坊主のことなんだけどよお、と男は言った。


パスを変なとこすっ飛ばしすぎだろ。なんでまたあんな妙なところ飛ばすんだ。アルミラなら拾ってやれるが俺は無理だぞ、いくらなんでも。

さすがに山の上は私もぎりぎりだ。フォローしてやれないかもしれない。

やっぱアレか?俺がパスんときタイミング悪いのか?

いや、私が高く上げすぎだろう。太陽と重なると視界を奪うからな。少し力を制御しよう。

それはしねえほうがいいぜアルミラ。

なぜだ?まだフィールは戦いに慣れていない。私達でフォローするのは当然だろう。

今はいいけどよ、そのうちそんなこと言ってられなくなるぜ。あいつだって戦うって決めたんだ。特別扱いはよくねえと俺は思う。

厳しくするのは構わんが、それで怪我をするのはいただけないな。

死んだらそれまでだったっつうことだろ。

皆が皆自分のようだと思うな?

お前は心配しすぎなんだっつうんだよ。

普通の人間の少年を勝手に巻き込んで心配しないはずがないだろう。

あいつがこっちを巻き込んでるんだっつうんだよ。甘やかしすぎるのはよくねえ。

甘やかす?私がか?

お前が遠くまですっ飛んだ奴を拾ってやればやるほど、あいつはそれに甘えちまうだろうが!










一時の睡眠から目を覚ますと二人の男女が言い争っていた。
片方は出会ったときと変わらぬ沈着冷静そのもので、片方は出会ったときと変わらぬ乱暴で投げやりな口調であったためぱっと見は何気ない会話をしているようにも見えたが、その内容が空気を緊迫させていた。性格は全くの正反対だがとても息の合ったコンビだと少年は思っていた。お互いがお互いの足りないところを補い合うとでもいうか。
しかしそんな二人が明らかに言い争っている。


しかも内容は自分について。





ああどうしようどうしよう僕のためにお父さんとお母さんが喧嘩してるよどうしよう!という子供のような視線をひしひしと送られ、トトはそれを見てみぬふりをすることにした。このヒヨッコが成長すればこの言い合いだってなくなるのである。自覚せよ小僧!そして成長せよ!


トトはその短い足で、はらはらとしながらどうしていいかわからず半泣きの少年の首筋に一撃をくれて黙らせた。そしてエテリアである自分に睡眠は必要ないが、とりあえず寝ているフリを続けた。














なんてことがあったな。

んなことあったっけか?

ああ、今となれば懐かしいな。結局私はお前に論破されたんだ。

そうだったかあ?お前全然引き下がんなかったじゃねえか。

まさか生きているうちにお前に言い負かされるとは思っていなかった。

貴重な体験したじゃねえか。…大体今となって考えりゃお前を軽々ぶっ飛ばせる時点でどれだけ怖いもの知らずなんだっつの。普通の生き物じゃねえよ!

…ま、それもそうだ。

二人ともご飯できたよ。あ、そうそう。これ食べ終わったらあとでちょっと剣の練習付き合って欲しいんだけど…




な、なに?なに?

…成長したなあ。
…成長したなあ。




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