いるもの いらないもの どうでもいいもの
珍しく朝から授業に出てしまった(しかも真面目に体育まで出席してしまった)彼はようやく訪れた昼休みにほっとして、さあこのまま昼飯のついでに午後はさぼるぞと全くとんちんかんな決意を固めていた。今日の自分の役目は果たしたと言わんばかりの彼に水を差したのはエネルギーの塊であるような彼女。彼女はなぜかいつもより数倍増しの笑顔を浮かべ手にはポラロイドカメラを手にして逃がすものかという勢いで走り寄ってくる。
言うことはすでに想像できた。
「あのね、皆守クン。お願いがあるんだけど」
「断る」
「写真撮ってもいい?」
「断る」
「じゃーこっち向いてねー。1+1はー?」
「無視か!何の疑問もなくスルーか!?」
「だって皆守クン今何聞いてもイヤって言うじゃん」
「分かってるなら聞くな!」
「それもそうだね。じゃ、撮るよー」
「完璧に無視か!?無視なのか!?」
「コラー!」
三回目の否定を吐いたところで突然頭に走る衝撃。
犯人は分かっている。奴しかいない。
怒りを込めて振り返るとそこには無駄に仁王立ちで椅子に座ったままの彼を見下ろす転校生の姿があり。
案の定、と彼は心の中で嘆いた。
「何しやがる…!」
「ははははこれくらいの攻撃も避けられないとはお主も落ちたものよ。しかし俺のフライングクロスチョップを食らって立っていたものはこれまで3人しかいない。10代ではお前が初めてだ。ミルキーをあげようね」
「いらねえよ!」
「で、どうしたのやっちー。このカレー野郎がやっちーを困らせてるなら俺がぎゃふんと言わせてあげるよ」
彼に無理矢理ミルキーを押しつけながら葉佩は笑顔を八千穂に向ける。
八千穂はその様子を笑いながら、それがね、とカメラを掲げた。
「皆守クンの写真撮らせてっていったらやだって言われちゃったんだよね」
「了解、説得工作開始しよう」
「理由とかなにも聞かないのかよお前は!」
「俺はいつでも、どこでも、どんなときでもお前とやっちーを選べと言われたらやっちーを選ぶよ!即答で」
不条理なことを一方的に吐き出され、そのまま教室のはじになすがままに引きずられ、無理矢理しゃがみ込まされる。その様子は不良に絡まれる一般生徒。クラスメート達の「ボコられるな」だとか「なにしたんだろあいつ」だとか「ついにやっちゃったのか…」などというつぶやきを耳にしつつ皆守は頭を抱えた。ついに、ってなんだ、ついにって。
「いいか、カレー」
「いい加減その呼び方何とかしろよ」
「これはチャンスだぞ」
「なんのだよ」
「可愛い可愛いやっちーが、お前なんぞの写真を欲しがってるんですぞ」
「…で?」
「問題はその使い道だ、手帳に挟んだり、部屋に飾ったりあわよくば定期入れに入れたりするかもよ?」
「入れないだろ!」
「せ、世代の違いか!?…ま、いい。繰り返す。やっちーがお前を欲しがってるんですぞ」
「一番重要な単語をすっ飛ばしたな今!?」
「とにかく、これはチャンスだ。存分にアピールしておくべきである」
「意味がわからねえよ!」
「やっちー説得成功ー」
「だからナチュラルに無視すんな!!」
びしっと親指を立てた葉佩と嬉しそうに八千穂がハイタッチなどしている姿を彼が苦々しい表情で見つめていると「はいチーズ!」とフラッシュがたかれた。一瞬の出来事であった。
もうどうにでもしてくれ、と彼は思う。
ああ、だから朝から真面目に授業なんか出るもんじゃないんだ。もう勝手にしてくれ。自分の写真を手帳に飾ったり部屋に飾ったり定期入れに入れたりすれば良いんだよこのアホ女。
……………。
いやでもそんな。
まさかな。
そのあたりを深く考えるとあまりに恥ずかしい世界に突入してしまいそうだったので彼はそのままダッシュで教室から逃げ去った。逃走しか彼に道は残されていなかった。
「それにしてもなんでまたこんな奴の写真を。ロケットに入れて胸元飾ったりするの?」
「ロケット?宇宙の?」
「…やっぱり世代の違いかなあ」
「あ、写真はね、部活の後輩で皆守クンのこと格好いいって言ってる子がいて頼まれたんだ!」
どこがいいのかなあ、皆守クンの。全然分かんないや!と首を傾げる彼女のセリフに、さすがの葉佩も少しばかり写真の中の友人に同情しながら、凄くカレーが好きな子で、カレーご馳走になりたいんじゃないかな!と答えておいた。
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さかなぎさんに一方的に捧げます可哀想なカレー(笑)です。ぬるくてすみません。
なんかもっと酷い目に遭うはずが意外とぬるかったです(ひどいよ)
今の高校生はロケットなんか知らないよ!