メガンテ



今日も彼の一日を始めるのはおっはようという弾ける声。
毎朝元気に登校の彼女。
朝練だったのかテニスラケットを片手に今日は早いね!と隣を歩く転校生と共に背中を叩かれた。

昨日は夜中までこいつの墓荒らしにつき合ったというのに、朝練まで出てこのテンション。
溢れかえるほどの生命力。何食ったらそんなになれるんだ。
スーパーマンか、お前は。



「お前って」

「えっなになに?」

「よくまあ部活の後こいつの夜の散歩付き合っておいて朝一で登校出来るな。お前の体力はどうなってんだ」



彼が半分尊敬、半分呆れ果てた目で問いかければ彼女は今初めて気がついたかのように目を見開き、そうだなあと腕を組んだ。



「言われてみると、結構ハードスケジュールだね…!」

「早く気がついとけ、そういうことは」

「いつもごめんねやっちー」

「ううん!私が手伝いたいから、手伝ってるんだから気にしないでね!九チャンのお役にたてるなら、凄く嬉しいしっ!」



その笑顔の健気なことときたら。
言われた方の彼が思わず胸を押さえて後ずさり、後ろにいた友人にどかんとぶつかった。



「う、ううう、聞いた今の皆守さん。ちょっとはおたくも見習って下さいよ。あっ涙が」

「うるせえそんな変人八千穂だけだっつの」

「可愛げがない変人は君の方です」

「別に可愛くなろうとは思っちゃいねえよ」

「ああやっちー本当にありがとう。辛くなったら言ってね」

「そう思うんなら」




八千穂の手を取っての葉佩の台詞に、彼は気がつかないまま、言葉を挟んでいた。
口に出した瞬間、自分の失敗に気がついた。
はっとして顔を上げると



「なら?思うなら?なに?」



にやにやと目だけが笑っているその忌々しい顔。
分かってやっているな、この野郎。

彼はそれ以上にやつく視線の男を無視して沈黙を守ることにした。
それを不思議に思ったのは一人蚊帳の外であった彼女。
急に黙りこくって先へ歩いていってしまったクラスメートを不思議そうに見つめ、しかし彼のそんな気まぐれな態度は慣れているのか気にせずそのあとを追う。
転校生はといえば、彼らの後ろを歩きながらともしれば吹き出しそうになる笑いを噛みしめながら、一人ごちた。






「自爆したな皆守くん」














本館から移住4
なんだかんだ言って心配してたりしてなかったりのカレー