一瞬にして白馬から少女の姿に戻った王女は、普段優しく微笑んでいるその表情を怒り一色に染め、男性陣に向かって口を開いた。
見たことがないくらい怒っていた。あの可憐で儚い王女が、腕を振りかざして。
こんなところへ来ている場合じゃないでしょう!早くゼシカさんを探してください!ほら早く!早く!ああもう早くお馬さんの姿に戻らないかしら!え、どうして?そうしないとミーティアは馬車が引けません!ああもうミーティアはこんなに人間の姿がもどかしかったことはありませんわ!お父様もなにをぼうっとしてらっしゃるんですか!早く荷台へお戻りくださいな!皆様出発する準備はよろしいのですか?…もうこうしてはいられません!お父様キメラの翼はどこにありますか!?今すぐ戻って、ゼシカさんを追いかけましょう、ほら早く!!
あ、兄貴。馬姫様が怒ってるでげすよ。おっかねえ…!
姫様、何か知ってるかなと思ってきてみたけど、知らないみたいだねえ。
お、おい、いいのかよ。姫様すげえ怒ってなんか言ってるぞお前に。
姫様、姫様。怒っていても仕方ありませんよ。すぐにゼシカ探しますから今は落ち着いてくださ、あいたっ
う、うわっなんか本投げてきたぞ本!!
凄まじい怒りでげすよ…そ、それだけゼシカの姉ちゃんのことが心配なんでげすね…。
だろうねえ。
男三人は飛んでくる本だのチーズだのを盾や鍋のふたで防ぎながらこそこそと会話を続けた。旅を続けていくうちに、これまで同世代の同性の友人がいなかった姫にとってゼシカは恰好の話し相手になっていたらしく不思議な泉にやってきてもそのほとんどを女同士のたわいもない話に費やしていた。
それを知っている三人としては姫の怒りも理解できないこともない。彼女は普段馬であるから情報収集もままならない。男三人揃いも揃って足取り一つつかめないのかこの無能!という怒りがひしひしと飛来する物体から感じられた。
しっかし、あれは心配しすぎじゃないのか?
君より心配してるかもしれないなあ。ねえククール。
なんでそこで俺を引き合いに出すんだよ。
まあ、姫様の気持ちも分かるよ。もうすぐゼシカの危ない水着が完成するところだったしさ。
…なに?
姫様楽しみにしてたからなあ。この大切なときに誰かにさらわれたとあっちゃ姫様も怒るよね。まあさらわれたのかはわかんないけど。
そりゃそうだ、怒るのは分かる。僕も楽しみにしてたし。
うんうんと自分の言葉に肯く男に残り二人は言葉をなくした。
…馬鹿か?
人が一生懸命考えてることにたいして馬鹿はないだろう。
…いや馬鹿だろ!なにを大真面目に馬鹿やってんだよ!
仮にも王様と姫様に向かって馬鹿はないだろう。
お前だ!馬鹿はお前だ!!
ああ俺だけか、俺だけなのかまともな神経持ってるのはこの中で!あっしはなんにもいってないでげす!お前は見た目がまともじゃないんだよ!なにを!?ちょっと待った僕はまともじゃないけどククールよりはマシな自信があるぞ!どこから沸いたその自信は!兄貴を馬鹿にするとゆるさんでげすよ!はじめ俺が馬鹿だって言ったとき否定しなかったくせに何を今更!
ぎゃあぎゃあと掴みあいの喧嘩の火蓋が切っておろされそうになったとき、それを間一髪止めたのはいつの間にか戻ったらしい純白の馬の力強い蹴り上げであった。その鋭い一撃は一人の額をかすめ、一人の帽子を吹き飛ばし、一人の体の真横に叩きつけられた。ああ馬姫様申し訳ございません。我ら三人が揃いも揃って馬鹿でございました。今はそれどころではなかったです。何に対して怒りを覚えているのだとしてもこの姫の必死さは本当だ。ゼシカのことは心配だがとりあえず今は自分の命が心配になった男共はとりあず姫が人の形をしていたいたときに投げ飛ばした荷物を大慌てで拾い始めた。
その皆心は皆ひとつ。
ああ、ゼシカ。どうか無事でいてくれ。
そして姫様、戦闘に加わればいいのに。
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おんなのゆうじょうをおもいしる
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