たべる

いちのおとこ

久しぶりにそちらにお邪魔することになりましたと大変晴れやかな電話があり、では時間があるのであれば寄ってくださいと返したのはつい先日のことであった。仕事が終わったその足で出向いてくれたらしいスーツ姿の彼女に軽い気持ちで寄ってくれなどと言ってしまったのは申し訳なかったかと謝罪すれば、そんなことはありません!本当に!本当ですから!とどこか必死に彼女は否定するものだから、あなたは相変わらずお人よしですねと男は微笑んだ。
その時彼女が一瞬押し黙ったことと、そのあと居室に招かれた彼女の少しふらついた足取りを見て男は少しだけ心配になった。これは疲れているのだろう、現代社会においては疲れることもあるだろうと男は静かに思い、あなたは少し甘いものをとったほうがいいですね、とケーキを皿にとって渡した。


目の前に座る彼女はそれはそれは楽しそうに笑顔を浮かべ、友人たちの近況をあれやこれやと話していた。しかし尽きず話を続けているにも関わらず目の前に置かれたチョコレートケーキはその大きさをあっという間に小さくしていく。喋るか食べるかどちらかにしなさいと言いながらも、男は静かに相槌をうった。なんにせよ、二人でこうして会うこと自体久しぶりであったから、それくらいは目をつぶろうと思ったのである。唯静かにその話を聞いていた矢先、彼女はああそうだ、こんなことがあってと少し怒ったように勢い込んで口を開いた。

それでですね、あの馬鹿本当に何考えてるんだか知らないですけど後先考えないで弟に口出しするものだから余計話がこんがらがっちゃうんですよね。ちょっと考えて行動すればいいのにその場のノリというか勢いというかそういうもので動くからあとで周りが大変なんですよ。全部が全部間違ってるわけじゃないのがちょっと悔しいですけどね。

この場にいない共通の友人(友人と言っていいのだろうかとは男も思うのだが、昔の敵は今の友である。一応友人でいいのだろう)の話を悪口9割その他1割で一生懸命話す彼女に、男はなるほど、と相槌を返し昔のあなたに少し似ていますね、とうっかり零した。
その昔、100年以上前のことにはなるが彼女の行動力ときたらとてつもないものだったと彼は振り返る。たとえ上司の意向があったにせよ少年のような格好をし馬を駆り剣を携え先陣をきっていた彼女を思えば行動力の塊と言っても過言ではないだろう。

1人納得しながら言葉を発した男はそんなつもりではなかったのだがその瞬間何かとてつもないものを刺激してしまったらしく昔は昔ですから!と彼女は顔を真っ赤にして主張した。あのころの私は間違いなく私なんですけどそれを恥じるつもりはこれっぽっちもないんですけど!いや、でも忘れて!忘れてください!少なくとも貴方は忘れてください後生だから!ぽこぽことたつ湯気が見えんばかりに色々な感情を織り交ぜた顔で主張する彼女に、兎に角落ち着いてお座りなさい。そんなに大きな声を出さなくても聞こえますと淡々と返せばそこで自らの失態に気がついたのか、はたと動きを止め電池が切れたかのようにすとんと席に着いた。
そのまま頭を抱えて静かになってしまった彼女に、もし良ければ送りますから無理をしないで帰りなさい、疲れているのでしょう?と声をかけながら男は思う。





あれはあれで可愛らしかったと思うのだが、何を気にしているのだろうか?















にのおんな

ああなんでわたしはこんなはなしをしているの格好だってスーツだなんて見慣れていてつまらなかったかもしれないしほんとうはもっとかわいい格好できたかったのにあの上司ときたら「着替えている時間がもったいないんじゃないか」だなんてなんとまあ夢もへったくれもないことをいう。確かに会議は大事だし仕事は大事だしそのために私はいるのだけれどそのあとのスーパーご褒美タイムにまで口をはさまないでほしい。ご要人方に脅迫もとい半ば無理やりお願いするようにしてこちらで会議を開いてくれるようお願いして帰る時間を調べに調べてようやくもぎ取った数時間なのだからどうにか有効に活用したいのに!大体お人よしだなんて見当違いです!わたしが!わたしのために!勝手に押しかけたんですからお人よしはどっちだって話ですか。ほんとあんなところでいきなり笑うだなんて心の準備できてなかったわ心臓止まるかと思ったとまるとどうなるのかわからないけど!というか心臓って動いているの?
一息でそこまで考えたところで急に無言になってしまったらしい自分を心配してくれたらしい彼から「無理をしないで帰りなさい」などという死刑宣告にも等しい一言が発されこんなことではいけないと彼女は強く手のひらを握りしめる。こんなことではいけない、わたしがどれだけここにいたいかということをわかってもらわないといけないわ!
目の前に置かれた華奢なコーヒーカップをおもむろに持ち上げミルクも砂糖も入れていない香ばしく苦いそれを一気に飲み干しケーキの残りをごくりと飲み込み、そして言った。


「疲れるなんてことはありません!ここにいさせていただくことでむしろ今みるみる回復中ですから!」















さんのこども

こんにちは!姉ちゃんが遊びに来てるって聞いたから、俺も来たよ!と元気よくドアを開けた青年の姿をしたものは、銀のフォークをを高々と掲げ仁王立ちをする姉のような人と、コーヒーポットを片手に「分かりましたからお座りなさい」と叱る兄のような人がなぜか睨みあう姿であった。決して見つめあうというような空気ではない。空気を読めないと評判の俺だってそれは何となくわかっちゃうよ。あれ、二人で素敵なデート中って聞いたのになんでこんな展開になってるの?それともこういうなにかのプレイ?
素敵なデートに乱入しようとしたことも忘れ勝手なことをもやもやと考えていた青年はその直後、悲鳴とともにどこからか出てきたフライパンによる物理的な攻撃とどうして貴方と言う人は部屋に入るときノックが出来ないんですか、いつから注意していると思っているのですというお小言による精神的な攻撃を同時に食らうことになるのだが、不幸なことにそれを止めてくれる第三者はその場にはいないのであった。













某東欧夫婦。
この二人の関係は完全にねえさんのほうが貴族を好きで好きでしょうがないんですけど
貴族自体はそれに気がついてないというひどいにぶさが大変好みです(ひどい)。
しかし貴族も貴族で「お前あの子のこと好きなんだろ!」みたいなこと他の人から言われると
「なにをいまさら」とさらっと返すというはなしですよ(注意:大妄想です)

リクエストありがとうございました!