狭い空間の中で、男は出来る限り大きく伸びをして、ため息をついた。
もう数日ではすまないくらい狭い暗い座りっぱなしの生活である。うまく隙間を利用すれば横に慣れるくらいの広さはあるもののそれでも閉鎖的なことには変わらない。しかしエネルギーを食物からではなく、直接体に食らわせているからか空腹は全くない。便利ではあるが、それはそれでつまらない。このまま一生食事が出来ないとなると、こりゃまたつまらない人生になるもんだ。…その前に最後まで生き残れるかが問題か。やれやれ。
あー…。
どうしましたか。
風呂入りてえ。
無理です。
一撃で却下しやがったなあ。
あなた今の状態では100%無理です。あなたの場合、少しでも体に負荷がかかれば死にます。
最先端の最強最高のオービタルフレームなら最先端でどうにか生き延びてる人間が入れるくらいの風呂くらい積んどけってんだよ。
無茶苦茶です。
無茶は承知で言ってんだけどな。
万が一今の状態であなたが入浴できるような状態で、億が一ジェフティにそのような機能があったとしても、迷惑です。
なにが。
その状態で敵襲があった場合、全裸で戦闘に突入することになります。
いいじゃねえか別に。
一般的な思考から外れた趣味をお持ちなのは結構ですが、全裸のランナーを乗せての戦闘にメリットがあるとは考えません。私は拒否します。
あ、そうか。いたっけなお前。すっかり忘れてたぜ。
…エネルギー供給回路、切断しま
冗談分かれ、冗談。
プログラムは冗談を理解しません。
じゃ、これからちょっとずつ理解してくれ。俺を乗せてる限り言い続けるぞ。
早急にアーマーンを停止させる必要を感じました。
おーそうか頑張れよ。
もしくはあなたを乗せたまま自爆する必要性を感じました。
それくらいで人を殺すな。
そのほうが世の中のためだと考えます。…冗談です。
男が懲りずに言葉を発すその前にぴりりと響いたのは通信音。
繋いでくれという前に、優秀なAIはその通信を繋いだ。映像が届くよりも先に放たれる少女の叫び。
…ちょっとあんたたち!さっきからなにをぶつぶつ言いながらとろとろ移動してるの!?
全力疾走してるっての。なあ、エイダ。
実際には飛行していますので、走ってはいませんが。
…な、なにを漫才やってるんだか知らないけどさっさと移動しなさいよっ!
あいよぉ。
了解しました。
なによその返事はだいた
切ってくれという前に、優秀なAIはランナーの人差し指でのやる気のない合図に合わせてその通信を切断してみせた。意外とうまくやっているかもしれない、こいつとは。さっさと終わらせて風呂入ってやるとの男の宣言に、彼女からはならば生き残ることが先決ですと淡々とした返答。それくらいわかってら。
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ケンはツッコミ役。
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