英雄:オレンジ
性格:テンションが高い
青年は楽しそうに大げさな身振り手振りとともにサナに言った。
あのさあサナ今日は何の日だか知ってる知ってる?なんかねあいつね、え、あいつってほらいつも心配性のダッククランの、え?あ?そうそうそいつ、そいつが言ってたんだけど今日って満月なんだってさ!でさあ満月だったらどんちゃん騒ぎしようぜ!って言ったら昨日もしただろってワイアットに怒られてさ、節約しろってほんとあいつなんかマメになってきたよなー俺のお袋かって感じ、言い方が。…あれ何の話してた?あれ?…あ、そうだ満月だ。でさ、サナ、今日の夜さ。
「満月見ようって?」
「うん」
「眠いからいや」
「えええ!」
一方的に喋り倒し、肝心の言葉を口にする前に言いたいことはばれて、その上一撃で撃沈されても彼は諦めなかった。
楽しくなると分かっていることを諦められるほど彼は大人ではなかったし、大人かどうかをさておいても諦めるような人間ではなかったから、これでもかこれでもかと食い下がってみせた。
「いや、ほら、サナが三度の飯と三時のおやつと同じくらい冬の睡眠を愛してるのは十分分かってるんだけど」
「そうね、愛してるの」
「でもほら、俺はそれ以上にサナのこと好きだし」
「どうもありがとう」
「好きな人と二人で雰囲気たっぷりに月の光の下だよ?ロマンでしょ?ロマンチックでしょ?」
「ロマンチックに男同士の友情を深めてちょうだい」
「あいつらなー!裏切りやんのなー!俺がどんちゃん騒ぎしようぜって言ったらあっという間に消えてやんの!」
一方的に喋り倒され、肝心の言葉を口にする前に言いたいことを察し、その上一撃で撃沈したサナは少し驚いた。
元々暖かい地方出身の一人と寒さに最近めっきり弱くなったと呟いていた一人は、いつも一方的に彼に巻き込まれる不幸な大人達は、今回は逃げ切ることが出来たらしい。
良かったね、と心の中で思いつつ、これで自分までかまってやらないときっとこの男は泣くかもしれないとサナは考えた。もしくはこちらが首を縦に振るまで食い下がりに食い下がるに違いない。それはそれで大変に面倒ではある。
たまには私が相手をする番よね仕方ないと首を振り、
寒い寒い冬の暖かで安らかな睡眠を削る覚悟を決めてサナは答えた。
「じゃあ夕飯の後でね」
ざくざくと雪を掘り返しつつ城を出て、裏の丘まで登るとそこには一面の雪景色とそらに浮かぶ丸く黄色い星。
それまで珍しいぐらい言葉少なにサナの手を引いて歩いていたオレンジは、振り返ってにかっと笑った。
雪と同じくらい白い歯を見せて。
「これは儲けたよサナ!」
あんまり真面目に月とか見たことなかったけどこんなでっかいもんなんだなあ。来てよかったなあ。
わーいわーいと別の生き物のように喜んではね回る青年を後ろから見つめて、良かったねえとサナは素直に思った。心の底から楽しそうにはしゃぎ、やっぱり一人で見るよりいいよね、こういうのはと笑顔を浮かべる青年に同意以外の返事が返せるものか。
…いまだに面倒くさい、寒い、眠たい、早く帰りたいという気持ちはないこともなかったが。
膝丈まで積もった雪に埋もれている青年が普段の格好に襟巻きだけという姿に今更ながら気がついてサナは呆れつつ、満足したら帰りましょうと声をかけた。健康優良児すぎる彼は風邪などひくわけはないだろうが、見てるこっちが寒々しい。
「…じゃあ」
サナの言葉に青年は立ち止まった。積もった雪の上に真直ぐ立ってサナを真直ぐ見やった。
それが当然だというように。
それ以外ないというように。
「踊る?」
振り返って、両手を差し出して。
その後ろには月。周りには雪。
彼の赤い服が、白によく映えて。
いつまで手を取らずにじっと見ていたら勝手に手を握られたので
サナは仕方ないと首を振り、息を白く吐きながら笑った。
「踊らない」
「ええええ!」
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英雄祭を発掘祭。楽しい企画でした。
2013/05誤字脱字その他一部修正。