ところで、とダルマスカの若き女王は話を切り出した。右手に持ったカップを静かに置き、目の前に座る帝国の若き皇帝に向かってかすかに微笑んで。

「皇帝陛下は御年おいくつに?」

突然の問いかけに青年は驚いて一瞬時間を置き、17になりました、と答えた。時の経つのは早いものですね、あのときの陛下はとても若くいらっしゃったと微笑まれ、青年は彼女と共に戦った少年の時間を思い出す。今では絶対に考えられないだろう。侵略した国と侵略された国を治める者が短い間とは言え旅をするなんて!あのころの自分は皆の後ろから回復薬を投げるしかできなかったのだけれども。
今ならもう少しお役に立てるかと、と微笑み返せばそれは頼もしいことですね、と返される。
目の前の女王陛下はあの頃から全く変わらない。しかしあの頃のどこか突き刺すような視線や雰囲気は消えたように彼は感じていた。彼女の国がようやく落ち着いてきたということもあるだろうし、おそらく彼女自身なにかに決着をつけたのだろう。どこまでも穏やかであった。
本人が言うにはまだまだ癇癪持ちは健在だとのことなのだが。

「ところで陛下、ご相談させていただきたいことがございます」

その前に、もうひとつお願いが。この話はダルマスカ女王ではなく私個人としてお話したいのですがよろしいですか。静かに問われる。彼は再び驚いて言葉を失った。これまで両国の親睦という名目で月に一度、彼女と茶会を共にしてきたが一度たりとも互いの国の代表という立場を崩すことはなかった。それを始めてそれを崩したいという提案。

「もちろん。喜んで」

「ありがとうラーサー」

彼の名前を呼んだとたん、彼女は今までのどこまでも穏やかな凪のような空気を一変させた。長いドレスをものともせず堂々と足を組み、背後に立つ彼女も見知ったジャッジマスターに、大切な話があるので席を外しなさい、バッシュと昔の名前で呼ばわった。








部屋からなぜか憔悴しきった表情で胸を押さえて退出してきた彼の主に、ジャッジマスターは恐る恐る尋ねた。どうなさいましたか陛下。



「結婚を申し込まれました」





なにをおっしゃるのかあのかたは!
がちゃりと崩れ落ちそうになる体と飛びかける意識を間一髪で繋ぎ止めることができたのも、ひとえに彼の強靭な精神のたまものであろう。









そうしたらバッシュ氏はどっちにも堂々と仕えることができる合理的なシステム(そういう問題ではない)