ねえヤンガス。

なんでがすか。

相談に乗って欲しいのよ。



はぁ?と間の抜けた声を上げて男は顔を上げた。
なに?相談?自分に?ゼシカが?こりゃまた珍しいこともあるもんだと彼は口にしながらいいでがすと快く了承した。この長い旅の間助け合いの精神、持ちつ持たれつでやっていくことが大事である。まあ一応自分は年上なわけだから人生の先輩として助言は必要かもしれないし。

ありがとうと食事をしていた彼の正面の席に腰を下ろした。
そして表情を急に険しくさせて、言った。


「どうしたら回復呪文使えるようになるのかしら」

「は?」

「みんな回復となえられるのに私だけ出来ないでしょ?ホイミでさえ唱えられないのよ?さすがにこれはまずいんじゃないかと思って」

「どうしたらと言われてもでげすなあ。気がついたら覚えてたとしか言えねえでがすよ」

「そりゃそうよねえ…」


ゼシカはテーブルに肘をついてため息を吐き出した。なんでまたわたしだけ使えないのかしら。なにか食べるものがまずいの?好き嫌いはしないほうなんだけど。教会のシスターに昔教わったときにも私だけ使えなかったのよ。そのうち出来るようになるかと思ってたんだけど頭に入ってくるのがイオとかベギラマとかメラゾーマとか、そんなのばっかりなのよねえ。

まあ確かに、とヤンガスは同意した。呪文がほとんど唱えられない自分でさえベホイミ程度なら使うことができるわけだし。


「まあ回復は兄貴とかククールの奴に任せて、ゼシカの姉ちゃんはがんがん戦っちまえばいいんじゃねえか?」

「でもほら私が使えたら全員使えるわけだから、回復に余裕できるじゃない。それにね姫様ともこの間はなしたんだけどやっぱりこう物語の勇者のパーティにいる紅一点ってやっぱり回復担当よねーまさかあんな優男が僧侶担当だとは思わないじゃない。姫様が戦闘できるんだったら回復かなって言ってたんだけど姫様もさっぱり回復使えないって言うのよ。あ、そうそう知ってた姫様って剣の腕凄いらしいわよあのトロデ王譲りらしいんだけどあの王様が剣を振り回してる姿が想像つかないわよね」


少女のまくし立てる台詞に彼はあっけに取られ、どこに返事をしていいものか悩んだがとりあえず最後のところだけ同意を示した。あのオッサンが戦いで役に立つとは思わんでがすなあ。
しかしここまで一生懸命考えているということは、大分気にしているようだ。攻撃魔法をまともに取り扱えるのは彼女だけなので仲間の中ではいなくてはならない存在なのだが、気がついていないんだろうか。
とりあえずテーブルの上の料理と酒を薦め、まあそんなに悩まないことでげす、とフォローをした。
ただでさえおっかないくらい強い彼女である。これで回復まで覚えられたら手のつけようがないではないか。まあその最強呪文→復活呪文の餌食になるのは自分ではない一人だが。それにそうなるといよいよククールの存在価値がタンバリン係になってしまうではないか。


ゼシカは空に近い酒のボトルを驚いたように受け取って、やっぱりあんたっていい奴よねと言い放った。見た目は凶悪なのにねえ。
その言い方に全く悪意を感じなかったため、彼は怒っていいものやら喜んでいいものやら困り果てたあげく、そりゃあっしは人情に生きる男でがすからねと答えるにとどめた。











「万人に優しく、万人を愛する心があれば回復呪文なんて自然と覚えるものさゼシカ」

「あんたに聞いてないし、ほんとにそんな理由だったら諦めるわよ」

「そこで諦めるんでがすか」

「…間違った博愛主義者にならなくちゃいけないくらいなら回復呪文なんかいらない」

「そりゃ間違いない!」






最終戦時には本格的にタンバリンしか叩いていませんでした。戻る