にちようびのおやこ

突然後ろから大きな衝撃に襲われ、ランナーは大きな舌打ちをもって最大限の怒りを表明した。やられるかもしれないことは十分すぎるくらい分かっていたが、自分のなけなしの良心かプライドが民家がひとつ無残に潰されることを良しとしなかった。ああいいだろう、名誉の負傷だぞディンゴ。ここに住んでる奴らの一家団欒を守れたと思えよ。独身お一人様暮らしならホームパーティでも開け。
舌打ちと共に振り返りざまホーミングレーザーを撃ち込み、破壊音も確認しないままその場を少し離れ周囲を見渡す。爆発音と共に金属くずと化した輩以外にはレーダーに捉えられる範囲に敵はいなかった。
やれやれ、背中を狙うとは卑怯だね。まあ俺も目の前に敵に背を向ける馬鹿がいたら迷わず攻撃するけどな。

ようやく一息つけると気を緩めた彼にダメージ50%オーバー、という容赦のない電子音が襲った。ああ忘れてた。そんなに食らったのか。



「そんなもん痛くも痒くもねぇだろ、たかが半分」

「痛いです」

「痛くねえっつの」

「痛いです」

「天下のオービタルフレーム様の天才AIがその程度で泣き言とは情けねえな」

「天下のオービタルフレームの天才ランナーがこの程度の敵相手にこれだけのダメージを食らっている事実のほうが情けないと思います」

「仕方ねえ、志半ばだがここで自爆してやる」

「現状あなただけを操縦席から排除することは可能です。その場合、自爆行為という意味ではあなただけに影響がありますが」



なんとまあ可愛くないことばかりを言うものか。しかも「しかし、この程度のダメージなら再生が可能です。あなたがこれ以上むちゃくちゃな操縦をしなければ」などと追尾攻撃も忘れない。本気でこの生意気なAIの音声が再生できないように配線をいじってやろうか、ウィルスでもダウンロードしてやろうかと思ったが、毎度毎度の似たようなやり取りの繰り返しに流石の彼も疲れた。というよりも飽きた。ランナーと言うものは通常孤独なものである。孤独に押しつぶされることのないように会話が成り立つAIを開発したという話だが、それを考えれば通常会話より高度な口喧嘩ができる相手がいるほうが、精神安定上はよろしいのかもしれない。だが



「その前にうんざりしちまうっつうの」

「なんですか」

「お前さん、そんなことばっかり言ってて楽しいかって言ったんだよ」

「そっくりそのまま、お返しします」

「やれやれ、その通りだ。よぉADA、戦闘AIなんてやってて楽しいか」

「それはあなたに対し、人間は楽しいかと聞くことと同じことです」

「ああそりゃつまんねえな。同情する」



突然電子音は沈黙した。敵襲か?とレーダーを覗けども映るものは何もない。もしかして壊れたか?食中りじゃねえだろうな、変なメタトロン回収したとか。そういやさっき蜘蛛みてぇなやつからメタトロン回収したな。あれか。まあここの敵はすべて全滅させ、民間人への被害も少なくなったことだし、次に呼び出されるまでに復活してくれればいいか、と彼が結論を出したところで、電子音は復活した。



「私に楽しいかどうかは判断できませんが、特に不満はありません。それはそうと、敵全滅です。人的被害はありません。お見事です」



ああそうかい。お前さんに不満がないならそいつはよかった。つうかもののついでみたいに結果報告を出さないでくれるか。俺の働きはお前の感想のついでか。前のランナーの青年が、このAIを"人間くさく"したようだが、いいことばかりではないだろうと彼は思った。そりゃ、お前はいいかもしれないけどな、後のランナーのことを考えてくれ。お前みたいに柔軟な考えの若者ばっかりじゃねえんだぞ世の中。


この電子音を発する相棒を人間扱いすることに抵抗している自分に気がついて、彼はくたびれ果てたように深いため息をついた。






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どこかのタイミングでスパイダー戦。
けんかばっかりしていたらくたびれたディンゴさんと、まだまだ力がありあまっているエイダさん。

題名はコメントからお借りしております。ありがとうございます。