ぐうたら青年は自堕落羊の夢を見るか



かったるい学校も今日は終わり、やれやれと一息ついてから風呂に行き、生乾きの頭で部屋に帰ってきた彼はまさかそこに先客がいるとは思わなかった。ドアを開ける。歓談する二つの影。ドアを閉める。部屋番号、表札、3−C皆守甲太郎、よしあっている。では部屋の中のはあれか、不法侵入者か、こういうときは誰を呼べばいいんだ?…生徒会?……………それが自分だという場合はどうしたらいいんだ?自分より上となると…阿門か?こんなことに阿門呼んだらうるさそうだな…周りが、いろいろと。
しかも見ては行けない姿を中に見たような気のせいか?気のせいだろう。気のせいであってくれ。
ドアの前で頭を抱えていると、勢いよくドアの方から勝手に開いて彼を招く声。



「なにやってるの皆守さん。あなたのお部屋ですよここ」

「なんで俺の部屋に俺じゃない奴がいるのか教えてくれるか」

「こう見えてトレジャーハンターのはしくれですからね。鍵開けくらいお茶の子さいさいですよ」



おちゃのこさいさいなんていつ時代の人間だよという言葉を飲み込み、部屋へと入る。
二人で楽しくお茶でも飲んでいたのか机の上にはカップが二つ。ベッドの上で何やら真剣に本を読む同級生。
彼女は戻ってきた自分の姿を見上げ出てきた言葉は「お帰りー」とのこと。
いや、他に何か言うことがあるんじゃないのか。
お邪魔してますとか、いろいろ。



諦めよう。


…しかし女子寮に男子がいると大問題だというのに逆はなんとなく許されてしまうというのは腑に落ちない話だなあ。


彼は全ての思考を切り捨てて、アロマパイプに火をつけた。
自分が何も反論しないのを納得したと思ったのだろうか、不法侵入者その1がはーいそれじゃあこれより委員会議を始めますよ!と手を叩いた。は?会議?



「というわけで皆守甲太郎くんを規則正しい生活に5分でたたき直そう委員会。略してMK5会長の葉佩です」

「副会長兼書記の八千穂でーす」

「お前らそれが言いたかっただけだろ」

「そうとも言う」

「そうとも言うねー」



しょうもなかった。



彼らは何が楽しいのか顔を見合わせて笑い、男の方はほら見せてやろうぜ!と女の背を押し、女は一冊のキャンパスノートを掲げてみせる。



「二人で調べてきたんだよ!図書館で」

「君のまっとうな高校生活のためにね!」

「暇人…」

お前のように友達甲斐のない奴は叩き切ってくれる!…と普段は言うところだが今日の会議によって君が真面目になることを信じて命は助けて差し上げよう」

「ああ嬉しいね」

「そうだろうそうだろう」



今から説明してさしあげるから、とにかくお座りとベッドの上に無理やり腰を落とさせられ、八千穂にはいどうぞとカップに入れられたコーヒーを渡された。まあ遠慮しないで!あたしと九チャンの分はまだあるから!という言葉と共に。
…なんでもいいがこれ俺の部屋のインスタントコーヒーだろ。何人のもん勝手に飲んでるんだ。
ていうかお前が今食ってるアイスも俺のだぞ八千穂分かってるか。ひとくちいる?とか聞くな。



「その1!アルコールとニコチンは極力摂取しないこと。これは覚醒作用があって、眠りが浅くなります」

「あいにく俺は煙草にも酒にも興味ないんだよ。そんなもんに使う金があったらカレーを食うね」

「健康的なのか、判断しにくいなあ。よしやっちー次行ってみよう!」

「その2!毎日決まった時間に寝て、決まった時間に起きましょう」

やなこった

「この俺に真っ向勝負を挑んできたなお前…!」

「あのな、人間眠いときに寝るのが一番だろうが」

「この体内リズム俺時間人間!お前中心に世界はまわってるわけじゃないんだぞ!」

「あっわかった!ラベンダーの匂いいつもかいでるから眠くなるんじゃないの!?」

それだ!じゃあまず第一歩としてアロマを断て!」



断つんだジョー!と膝を落とし、ベッドの縁を叩きながらと叫ぶ葉佩は叫ぶ。
やかましい。
皆守がとりあえず手近なところにあった枕を掴んでぶつけてやろうとねらいを定めたその目標が、にやりと笑う。
そんな駄目人間のためにと余計な前置きをして



「ここで葉佩会長のワンポイントアドバイス」



アロマやめるにも禁煙パイポでいいのかなあと首を傾げて、調べてきたノートに八千穂が目を落とした、その瞬間に葉佩は聞こえるか聞こえないかぎりぎりの声で、言った。



「スケベなことをすると熟睡できるそうですぞ」

「は?」

「試してみる?俺がお邪魔でしたら一足お先に帰りますけど?」



今度こそ彼が掴んだ枕は盛大に自称会長の顔面に直撃した。
そのまま二度と起きあがるな馬鹿野郎。



「えっ!?ど、どうしたの皆守クン!?急に!?癇癪?夜泣き!?」

俺は赤ん坊か!

「やっちー気をつけなさい。この男、否定しませんでしたよ!?

「な、なにを!?」



首を傾げる八千穂を無視し、倒れている葉佩にもう一撃食らわせて皆守はすっかり乾いてしまった頭を抱えた。
頼むから
頼むから
俺を規則正しい生活にしたいのは分かったからお前らはとにかく





出ていけ!!





夜はもうすっかり更けて、月がぼんやりと問題の部屋を照らしていた。
















「男はオオカミなの〜よ〜気をつけなさ〜い〜」

お前本当に帰国子女か!?














某雑誌が睡眠特集で思わず買ってしまいました(単純)
葉佩のキャラがつかめない!(今更)