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祭りの見物のため街に出ていた少年少女が飛空挺に帰ってくると、留守番を買って出た(または特に祭りに興味のなかった)かの美しきヴィエラは食事をしていたらしく、お帰りなさいとグラスを掲げて出迎えた。
その彼女の前にはテーブルに突っ伏すバッシュ。少し離れたソファーに倒れこんでいるアーシェ。
なんか凄いことになってないか今。




ただいま。

お帰りなさい。保護者とははぐれたの。

バルフレアならついでに買出しして帰るから、ちょっと遅くなるって。

まったくどっちが保護者だか分からないわね。



低く呟くヴィエラの声が少し弾んでいるように感じ、少年が楽しそうだなあフラン。大分飲んでるのか?といつものように思いついたままの台詞を吐き出すとヴィエラはその目をグラスから上げ、少年を見つめた。
その赤い瞳にまじまじと見つめられ、少年は思わず息を呑む。う、うわ、なんか怖い!なんだか知らないけど怖い!


この船のメンテナンスを一手に引き受けるモーグリとの会話が少年の頭に泡のように思い浮かぶ。
ああ見えて、フランは酔っ払うと性格変わるクポ。…まあ、なんというか、フレンドリーになるクポ。
また、そんな冗談ばっかり!フレンドリーってどういうことだようと少女と二人笑った。が、待て待て待て、目の前のヴィエラ様はいつもの装備も外して生身の頬を肘を突いた手で支えて物凄い勢いでこっち見つめてますがどこがフレンドリー?しかもなんかうっすら笑ってませんか?え?あのフランが?でも笑ってるの口元だけだうわあああ。
思わず少女のほうを振り返れば、少女がフランを見たまま固まっていた。あ、やっぱこいつもなんか感じ取ったな。



ヴィエラはそんな二人を見て目を細め、どうかした?と尋ねた。
何かお望み?



い、いいやなんにも!な!パンネロ!?

ううううんそうよねヴァン。とりあえずここを片付けて今日は休もう?

えええ俺が散らかしたんじゃないのに!?



あら、そんなに急ぐことはないわよ、とフランは口を開いた。
ぎくりと体をこわばらせぎりぎりと音がしそうなほどゆっくりそちらを振り返れば、ほら、いらっしゃいよと手招きする手。
その顔には微笑み。左手で自分のひざを軽く叩いて。




そんなとって頭からばりばりいったりしないから大丈夫よ。




長い指をしならせて
怪しく微笑んで彼女は再度二人を呼んだ。

















1時間ほど遅れて我が家とも呼べる飛空挺に帰ってきた男は、我が相棒に抱え込まれ頭の上にあごを乗せられて座っている少年を見て、彼女が絡みモードであることを把握した。
酔ってる。あれはもうかなりキてる。しかし机の上には残りが半分ほどのワインの瓶が一本だけ。まさかあんなもんじゃこいつは酔わないだろうと視線を下やれば、足元には空瓶が片手では数え切れないほど。


…さすがに飲みすぎではないだろうか。
ソファーに大の字で倒れている(寝ていると信じたい)姫その人と、枕にされている(かのヴィエラのおかげで慣れている様子。そんな状態でも熟睡中)の小さな機工師に視線を移しため息を一つ。



抱え込まれた少年が、俺水持ってくるからパンネロ交代!と宣言した。
かの女はその言葉に仕方がないとばかりに手を広げて解放すると、給湯室まで駆けていく少年の代わりに少女を抱え込んだ。満足気である。





その状態でようやく彼の帰還に気がついた少女が身動きが取れない状態でお帰りなさい、と口を開いた。
もう説明は不要と判断したのであろう、少女はええと、と前置きしてから、交代します?と笑った。
やれやれと首をすくめ、空いた椅子を陣取り、残り少ないワインを比較的綺麗そうなグラスに注いだ。












バルフレアはもう可愛くないからいやよ。

余計なお世話だ。







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