House the Curry 〜スープとライス(おかわり自由)〜



彼にとっての衝撃のニュースとカレーが出された日から幾月か。
嫁さんは相変わらず元気に仕事に出かけ、元気に帰宅し、休みの日には元気に遊び回っていた。
夫は相変わらず日中ぐうたら過ごし、それでも家事はこなし、休みの日には元気な嫁に連れ回されていた。
前と全く変わらない生活サイクル。

二人は全く、何事もないように暮らしていた。







はずだった。






いつ頃からだろうか。
彼女の、だいぶ大きくなった腹を抱ええっちらおっちら危なっかしく玄関前の階段を上る姿だとか、リビングにだらしなくごろごろと寝転がる姿をいつもぼんやりと眺めているうちに、彼はいつの間にか頭痛を覚えるようになっていた。響くような頭痛。たまに寒気。酷いときには吐き気まで。
ああこれは季節の変わり目に引く風邪かと彼は自己完結することにした。
どうせ外になど買い物ぐらいしか出ないわけだし。問題はない。





彼の心の底までぐうたらの血が問題なしと勝手に判断して、そのままの生活を続けていたがさすがの彼も顔色までは隠せなかったらしい。気がつけば夕食時、じっと自分の顔を見つめてくる彼女の視線に気がついた。
彼女は口いっぱいにサラダを頬張りながら、顔は心配そうに口を開いた。





「ねえねえ甲太郎くんさ、ここんとこ顔色悪くない?」

「そんなことねえよ」

「そうかなあ。心なしか目に輝きもないし」

「死んでるぞ。俺それ死んでるぞ」

「飲み過ぎ?」

「飲んでない」

「二日酔い?」

「だから飲んでない」

「えええじゃあなんでだろうねー。明日一緒に病院行く?」

「絶対行かない」




何が悲しくて少しばかり気分の悪い夫が健康そのものな妻に連れられて産婦人科に行かねばならないのか。
大体病院に行くほど面倒なこともない。駅まで歩いて、電車に乗って、長い時間待たされて、なんだかんだ言われて、電車に乗って、家に帰るなどという行為をするぐらいなら家で内職をする方がまだましだと彼は大変後ろ向きなことを考えながら、取り皿に新たな野菜を盛った。















次の日。

意気揚々と病院に出かけていった彼女が買い物に出かけていた彼を笑顔で出迎えた。
彼はその笑顔に思わず少しひいた。
理由は分からないが、とにかくなにか、嫌な予感。





「おかえりー」

「…ただいま」

「やっぱり元気ないねえ」

「いや…」

「あはは、まあ落ち着いてカレーでも飲みたまえ!スパイスは何杯?」

「コーヒー感覚でカレーを出すな!ついでにスパイスを後入れするな!!」

「じゃあ久々アロマでもいっとく?」

「それはとうの昔に卒業しただろうが!」





ああそれだけ元気なら大丈夫だねと彼女は律儀にもコーヒーカップにカレーをつぎながら笑う。
あのねえ甲太郎くん。今日病院で先生に聞いたら甲太郎くんの病気がわかったんだよ!要するに昔遠足でバスの中で一人がなっちゃうと伝染しちゃうアレなんだって。あの旦那さんがって先生爆笑してたよ!そんなこんなで今日は旦那さんの体を気遣った優しいお嫁さんの気配りメニューだよ。はいどうぞ!





勢いで受け取ってしまったカップには全く隠れていない梅干しがごろごろと姿を見せていて。
かすかに見える橙色はオレンジの輪切りか蜜柑の欠片か。


……………っていうかなんですかその右手のレモンは。









「とりあえず酸っぱいものかなって思っていれてみたんだけどね!」











あふれ出る元気を振りまいた彼女の言葉に、ようやく全てを理解した彼が机に頭をぶつけたのはほぼ同時。












=
貰いつわり、またの名を酸っぱいカレーの巻でした!(笑顔で)
オチがまるで読めますね!(笑顔で)
しかし実際この症状あるらしくて驚きました(笑)そうか…奥さん元気で旦那がもらっちゃうこと、あるのか…

というわけで受け取ったバトンを渾身の力で一秒間に300回転くらいしながらビッグバードさんにパース!(丸投げだ!!)