レインボーロードでショートカット
同床異夢
百鬼夜行
放歌高吟
百家争鳴
盗人上戸
夜雨対床
沈魚落雁
天空海濶
鳶飛魚躍
千古不易
ノリと勢いと思いつきの幻水5置き場
好物
■オボロさんち(寄せ集め家族MOE)
■現役女王騎士(おとなもこどももおねーさんも)
■農夫(別格)
□ブックマーク□
Mon histoire / 泥庵 / Rise↑/
餡(おつかれさまでした)
同床異夢
「なあ、ゲオルグ。俺の悩みを聞いてくれるか」

「お前でも悩むことなんかあるんだな」

「頼むから黙って聞いてくれ親友。俺のデザートやるから」

「よしきた話を聞こう」

「リムが」

「姫が?」

「構ってくれないんだ」

「はぁ?」

「今さっき、久々にこの城に帰ってきたし子供たちに会いたいと思って部屋に行ってみたんだが」

「構ってくれんと」

「お帰りなさい父上と飛びついてきてはくれたんだが、今忙しいからまたあとでなんて言うんだぞ。ああもう俺は悲しみのあまり胸が裂けて死にそうだ」

「大げさなやつだな」

「何が忙しいのかと聞いたらこれからガレオンに故郷の話をしてもらうらしい。前々からお願いしてお願いしてようやく話してくれる気になったのじゃから今を逃してはならん!とそれはもう嬉しそうに!母上や伯母上が子供のころの話を聞いたら、父上にも教えてあげるのじゃとそれはもう嬉しそうに…!」

「とりあえず女王に相談しろ」

「もうした」









「それは、仕方ないんじゃないかねえ。一緒にいる時間が圧倒的に違うからさ」

「そうですよ、フェリド。リムの小さいころは忙しくてほとんど城にいなかったではないですか」

「あたしらもそうだったよねえ姉上」

「わらわたちも幼いころ父上があまり城にいませんでしたから、よくガレオンには面倒を見てもらいましたよ」

「姉上とハス姉でよく取り合いしたっけね」

「あなたは良く泣いていましたねえサイアリーズ。姉上ばかりずるいと」

「もう何年前の話だと思ってるんだい!…まあそういうわけだから、この城で暮らす人間はしょうがないんだよ。ガレオン自体あんな顔して面倒見がいいしね」

「そうですね。わらわもフェリドとどちらかをとれを言われたら迷いますね」

「あはは、頑張らないと姉上までもってかれちゃうよ兄上!」










「だと」

「うん、わかった、諦めろ」

「お前そこだけ真っ直ぐ俺を見て言うな。今までケーキから視線をはずしもしなかったくせに」

「女王殿下、その妹君、王女殿下のタッグに勝てると思いでか」

「思わん。全く思わん。俺はその中の一人として頭が上がらない」

「だろう。諦めろ」

「えええそれってどうなんだ。お父さん的にどうなんだ!!」

「残念ながら俺は父親になったことがないのでその気持ちは分からんな」

「ええい仕方がない!こうなれば俺もガレオンの話にまぜてもらうことにする!というかこれって名案だな。ガレオンの話俺も聞いてみたかったしリムとの親子のコミュニケーションもばっちりとれるし」

「なんだ、仲間に入れてもらいたいだけじゃないか」

「…今気がついたが全くその通りだ」

「…お前の子供たちがお前に似なくてほんっとうに良かったと俺は神に感謝する」

「この話うちの子供たちには言わないでくれよ。俺にもプライドってもんがあるんだ、一応」

「さて、どうしたものかな」

「頼むから黙って聞いてくれ親友。ケーキおかわりしていいから」

「よしきた任せろ」



おやつで懐柔されるMr.チーズケーキ。王族をことごとくとりこにするガレオン。
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百鬼夜行
あっガレオン殿発見ー!

おーいと呼ばれてそちらを見れば自分の子供ほど年の離れている同僚が二人。
食堂のテーブルに向かい合わせに座っている二人が笑顔で自分に手を振っていた。
お食事まだだったら一緒にどうですかあ?と片方が言えば
ぜひぜひ!と片方が開いている席のひとつを手のひらで示す。
朝も早い時間であったので、彼ら以外には客らしき人影は見えない。
聞けば仕込み中であった料理長が気を利かせて簡単なものを出してくれたらしい。
彼は料理長に頭を下げ、彼は同僚に請われるまま席に腰を下ろした。

この二人は昔から、子供のように屈託のない笑顔で出迎える。
彼らが女王騎士見習いであったとき、彼が師であったからかもしれない。
戦いの腕は良いが性格行動に難ありと言われた彼らはそれはそれは問題児であったが、彼は彼らを教えることは楽しかった。そんな彼らが今や、女王騎士筆頭と呼ばれるのである。
感慨深い。


こんな時間からどうしてこんなところにいるかといいますと。
ま、偶然ですー。
偶然ついでに今から久々にミアキス殿と手合わせしましょうという話になって
そうなんですよぅ。カイル殿は最近手ばっかり早くなって、腕が落ちてるんじゃないかと思って。
えー、どうしてどうして?俺の最近の活躍っていったら凄まじいもんでしょ?
人妻に手を出すのはいけないと思いますけどぉ?
そっちの活躍は忘れて?


わいわいと身振り手振りも激しく楽しげに話す若者達を目を細めて見つめながら、彼は昔を思い出す。ソルファレナにやってきた人々のこと。目の前の二人が。若き騎士長閣下が。小さな姫たちが。そして、自分が。其れ位まで遡ってしまうと色々と思い出したくないことも出てくるのだが。いや、思い出したくないと言えば嘘にはなるのだけれど、そういうこともあったなあと客観視できるようになるには少し時間がかかったことが。

彼の無意識の葛藤はよそに、そういえば、と彼女がこぶしを打った。


「余計なお世話かもしれないんですけど、ガレオン殿再婚されませんかあ?」


握り締めたフォークを皿に叩きつけるところであった。


「ちょっと小耳にはさみましてえ。ねえ?」

「そーそー。偶然耳にしましてね。ぐうぜん」

「なんだかガレオン殿もお久しぶりに会われて、ちょっと思い直しちゃったっていうかあ」

「先生もまんざらじゃなさそうでしたしー」

「わたしはいいと思いますよお。だってほら、ガレオン殿にがつーんと言えるのって先生だけですしい」

「格好いいもんなあシルヴァ先生」

「あら?駄目ですよおカイル殿手ぇ出しちゃ」

「いやいや俺なんかはしにも棒にもかかりゃしませんて」

「それもそうですねえ」

「でしょ、でしょ」

「ですからね、ガレオン殿」

「俺ら、いくらだって協力しちゃいますからね?」


恋のキューピットって奴です

と声を揃える可愛い二人の教え子達を前にお願いしますと頭を下げようか勘弁してくださいと頭を下げようか、彼は逡巡することになった。
答えは決まっているのだけれど。

視線は意識をせずにそちらのある方向を向いていた。
自分でも分からないが、つまりそういうことなのかもしれないと彼は静かに諦めた。


















「こら二人とも。あまりがガレオン殿をからかうとお前らの雇い主に懲罰訓練激辛コース行きにされるぞ」

「いやーそれだけは勘弁して欲しいですう!」

「ゲオルグ殿も一度味わってみるといいですよアレ。ほんと生きててよかったと思いますよ」

「でもほらカイル殿。激辛コースならまだ大丈夫です」

「ま、騎士長閣下オススメコースよりは全くもってマシだよね」

「…お前ら、どれだけやんちゃだったんだ」



カイルとミアキス同期説+二人の師匠はガレオン説=大妄想 ミスターチーズケーキは最後の砦です。
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放歌高吟
本拠地に帰ってくるや否やそれじゃあお先にーと何処かに消えた不良騎士に何か言うようなやからは今のメンバーにはいなかった。王子は独立独歩の人であるため、女王騎士だろうとなんだろうと好きなことをすればよろしいという大変寛大な、同時に無責任な信念を持っていたのである。
だから女王騎士がナンパをしようが、酔っ払ってくだを巻こうが、朝昼夜三食チーズケーキを食べようが他人様に迷惑をかけなければそれでよしと言い放ち、自らも命の洗濯をしてくると風呂のほうへ消えていった。


それを見送ったのは女王騎士の二人。
カイルがかけていった方向には明らかに紋章屋の存在があることに気がつき、ゲオルグは懲りない奴だなあ呆れ半分で思わず呟いた。前に星の女王ことゼラセに手を出し半殺しにされたというのに紋章術の恐ろしさが分からないらしい。
その漏れた呟きに隣で王子を見送っていたミアキスはそうですねえと同意を示し振り返った。



「カイル殿のライフワークだそうですよお?」

「あんなことだからフェリドに目をつけられるんだ」



女王になるための儀式の為にルナスに向かったリムスレーアに付き添ったことを思い出す。
あの時もカイルは俺も王子と行きたいですと切望したにもかかわらず、フェリドの勅命により留守番させられていた。その妻はといえば心配しすぎですよと笑い飛ばしていたが。
ああ、あれが母親の余裕というものか。



「でもお、フェリド様も分かってらっしゃるようで、お気づきになってかったですよねぇ」

「何をだ?」

「カイル殿は絶対に姫様のこと覗きませんてことですう」

「ミアキス殿にしては珍しい台詞だな」

「カイル殿は絶対に振り向いてくれない人を選んでますからねえ」



最近カイルが一人熱く語っていた女性陣の名前を思い出す。


軍師の信奉者レレイ
年齢不詳詳細不明の美女ジーン
憧れの人妻キサラ




そしてサイアリーズ。





ぐうの音も出なかった。





「ねー?」





基本的に年下って手を出さないみたいですよ?レレイちゃんは年下だけど、性格が落ち着いてるからまあ別格ですかねえ。これはゲオルグ殿もご存知でしょうけど、カイル殿ってリオンちゃんや姫様のことそりゃもうものすごーく可愛がってるでしょう?もしかすると王子より可愛がってるんじゃないですかと思いますう。

我らが王子が自分の護衛や妹に対しどこまでもあっさりとした態度なのに比べ、彼はなんやかんやと世話を焼きたがり、しかしそれは決して押し付けがましいものではなく。どこまでもさりげなく。

実は女性より子供や老人に人気があるのだと彼女は言った。



「難儀な性格でしょお?」



ああ見えて、迫られると弱いんですよお。あ、ちょっと試しにルクレティア殿にお願いして迫ってもらいましょうか!


楽しそうに彼女は笑った。
目の前にもうその光景が見えているかのように。

彼にもその姿は想像しなくても目に浮かぶ。
困って後ずさりする男の姿と羽根の扇子を大きく広げ獲物を捕らえんばかりの女。
あれに勝てるはずはない。自分でさえ太刀打ちできない。





ミアキス殿、お前もなかなか難儀な性格だろうという言葉を彼は飲み込むことにした。
ここは女王国ファレナ。
男達にとって初めから明らかに負け戦なのだ。



淡白な王子。Mr.チーズケーキはルクレティア+ベルナデット=ケーキ友達。略してケー友。
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百家争鳴
「びしょうねんってどういうこと!?」


突然駆け込んできた戦友に二人の少年は顔を手元のカードから一瞬だけ顔を上げ、おうニックお前もやるか?今ねロイくんは全敗中なんだよ。うるせえ今取り返してやるよ。と言うだけ言い、再び視線をカードに戻す。
息を切らせて駆け込んだ少年はそんな二人の態度にあっけにとられた。
え、今本題を言いませんでしたか僕は。


「え、いや、その、僕の話聞いてもらえますか?」

「おう、いいぜ」

「どしたのどしたのー?」

「いや、この間から協力攻撃の練習してたでしょう?それを王子様が知ったらしくて、名前をつけてみたんだけど、これから使ってくれるかなって言われたんだけど」



まさか真顔で「命名、美少年攻撃」などと言われるとは思わなかった。
満場一致だったよと言う王子に、どこで、誰が、何のために決めたんですか!と思わず叫びそうになった。
というか、叫んだ。
王子その人は秘密と一言言い放ち返しただけだったが。
身振り手振りを交え友人たちに先ほど遭遇した出来事の情報共有をしてみれば、彼らはなんのことはない、とうなずいて見せた。



「あーなんかそんなこと言ってたな。軍師と決めたんだってよ」

「凄く楽しそうだったよねえ王子」

「いやきみらなんで落ち着いてるの?!やだよ僕これからそんな風に扱われるの!今ここに来るまでだってアーメスの女の人によう美少年!とか声かけられてお風呂まで引きずられていきそうになったよ!」

「役得じゃん」

「役得じゃない」

「いいじゃねえか、美少年」

「美少年だからって死にはしないよー」



女人禁制の場所で暮らし始めてもうしばらく経つ。
女性と話すことはおろか目にすることさえないような土地ですくすくと育っている彼にとって、アーメス出身の美少年ハンターは刺激が強すぎた。
のだが、山賊上がりと傭兵育ちの彼らにとってはなんのこともないらしい。
カルチャーショックを受けながらよろよろと空いていたベッドに腰掛けると、友人の一人がそういえばさあと思い出したように口を開いた。



「お前の先輩もなんか名前付けられてたぜ?」

「うんうん、そうそう。美青年攻撃?とかって」

「俺的にはあの人美女攻撃でもいいと思うけどな」

「えーあの人女の人だったんだー?」

「いや、なんか女装趣味だってよ。しかもそれが凄ぇ美人らしい」

「ふーん。世の中にはいろんな人がいるねー」



何事にも動じないんですかあなたたちは。
それとも3つ4つの年齢の差が物語る大人の余裕というやつなんですか。
ああそれにしてもラハルさんバレてます。あなたの趣味バレてますよ。
それを本人が知ったところで「それだけ俺の技にも磨きがかかったな」とか喜んじゃうだろうけど。

彼が13年使用してきた脳みそをしっちゃかめっちゃかにしながら頭を抱えていると、そんな年下の彼の様子を物珍しそうに見ていた二人は顔を見合わせ吹き出した。



「頑張れよう美少年。今度同じやつに風呂誘われたら俺も付き合ってやるから」

「頑張れ頑張れ美少年。そんなにアレならみんなで女の人の格好して美少女攻撃にしようか」

「お前みたいにマッチョな女がいてたまるかよ」

「それもそうだねー」



笑いながら肩を叩かれ、俺らはつまり将来有望ってことだと断言され、少年はなんと前向きな人たちなんだとしみじみ思った。






女装するのはいやだなあ、とも。






今回の協力攻撃はいたって真面目ですね。リヒャルトが美少年なことに驚きました(ファンを敵に回した)
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盗人上戸
あら、センセ。そんな切羽詰った顔しちゃってどうしたんですか。やぁだ、寝ぼけてるんですか?そういえば作戦会議はどうだったんです?大きな戦が終わったばっかりなのにまたお仕事忙しくなっちゃいますねえ。きちんと買出ししておかないといけないですよ?この間みたいにシグレちゃんに大急ぎで雑貨屋さんまで走ってもらわないといけなくなるんですからね。ああ、あのときはおかしかったですねえシグレちゃんがあんなに慌ててる姿は初めて見たんじゃないかしら。そうだ、さっきキサラさんからおすそ分けでお魚いただいたんですよ。ほら、センセの好きな白身のお魚。明日のご飯は塩焼きにして、大根おろしをそえましょうね。センセも今度会ったらちゃんとお礼言ってくださいな。あら?センセ?どうしたの?そんなにお魚が楽しみなんですか?はいはい、こんな近くでなくたって聞こえますよ!もう、しっかりして下さいな。大丈夫ですよ、お魚は逃げないですし、私も逃げたりしませんよ。大体今の状態じゃコーヒーカップひとつ動かせないでしょう?ほらセンセ、明日もお仕事ですよー!早くおやすみなさーい。












男がアルコールに負けていた。
人間がアルコールに負けると突然泣いたり笑ったり意識を飛ばすものらしいと知識としては蓄積されていたが、この探偵事務所所長がそれに当てはまるとは。
ふらついた足取りで部屋に足を踏み入れ、出迎えた彼女にすがりついたままなにやらぼそぼそと呂律の回らぬ言葉を発している。あの明快で痛快な物言いはどこへやら。前向きで強引な頼もしい男は何処へ消えた。


にんげんであったのだ、この人も。


ちょうどその時その場にいなかった相棒にその話をしたところ、そりゃああれだろ、と即回答が返ってきた。こないだでかい戦争があったろ?
ああ、と彼女は納得した。

先日、町を取り戻すための戦いにフヨウが参戦した。
勿論武器を持って戦うわけではなく、兵士達のフォローとバックアップのためだったが戦場に彼女は足を踏み入れた。それも、自分達には何も言わずに。幸いなるかな彼女は無事に帰ってきた。みんながお仕事をしているときに、私だけぼんやりしているわけにはいかないでしょ?彼女は当然のように言った。シグレは慣れないことすんなよとぼやき、サギリは思わずフヨウの手を握った。まったく、仕事熱心なのも考え物ですねと我らが先生は飄々とした態度で、笑っていた。


彼女は目を伏せた。



あのひとのおかげでにんげんになれたのか。





こどもたちにはバレバレ
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夜雨対床

よろしければどうぞ城にいらしてください、とその手紙には書いてあった。
ファレナの王子の本拠地である謎の城が突然その部屋数を増やしたらしい。
所長が引越ししましょうと即決したことを、彼は珍しく英断だと心の中で褒めた。
今や仕事の中心はその王子からの依頼なのである。仕事場とねぐらが近いというのは大歓迎であった。


今の私達の状態だとどんな危険な目に会うか分かりませんからね。何か会ったときすぐ連携がとれるように王子が気を使ってくださったんでしょう。ありがたい話です。

危険な目?

いや、私達は平気ですよ。それは分かっています。

フヨウさんが危険な目に?


サギリの純粋な疑問に、彼は飄々とした態度で、まさか、そんなことはありえませんよと微笑む。
微笑んだまま、机を挟んで座っているシグレとサギリの方へぐっと身を乗り出した。


だってうちの調査員達はこう見えてとてつもなく優秀ですよ?何かに巻き込まれそうになるまえにきちんと片付けますからね。万が一彼女が危険な目にあったとしても、ただじゃおきませんよ。まあ首謀者は生かしたまま捕縛してこの船に担ぎ込まれたが最後ちょっとお話を聞かせていただくことになるでしょうがね。ええそれもフヨウさんが無事でいた場合ですよ彼女に傷ひとつつけてごらんなさいそんなことしたらその方達は全員お仕置きですよ。あんまり使いたくはないですが秘蔵のアレとかコレとか出しちゃうかもしれませんね。いやいやお話を聞くだけですって。反省していただくためにちょっと痛い目見ちゃうかもしれませんが。ねえ、二人とも?

うん。

おっさん、書類、書類。





素直に同意を示す彼女の横で、彼は探偵事務所所長の手の中でぐしゃりと無残に握りつぶされた紙の束を哀れんだ。ああ、お前が握り締めてんのは俺の苦労の塊なんだけどおっさん。

助けを求めて彼の視線は無意識に我が住家である船の二階に注がれる。
洗濯物を干しているのだろう、朗らかに鼻歌を口ずさむ彼女は確かに、いつだって自分達の中心に真っ直ぐに立っている。








「あらあらセンセ、書類がくしゃくしゃですよ!」

「おや?こまりましたねえ」

「俺は絶対書き直さねぇぞ」






こどもたちのまえではもうちょっとしゃんとしてくださいよせんせい
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沈魚落雁
この度も酷い戦であった。
ファレナの豊かな恵みを欲する他国の気持ちも分からないでもないが、ちょっとは俺に家族サービスする時間もくれよと嘆くのは彼よりも10以上年が上の女王騎士。彼がそんな軽口を叩くのは、同僚が一人として欠けなかったことに対する安堵でもあるのだろう。女王騎士は女王の盾となり矛となり死ぬのが定めだとしても。前回の戦で最年長であった騎士が斃れてから、今では軽口を叩く彼が最年長である。
男は同僚一人ひとりの肩を叩いて回っていたが、彼の肩を叩こうとしてぴたりとその動きを止めた。
彼がどうしたのだろう、自分は何かしただろうかと疑問を浮かべていたところ、男はやれやれと息を吐いた。

まぁたお前派手にやらかしたなあ

自らの視線を下げれば肩から腕にかけて裂かれた女王騎士の制服。じんわりと広がる赤い色。 これくらいなら特に手当てなど必要ないでしょうと返せば馬鹿めと頭をはたかれた。

これだから真面目すぎるっていうのはだめなんだお前がその怪我放って置いたら俺がいろんな人から叱られるんだ頼むから行ってくれお前は将来有望なおかつ今でも十分優秀な人材なんだから体という資本を大切にしてくれよ。

褒められているのだろうと思ったので、有難いことですと頭を下げればそんなことしてる間に早く手当てしてもらってくれようと大げさに嘆く。このあいだお前が俺をかばって顔をやったことあったろ?あのときだって女王にこっぴどく叱られるわ姫様がたには泣きつかれるわお医者先生にはどやされるわもう散々だったんだ、俺はお前の命と俺の平安を守らなくちゃあいけないんだ。さあ早く救護室に行け、そこで強力な消毒液でも浴びて悶絶して来い。 年長者のお願いだよ。
男のそんな必死な態度に彼は笑いそうになったが、怪我を心配してくれているのに笑うとは何事かと自分を戒めそれでは行ってまいりますとくるりと背を向けた。
その背にかかるのは美人のお医者先生によろしくなの言葉。


ああ、そうだった。
彼は頭を抱えたくなる。
男の言うところの"美人のお医者先生"はファレナ軍従軍医師の長をやっている人物である。まだ若い女性の医師ということもあり、兵士たちにはなんだかんだと理由をつけては救護のテントを覗きに行くが大抵用がないならさっさと出て行けでくの坊どもと蹴っ飛ばされる。
彼は件の年上の同僚をかばって顔をざっくりと切りつけられたときに初めて出会ったのだが、自殺願望者なのか、命をどぶに捨てるマネをするなら最後まできっちり捨ててこいなどと散々言われたものであった。
しかしそれでいてきちんと最後まで面倒を見てくれるあたり、医師として優秀なのだろうと彼は思う。それにしても。

裂かれた左腕を見る。
緊張が解けたためか次第にしびれるような痛みが走り始めた腕を見て、彼は思う。
そんなに腕がいらないなら切り落としてしまえといわれるだろうなあ。
だがしかし、彼のその言葉の少なさが反論を許さないのである。
本気で消毒液をぶちまけかねない彼女の元に足を進めるしかなかった。














「あーっ大丈夫ですかーガレオン殿!」

「あら?あらあらあら?大変ですねえ。ここはいいですから早く診て貰ってくださあい!」

「なんすかその顔。いやいや大丈夫じゃないですって!ガレオン殿怪我させたまま働かされたなんて王子や姫に知れたら俺クビ飛ばされちゃいますって」

「そーですよう。この間だってガレオン殿がカイル殿かばって怪我しちゃったときなんてそりゃあ凄かったんですよう?」

「あの王子の目見せたかったですよー?俺普通に3回は射殺されましたよあの視線」

「だからあ、早くシルヴァ先生に診て貰ってくださあいー!」



彼女も年をとったのか、あの鬼医者と呼ばれていたその姿はすっかりなりを潜めたらしいと話は聞いている。態度はふてぶてしいものの、弱きを助ける優秀な医者だという話である。
だが、その本質は変わらないだろう。彼に突然何を思ったか求婚してきたそのときも、別れを告げたそのときも、彼女は彼女であった。どこまでも淡々として、どこまでも力強い。
こうなれば消毒液でもなんでも来いと心を決め、彼は医務室の戸を叩いた。



















「あっれえゲオルグ殿どうしたんですかー?そんな生魚丸かじりしたみたいな顔してー」

「いや今医務室の前を通りかかったんだが、なんだか物凄い音を聞いてな…」

「どんな音ですう?」

「なにかをバケツでぶちまけたような」

「はぁ!?」






ガレオン若いころ。上司にカイルみたいなのがいればいいなあ+シルヴァ先生若いころはツッパリハイスクールロケンロール医師
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天空海濶
決着をつけなくてはならないことがあり、愛しき我が家をあとにすることに決めた。
それはいい。
自分で決めたことだし、皆には話をしてある。
それはともかくとして。

彼は我が物顔で事務所のソファを占領している男を見やる。
面倒なことに事務員調査員共々外出中であり、今この空間には探偵と怪盗しかいなかった。
ああ、こんなときにフヨウさんさえいれば、と彼は思う。
熱烈歓迎で何か甘いものでも与え、適当にあしらってくれるものの。

いや、今はいい。
まだ自分がいる今であればいい。
とにかく釘を刺しておこうかと、彼はしぶしぶふんぞり返る怪盗に話しかけた。



「あのですね、カラスくん」

「カラスと呼ぶなと言っているだろうが!」

「君が私のいない間に間借り人として居座るのは構わないですけどね。うちの人たちを妙な事件にに巻き込まないでくださいよ?」



君という人は呼吸しているだけでも厄介ごとを持ち込んできますからね、さらりと無礼な台詞を吐いても、この自称怪盗は一向に気にした様子がない。俺様のいるところに厄介ごとが起こらなくてどうすると逆に胸をはった。



「ふふん、その程度の浅はかなことしか考えないのか探偵。この俺様がいることでここにどれだけ恩恵がもたらされるか考えてみるのだな!!」

「はぁ」

「俺様は貴様のとこの事務担当から頭下げて頼まれたのだ!毎日ここへ来てくれとな!」

「はぁ?」

「つまり、貴様がいない間俺様に毎日ここへ来て飯を食って行けとお願いされたのだ!」

「それは頼まれたの範疇に入るんですかねえ」

「しかし俺様ほどの大怪盗がただ飯を食うというのも癪だからな!怪しいやつがきたときには俺がたたき出してくれようと思っている。まあ用心棒のようなものだな。どうだ!貴様には思いつかない名案だろう!!」

「君が一番怪しいやつですけどね」

「と、いうわけだ!貴様などいなくてもここの連中はやっていけるというわけだな!」



ざまを見たことか、貴様程度の探偵などどこへなりとも行って好き放題やればいいぞと高笑いし、瞬きもさせない素早さでどこかへ消えた自称大怪盗を見送り、探偵はため息をつく。

あんな人間ではあるものの、男の言い分はきっと正しい。
彼らなら、自分がいなくても十分やっていけるであろう。
それは嬉しいことであり、同時に寂しくもあるのだが。

いや、正直な話かなり寂しい。

我が愛すべき探偵事務所事務員の彼女は来る者拒まず去る者追わずを人型にしたような人物である。だからここのところ毎日のように現れる怪盗に、ついでにご飯を一緒にどうぞ?大勢のほうがおいしいですからねなどと言ったに違いない。
それは分かっているのだが。

帰ってきたとき自分の居場所がなくなっていたらと考え、彼はまだ訪れていない未来に震えた。











「ま、出稼ぎに出る父親の宿命だな!!娘にお父さん近寄らないで汚いわ!と罵られ妻に邪魔だからどこかにいけと宣言され息子には親父うざいと相手にされなくなればいい!わーはははは!」

「…まだいたんですか君」

「こらレーヴンちゃん!人の悪口ばっかり言ってると今日の晩御飯抜きにしますよ!」



フヨウさんはいつもタイミングよく帰ってくる人だといいなあと思いつつ。
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鳶飛魚躍
女の突然の発言に、男は手にしていた書類を落とした。
いくらかまとまった量のあったそれは足元に落ちる前に散らばり、床を白く染め上げる。
子供たちは寝てしまったのか、二階からは物音ひとつしない。




その小柄な体と同じくらいの鞄を抱え、彼女は突然やってきた。
日はすでに暮れている。
依頼の報酬を支払いにくるには大荷物である。
旅行にでも行くのかとただ単純に男は考えた。

大荷物を何のその足取りも軽くやってきた彼女は荷物をぽすんと足元に置き、中から迷いもせずに封筒を出して彼に渡すと、ところでものは相談なのですけれど、と口を開いた。
そして男は書類を落とした。
あらあらセンセ、どうなさったのと首を傾げつつ散らばったそれらを救出すべく彼女は迷わずしゃがみこむ。
彼女が男のことを先生と呼んでいるからだろう、男をどう扱ってよいかわからなかった子供たちもそれに習うように彼をそう呼び始めた。今までどこか一線を引いていた彼らとの壁がほんの少しでも薄くなったことを思い、彼はただただ喜びを感じていた。小さなことからこつこつやっていかないと。探偵としても重要なことだし。
ふと我に返ればあっという間に紙の束を作った彼女が顔を覗き込んでいた。

ようやく頭に血が通う。
ようやく全ての筋道が通る。



フヨウさん。まさかあなた、その荷物は。

ええ、そうですよ。昨日そう言いましたでしょ?ここでお手伝いさせてくださいって。いいですよっておっしゃったじゃないですの、センセ。

いやいや、まさか、本気だとは。

あらあら、思っていらっしゃらなかった?

いえ、その、あなたはまだ若くて可愛いお嬢さんですし

まあセンセ!そんなに褒めてくださって!

私はもう三十路に足を踏み入れてますし。

働き盛りでいらっしゃいますねえ。

因果な仕事ですから、毎日平穏無事というわけにはいかないかもしれません。

今の世の中、完全に安全な場所なんてないでしょうねえ。

これからいい人を見つけて幸せになる機会がいくらでもあります。




彼女は何を言うのかと思ったら、と笑う。お父さんみたいなこと言いますねえセンセ。
ご迷惑ならそう言ってくださればいいのに!
迷惑では決してない。勘違いをしてはいけない。
迷惑を被るのはそれを笑う彼女その人なのだ。

しかし彼女は諦めない。




センセが二人のお父さんなのでしょう?私がお母さんになれればいいんですけれど

…は?

あらセンセがお母さんでもいいですよ?

…いやそういうことではなくてですね。

私も混ぜてくださいな。一緒に頑張っていきましょ?




それに実家の家族にもお前とはもう親でも子でもない!って言い切られちゃいましたからねえ、ここへおいていただけないとなるとそのほうが迷惑を被りますわねえ。

ああ、と彼は天を仰ぐ。
新しい家族を作るために今ある家族を失くすなんて。
自分の責任は重大であることを再確認せずにはいられなかった。
こういう期待をかけられることにはまったく慣れていなかった。












あーやっぱあの船が一番落ち着くかもしれねえな。

彼のうっかりこぼした言葉にくるりとおとなが振り返った。
その表情はからかう気持ちが前面に押し出された笑顔。



やだなあシグレくん。それはホームシックというんだよ。

あらあらシグレちゃん、寂しくなっちゃったの?ほらそんな顔していないでこっちいらっしゃいな?

いやあ嬉しいですねえシグレくんもそんな風に思ってくれるなんて。

やだわあセンセ、泣かないで下さいな。涙もろくなってらっしゃいますよ。

いやあいろんなことがあったなあと思いましてねえ…。あのころのシグレくんはそれはもう…ねえ?

まあそんなお年には早すぎますよ!



やかましいわ鬱陶しいわと食って掛かる彼をおとな二人は笑顔でかわし、いつの間にか入り口に立っていた娘を出迎える。


サギリちゃんお帰りなさい
サギリさんお帰りなさい


ほらほらサギリさんも言ってあげてくださいよシグレくんは恥ずかしがり屋でいけませんよねたまには素直になったほうが得ですよ人間サギリちゃんお疲れ様でしたさあさおやつにしましょ今日は新作デザートに挑戦してみたのよほらセンセもいつまでもシグレちゃんをからかっちゃいけませんよ!

デザートだとその笑みをほんの少しだけ鮮やかにして、彼女は目にも留まらぬスピードでソファに収まる。
彼はその横にしぶしぶ、といって態度を作り腰を落とした。



サギリちゃんはお父さん子でお母さん子。シグレくんは遅い反抗期。
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千古不易
わいわいと何が楽しいのか楽しそうに自分にまとわりつく少年がいた。
この軍に加わってからこの城の中で友人(だかつるんでるだけだかは知らないがとにかく似たようなものが)できたらしく、ロイくんとニックくんに剣の特訓つけてくるねーだの王子と喧嘩してくるねーだの言いながらどこかへ出かけることが多くなっただけまだましだとは彼も思うのだが。
最近は彼自身も慣れてきて、この少年がまとわりつこうが歌を歌おうが踊りだそうが全く視界に入れないという技を手に入れたとはいうものの、傭兵団の財産管理等々細かい仕事のときはさすがに気が散る。
ここのところ金棒一撃程度じゃ黙らなくなってきているし。

そういうときはとにかく外に出す。自分が出てもついてくるので少年自身で外に出るということが重要である。そして少年自身を外に出すにはちょっと遊んでこいというのが重要である。(少年は遊ぶという言葉にとても弱い)



「あーうぜえ今すぐお前外出ろガキどもに遊んでもらえそのままついでに帰ってくるんじゃねえ」

「はーい!晩御飯の時間には帰ってきまーす!」



人の言うことを半分しか聞かず、しかし元気いっぱいに返答する少年と入れ替わるようにして入ってきたのは我が傭兵旅団隊長。お前らはまったくうるせえなあと笑いながら今にも駆け出しそうな少年に声をかけた。



「お、リヒャルト出かけるのか。喧嘩ふっかけんじゃねえぞお」

「売られたらどうすればいいのヴィルヘルムさん」

「売られたら思う存分買ってよし」

「はーい!行ってきまーす!」



元気良く駆けていく後ろ姿を見ようともせず、彼は思う。
あれはもうそろそろ、少年と呼べるものではないのだというのになあ。
いい加減どうにかならないものかと部屋を出たほうのことを考え彼がため息をつくと、部屋に入ってきたほうがにやにやと笑いながら見下ろしていることに気がついた。
この男はいつだって楽しそうではあるのだが。それは部屋を出たほうと同じように。



「いやあそれにしてもよう」

「なんだ」

「お前の母親っぷりも板についたもんだなあ」

「殺すぞ」

「あっミューラーさんミューラーさん今日の晩御飯はなあにミューラーさん」

「即戻って来んな名前を連呼するんじゃねえ消えろ」

「えっじゃあおかあさん!」

「うまい!そこでそう返すとはお前も成長したなあ!」

「あははーでしょでしょー?」

「殺すぞ!」



愛用の獲物を手にとりどっちから先に食らわしてやろうかと振り上げれば、危険が迫っているというのにわあわあと楽しそうな声を上げ二人の人間は部屋の外へ飛び出していった。
もうどれだけこんなことを繰り返しているのやら。

ようやく静かになった部屋の中に一人残った男は、とりあえず部屋に鍵をかけるべく椅子から立ち上がった。



結構キレやすいデンジャラスなお母さんと包容力ありすぎ(別名;適当)なお父さん。
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