外伝・旅の道連れ
突然やってきた彼女は、白いキャミソールの上にモスグリーンのジャージを羽織って七分丈のパンツという装備で現れた。しかも手にしているのはまかり間違ってもパスポートなど入っているとは考えられないぺらぺらのトートバッグ。そのへんのコンビニにガリガリ君買いに行くような格好だった。
間違っても海外旅行という出で立ちでは、ない。
飛行場から出発寸前にメールを受け取り、出迎えに来ていた友人達はその姿に驚くどころか
めちゃくちゃ格好いいよやっちー!勇ましいよ!
アナタノ行動力ニボク、カンドウデス!
拍手喝采だったりした。
ドウセナラ、一番ノホテルトマッテケ!と言いながらホテルに先に予約を取りに行ったトトの後をゆっくり追っていた彼と彼女の、行く手を阻むものがいた。
目をぎらぎらさせた、男性陣であった。敵はいつでも人間の中に潜んでいるのである。
なまじナイスなバディであり、なまじ可愛らしい顔立ちの彼女は標的となるまで時間がかからなかったようだ。そのうちのほとんどは彼の『俺の友達に手ぇ出すんじゃねえよ』という目力に撃退させられていたものの、中には強引な輩もいて。
その男は彼が目を離したその一瞬に彼女に取り入っていた。
きみとあえたのはうんめいだとかなんとか。いますぐふたりっきりでおはなししたいなだとかなんとか。
飲み物を買った店の店主がやれやれとため息をつく。あいつは外国人とあればすぐナンパするんだから。
何を言われているのかさっぱり分かっていない彼女は、相手が笑顔なことを喜んでにこにこしていたのでそれがまた収拾をつかなくしていた。人から笑顔を向けられると条件反射で笑ってしまうのですかあなたは。ああやっちー(もうやっちーというあだ名は成立しないのだけれど)それは赤ちゃんの持つ特技だよ。
「ねえねえ九チャン。この人一体なんて言ってるの?」
「えーとね、平たく言えば結婚してくれってさ」
「えっどうしよう!国際結婚だね!」
「お、俺というものがありながら別に浮気相手を作るなんて!まずは俺でしょ!ってか追い払いましょうか?」
「だいじょぶだいじょぶ、なんとかするから」
何故か自信満々の彼女に、彼は首を傾げる。
彼女の持っていた『地球の歩き方 エジプト編』にはいくつか簡単なアラビア語の挨拶などは乗っていたが『お断りよ!このスケベ男!』なんて書いてあったかなあとしばらく思い悩んでいると彼女はにこにことした笑顔のま膝に置いていた手を挙げる。左手。
燦然と薬指に輝く、銀の指輪。
そこに言葉はなかった。
言葉はいらなかった。
「やっちー凄かったぜー!そのあとはもう迫り来る男どもに向かってそりゃもう自信満々にババンと手を挙げるわけよ。それでぴたりと動きを止めるわけよ。で直後合流したトトくんと俺の追撃でさーーーっと蜂の子を散らすように逃げるわけよ!で、俺らは市場の奥様方に拍手をいただいたってわけよ」
「意味が全く分からないんだが」
「要するにーやっちーが水戸の光圀公、俺が助さんでトト君が角さん」
「もっと意味がわかんねえよ!」
「だからーやっちーが白のガンダルフ、しつこくしつこく迫る男達がサウロン軍。俺がギムリでトトくんがレゴラス」
「ボクピピンガイイデス!」
「じゃ、俺がメリーでトト君がピピン」
「あーもういい。もう何も言うな」
「しっかしやるなあカレー。お前カレーのくせにいっちょ前に指輪なんか渡すなよなー」
「カレーヲ馬鹿ニスルハイケナイデスヨ!カレーハトテモオイシイデス」
「わかったから今すぐ黙れ!」
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蛇足的に。
三部作は勘弁してください(笑)