タンカー事件が一応の終結をみたその時になって、ようやく彼女はフィランソロピー設立の目的と意志を聞くことになった。
それは彼女が強引にとはいえたった二人の反メタルギア組織のメンバーに加わることになったことがその全ての原因である。

なんだかんだ言いながら彼女をかわいがっていた彼らはそれに最後まで反対したが、彼女が一度決めたら天と地がひっくり返ろうと太陽が地球の周りをまわろうと、決して意志を曲げないことを知っていたから無駄な抵抗はしたものの最終的には降伏した。
たった二人の組織。彼女が加わることで戦力が増すと言うことも否めないということもある。
けれど彼らの周りでは人が死にすぎた。もうこれ以上は誰もと思う気持ちもある。


スネークと呼ばれる男はただただ淡々と、その目的を話した。
次世代の為に、残される子ども達のために。
自分には遺伝という繋がりでは何も残すことは出来ないけれど、それでも何かを遺すために。
彼女はしばらく首を傾げて黙ってその話を聞いていたが、最後に沈黙だけが残されると




「わかった」




とうなずいて見せた。
こう見えて灰色の頭脳の持ち主である彼女は何を考えたかもう一度わかったわ、とうなずいて




「スネーク、子どもが欲しいならわたしいくらでも協力するからね」




真剣な目で彼を見上げた。
言葉を失ったのはいい年をした男二人。
脳味噌の回路が焼き切れたかのように動きを止めた。



「え、ええ!?」

「な」

「どうしたの?」

「何を言ってる!?話聞いてたかお前は!!」

「あのね、ナオミさんも言っていたけど、人間は遺伝による子孫を残すということが全てじゃないと思うの。血が繋がっていなくても、家族は家族よ。あなたの言う未来に何か遺すというのは遺伝子だけが継がれていけばいいって話じゃないと思うの。要はその思想じゃない?あなたが何を考えて、なんの為に戦っているのか、なにを喜んで、何を悲しむのか。何を正義として何を悪とするのか。そういったことを伝えるのを遺伝というんじゃないかしら」

「…」

「養子制度っていうのが世の中にはあるのよ?それにもしあれならここには運良く男女揃ってるわけだし」



そう言うと彼女はスネークから視線を逸らし、その隣でとりあえず沈黙は金を実行していた科学者をじっと見つめた。その何の濁りもない純粋な視線に狼狽えたのはその男。
後ろを見、横を見、その視線が真っ直ぐ自分に向けられていることを確認すると思わず彼女の意図することを確認せずにはいられなかった。そんな、まさか。



「…………え、え!?ちょっとまってメイ・リン。ま、まさか君変なこと考えてないだろうね!?」

「変な事なんて考えてないわ。一つの可能性の話よ?あたしだって出来ることならもうちょっと若くて身長高くてお金持ちの方がいいもの!」

「頭だけはいいからな、オタコンは」

「そっ!頭脳だけは合格ね!」

「あのねえ…」



あきれ果てたように馬鹿にされた本人が嘆く。

しばらくにらみ合いの沈黙が続いたが、お互いがお互いの皮肉に思わず吹き出した。
初めは静かな笑いだったそれがだんだんと大きくなっていき、終いには転げ回る者も出るまでの大爆笑に変わる。こんなのも悪くない、誰かが思う。

スネークが笑ってるのなんて初めて見たわと彼女。
俺も一応人間なんでね、感情は持ってるさと返すのは彼。
まあ皮肉を言いながらじゃないと笑えないようだけどねとは最後の一人。







ひとしきり笑い、目に浮かべた涙をぬぐいながらそうそうこれは言わなくちゃと思っていたのと彼女が口を開いた。あの時のセーブ用通信で最後を締めくくるときと同じ、得意そうな笑みを浮かべて。





「中国にはね、三人寄れば文殊の知恵ってことわざがあるのよ」

「その意味は?」

「文殊っていうのは仏教の神様の一人で、私たちみたいに普通の人間でも三人集まって考えればその神様と同じくらいの知恵を持つことが出来る、つまり一人では駄目なことも三人集まれば出来るようになるっていうこと」

「そうか」

「そうよ。月並みだけど、あなたは一人じゃないってこと、スネーク」




というわけで、私はなにを言われてもあきらめないわよ?さあ仲間に入れて頂戴?と目の前に向かって両手を差し出す。
二人の男、両方に、片方ずつ。
エスコートを待つ貴婦人のように。







「これからもよろしくね。二人とも」






二人の男はその手を出来る限り恭しく取りながら、
やれやれ、とんでもないのを巻き込んでしまったようだと思いながら同音異句に答えた。



「ああ、よろしく」
「よろしくね、メイ・リン」

















「あっそうそう私はねえ女の子がいいなって思うの」

「本気で言ってるのかお前は!?」








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4やってないんで矛盾がとんでもないことになってそうです。