暗い暗い世界の底で。
青年はしゃがみ込んで少女の頭に手を置いていた。
少女は青年に会わせてしゃがみ、小首を傾げていた。
「いいかいニーナ」
「うー」
「ここから先は危険がいっぱいだから、俺から離れちゃいけないよ」
「うー」
「暗い道には入っちゃだめだよ」
「うー」
「知らない人から物貰わないようにね」
「うー」
「ハンカチとティッシュ持った?」
「うー」
「バナナはおやつに」
「あんたはこの子の母親か」
「母親…」
「なに落ち込んでるんだい」
「になれるもんならなるんだけどなぁ」
「母性本能芽生えてる…?」
女の台詞にだってほら、父親役は俺より適任がいるからさ、なあリン!なんて悪びれずに返して拳をいただきながら青年は静かに笑う。
やれやれ、こんな馬鹿がこの世界の中心だなんて、嘆きつつ少女を見下ろした。
少女は青年に言われたことを自分に繰り返し言い聞かせているようで、真面目な表情でまだ首をかしげたままであったので
女はその真面目な顔に少しだけ笑顔を作って小さな荷物袋をあさって少女に差し出してやった。
「ほらニーナ。食べるかい?」
そんなしょうもないこと考えすぎると頭が疲れるよ。
女から差し出された飴玉を、リンは知っている人だから貰っても良いよね、と自分の心に聞いてから嬉しそうに受け取った。
少女はそれをほおばりつつ思う。
ねえふたりとも。
"ぼせいほんのう"ってなあに?
=
父リン+母リュウ+子ニーナ