学園サバイバル
四時間目も終わろうかという時間に自分の部屋から這い出てきたはいいものの、こんな時間なら遅刻よりも昼休みを挟んだ五時間目からでいいだろうと思い直し、彼は彼的昼寝スポットの一つである保健室に向かった。
がらがらと音を立てて扉を開けるとそこには先客が二人。保健室仲間である細くて長いのと筋肉質の。
二人は彼の姿を確認すると、一瞬顔を見合わせ、どこか含みのある笑顔で挨拶を返す。
「やあ、皆守くん」
「よう、甲太郎」
「君は本当にタイミングがいいね」
「タイミングがもの凄く悪いのかもしれないけどな」
「なにがだよ」
「お前が静かな時間を求めてここに来たというのなら、間違ったなってことさ」
「はぁ?」
何か吹き出すのを堪えるような夕薙の言葉に皆守は聞き返す。
保健室がやかましいわけないだろ、ましてはこのメンバーで。
怪訝な顔をする彼に、もう一人が教えてやった。
「もうすぐここに」
取手がその長い指で床を指さして
「八千穂さんがくるよ」
その台詞を言い終わるか否かの瞬間保健室に飛び込んできた一人の少女。
何か聞き返すことも出来ないほどのスピード。
隠れることも逃げることも出来なかった。
こいつまさかタイミング見計らってたんじゃないだろうな。
取手が口元を押さえて 八千穂さん、お昼ご飯を持ってきてくれるって言ってたんだ と笑った。
「はーいやっちー特急便だよー!二人とも体調大丈夫?」
「ありがとう、朝よりずいぶん落ち着いたよ…」
「ま、この調子だと午後の授業には出ようかと思ってるよ」
「無理しちゃ駄目だよ!?あっそうそう!はい取手クンにはご所望のサンドイッチ。夕薙クンは…カツサンド売り切れてたからコロッケパンでいいかな!?…………………うわっ皆守クンもいたの!?」
「遅ぇよ!大体なんでお前がこいつらの飯を配ってるんだよ」
「だって朝本当に辛そうだったんだもん。でもご飯食べないともっと辛いでしょ?」
虚弱運動部の友人達に呆れ果てつつとりあえず俺にもなんかよこせと言ってみる。
すると驚いたことに八千穂はこの状況を読んでいたかのようにはいどうぞと袋から最後の一つを出した。
カレーパン。
「こんなこともあろうかと思って!」
「…」
「皆守クン5時間目は理科室で実習なんだから出なくちゃ駄目だよっ!同じ班の人困っちゃうよ!」
「俺だけじゃなくて大和にも言えよ」
「夕薙クンは、体調不良!皆守クンは、体調優良!」
それじゃあまたね!と現れたときと同じようにあっと言う間に消え去った彼女は彼の反論も許さなかった。
嵐が去って。
はっと我に返り、振り返れば保健室仲間たちの生暖かい視線。
「読まれてるなあ、甲太郎」
「八千穂さんに頭が上がらないね」
「いい嫁さんになるぞ、彼女は」
「あのなぁ…」
窓際の椅子を引き寄せてどさりと座り込み、彼は視線から逃れるように窓の外を見た。
全て読まれているのなら、自分に逃げ道はあるのだろうか。
いや、きっと
ない。
彼は他意の欠片もなく渡されたばかりのカレーパンを食べるか食べまいか、しばらく悩んだ。
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用意周到