入エジプト記



何故そんな話の流れになったのかは、彼はよく覚えていない。
とにかく自分が何かを言って(もしくは何かを面倒がって)八千穂を怒らせ、それに連鎖反応した葉佩に怒られたというのは間違いない。
ああもう俺は怒った、怒ったよと机を叩き、いいかね皆守くんと肩に手を置かれた。そんなことばっかりやってると




「もしお前が10年後誰とは言わないけどお団子頭の可愛い元気な彼女と結婚しちゃって新婚旅行どこ行こうかなんて言われたときに持ち前のパッシブスキル”面倒くさがり”をうっかり発動させちゃって『別にどこでもいいんじゃないか?むしろ行く必要なんかあるの面倒くせぇなあ。あーダリィ』なんてほざいたからに彼女物凄く怒っちゃってむしろ一回転しちゃって半泣きで般若の形相でテニスボールをしこたまぶつけて『じゃあずっと一人で引きこもってカレー食べればいいじゃん!葉佩クンと浮気してやるー!』なんて叫んで着の身着のまま財布と鞄掴んで外に飛び出して行っちゃってしばらくしたら帰ってくるだろとか暢気に構えてたら丸3日帰って来なくて流石に心配になっては見たけどどこに行ったか全く検討つかないしよく考えたらあの鞄の中にはパスポート入ってなかったか!?そう言えば最近”エジプト観光おのぼりさんガイド”なんて読みふけってなかったか!?なんて思い立ってもう頼れる人間がエジプトあたりで発掘作業中の俺だけになっちゃっても絶対助けてあげません。メールも完璧無視します。むしろ着信拒否します」

「…何だよその壮大な妄想」

「腹くくってエジプトへの旅行代金貯金しておきなされよ。お一人様20万くらいかな」




トトに頼めばいいだろと言うとそれなら先に根回ししておくだけのことと返された。
外国にいる奴にメール届くのかよと言うとHANTは優秀ですからそれくらい余裕ですと返された。
ていうか脳味噌で思いついたことをそのまま吐き出すなと言うと信じるも信じないもご自由にと返された。

何を言っても無駄だと悟り、お前の妄想にはつき合いきれないねと言って夢の世界に逃げ込んだ。





覚えているのはそれまでだ。

















そして今彼は思う。
短いメールを送信して彼は思うのだ。










「予言者かあいつは…」












俺は助けてあげないって言っただろという返信がくるまで、あと少し。