうしたららそういう悩みになるんだ。おにいさんに教えてくれるかな?」
「いや、レグナはドラゴンだろう」
「そうだな」
「俺はレグナの子供だよ」
「まあ、龍の子なんて立派な二つ名持ってるな」
「俺はいつドラゴンになれるんだ?」
「いや、そんな純粋な目で見あげられてもおにいさんにはわからんぞそれは」
「どうしてレグナは飛べるのに俺は飛べないんだろうって昔からずっと考えてるんだ。俺だって龍の子だぞ、飛んだりブレス吹いたり人をムシャムシャやりたい」
「最後に強烈なのきてるぞそれ!人としてやっちゃいけないの入ってるぞそれ!」
「昔からいろいろ訓練したんだけど、俺は全然ドラゴンに近づけないんだ。…やっぱり才能がないのかな」
「才能の問題じゃないから!」
男は足もとの蒼き龍にあんた教育間違えたんじゃないかと強く思った。その言葉を読んだのかその声が発される前に”人としての教育をしたのは儂ではないからな、責任は持たんぞ”と笑いを含んだような咆哮が返され、彼は仮面をかぶって自分の世界に閉じこもりたくなった。ああこの親にしてこの子あり。ああオロー隊長あんたにはもう少し長生きしてもらいたかったよいろいろな意味で。
才能じゃなくて努力ってことかやっぱりと再びため息をつき考え込む弟分と全く我関せず冷めきった眼でそれを見る少女、そして足もとの蒼き無責任な龍にそれぞれ視線をやり、なんてところに参加しているんだ俺はと自分の立ち位置を考え直さずにはいられなかった。ああ、この奇人変人のなかじゃ契約者なんてかわいいものじゃないかと強く思った。っていうか契約者じゃないのになんでお前らそんなに強いの。
「俺もそうだけどさ、ユーリックもいつドラゴンになるんだろうな」
「待て俺はまっとうな人間だぞ」
「だって俺の兄貴みたいなもんじゃないか」
「兄貴みたいなもんで、実際に兄さんなわけじゃないだろ!というかもし実の兄でもドラゴンにはならんだろ!」
「何色だろうなあ色。俺は白がいい」
「話聞け!」
「私は緑がいいわ」
「…じゃあ俺は黒でいいや」
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ノウェ=話を聞かない
マナ=話を聞く気がない
レグナ=話を聞いてもなんにもしない
ユーリック=がんばれ