「聖堂騎士団って決まりごとはないの?」

「そりゃ、あるに決まってんだろ」

「例えば?」

「あー色々だよ。朝は早起きしろだの真面目に働けだの」

「夜遊びはするなだの?」

「そりゃ当たり前すぎて規則にもねえな」

「それに比べれば僕らなんて全くもってらくちんだ」

「せっかくあのうるさいところから抜け出してきたってのになんか決まりがあんのかよ」

「そりゃああるさあ。お金大事に、酒は飲んでも飲まれるな、汝夜遊びしすぎるなかれ」

「それ、俺限定だろ」

「汝夜遊びするなかれじゃないだけ思いやりだと思ってよ。ま、次の日に響かせなきゃなにやったっていいよ。あ、お金は無駄遣いしたら串刺しにするけどね」

「歯ぁ見せて思いっきり笑顔で言うな。あー旅に出たってのにいちいち細かい話だぜ」





















「そんなことも言ったね」

「忘れてたのかよ…」

「だってはなから守るとは思ってなかったもの。というか、守ってなかったろ!」

「騎士団から開放されたってのに遊ばねえ手はないだろ」

「騎士団いるときより遊んでないような気がするけどなあ」

「なんでお前が知ってるんだよ」

「ドニの酒場のおねーさんが言ってたよ。昔はそりゃもうとてつもなくじ」

「うるせえ」

「でもって物凄いテ」

「それ以上言ったらザキかますぞ」

「それがどうしたんだ最近。あんまり酒場に行ってないみたいだし、夜も出歩かないし」

「どの口でそんなことをいうんだよ!金がない金がないって散々言ってたのお前だろ!」

「まさか言うこと聞くとは思わなかったんだよ!」

「俺も我が身がかわいんだよ!」

「でも意外と楽しそうだからよしとしようね」

「何がだよ。何をだよ!」

「アルコールが入らなくったって楽しいことはあるということです」

「最近はそれどころじゃねえだろ…。お前本当に世界を救う気あるのか?」

「に、してもだ」

「救う気ゼロだな」

「楽しそうでなによりだよ。何か目標があると人は輝くね」

「毎日毎日呪文の練習は楽しいなあ!楽しくて死にそうだね!!」

「で、ゼシカは回復呪文覚えそうなの?」

「あーありゃ当分駄目だな。ホイミひとつ唱えられないんだから先は長いぜ?」

「そりゃ大変だ。ゼシカの最終目標ザオリクだもん」

「はぁ…?マジかよ!?」

「マジマジ。大真面目。ククールがぶっ倒れてもすぐ復活させられるようにって。ククール打たれ弱いからいざってときのために覚えなくちゃ!…って張り切ってたよ」

「最後が余計だっつうの…あんにゃろう、今日は寝かせねえ」












ホイミの呪文暗記するまでな!と分厚い呪文書を手に、彼はわき目も振らず宿の階段を上っていく。
彼はあの台詞だけ聞いたら確実に「汝夜遊びするなかれ」だよなあ危ないなあああいうことをさらりと言って自分が何言ったか気がついてないんだから危険だよなあセクハラだとつらつら思い、ふと今まで友人が座っていた席に残されたボトルとグラスを見る。
ワインかと思っていたそれが唯の水だと気がつくまで、そんなに時間はかからなかった。