そのとき彼の目の前に顔を真っ赤にし、怒りに震える女が一人が現れた。





…………怒り?






















「ちょっとククール!その人は誰よ!?」

「いや、誰って、今出会ったばっかだから名前も聞いてな」

「ひどいわ!私というものがありながら!そうやってほかの女の人にコナかけるのね!?」

「ちょ、ちょっと待ってゼシカちゃん。今凄いことさらりと言ってない?ねえ?」

「あなたがそんな人だなんて知らなかった…!私のこと愛してるって言ったじゃない…!!」

「えっ嘘だろなにこれ、夢?マヌーサ?メダパニ?」

「ええ、本当は嘘。私、あなたがそうやっていつも綺麗な女の人と一緒にいることくらい知ってたわ…」

「そこか、そこが嘘なのか!?」

「それでもあなたを信じてた私が悪かったんだわ…!ああ、もう何も言わないで!」

「い、いや、何も言ってないですが」

「さよならっ!」






手のひらで顔を覆い、涙をこぼして去っていく彼女の後姿。あっけにとられてそれを見送れば、ばたんと扉が閉じたとたん、雨よ霰よと飛んでくる酔っ払いどもの野次。酒場の女たちの罵り。今の今まで彼の隣で笑顔で給仕をしていたバニーガールも早く追いかけなさいようと怒りを見せる。女の子泣かせるなんてなんて最低だあ。兄ちゃん女泣かせだねえ!この人でなしの色男ー!男として最低でげすな!そうだそうだ!
ちょっと待て今素晴らしく聞き覚えのある声が聞こえたぞ。ジョッキを落とさん勢いでカウンターから振り返れば酔っ払いどもの中心で
「ああ、君が彼女だけを愛すると神の前で誓ったのはうそだったというのか!?」
「人として最低でげすな!」
主張をする青年と中年。ええい何を言うかいつどこで誰がそんなことを言ったんだと怒鳴り返そうとしてふと蘇るきみだけをまもるきしになる。あー言ってる。ある意味言ってるよ俺。しばし固まってしまった彼の元にすっと近づいてきたのは酔っ払いの扇動者の片割れ。バンダナを巻いた頭をやれやれと振りながら、ゼシカを泣かせるなんてなかなかできないぞおとわざと重々しくのたまう。
その態度に何か言ってやらないとと何とか言葉を搾り出す。絞り出たのは立った一音。






「…で?」

「どんなにパーティが財政難でも君が酒場に貯金しちゃうもんだからね、ちょっと懲らしめてやろうと思ってね」

「…ああ、大分懲らしめられたよ」

「お酒はほどほどにしましょうね。むしろ しろ

「…はい」







いつの間にか酒場中に巻き起こっていた帰れコール。ヤンガスの野郎ここぞとばかりに俺の悪口言ってやがるな。しかしたかが酒代だけでここまでするか。…するのか。こいつらだからしてしまうのか。おそらく立案者は某国国王に違いない。あのおっさんめ。彼がそこまで分析したところで、女を不幸にする男は出ていきな!と大分安心感のある身体つきの女将につまんで外に放られた。












外は雪。
泣いていたはずの演技派の彼女は子供たちに混じって雪だるま製作に精を出していた。やれやれ。