右の頬を撲たれたら
「お前と戦わなくちゃならないなんて」
宝探し屋の青年は天を仰ぎ大きな声で嘆いた。手はライフルの弾を込めながら。
見る者全てを哀れませるような悲しみを全身から溢れ出していた。爆薬をいくつかポケットの中に放り込みながら。
声をかけるのもためらわれるような苦渋に満ちた表情だった。力強くメイスを握りしめながら。
「しかしこうなってしまった以上仕方ない…!お前が俺を止めるというなら俺も正々堂々お相手しようじゃないか!」
「やる気満々だろ、お前」
「何言ってるんだ!やりきれなさで張り裂けそうだよ俺の心は」
友人であり、今は敵である彼の言葉に、トレジャーハンターは大げさに心臓を押さえてみせる。
ああ悲しい、ああ寂しいと言いながら、その瞳は輝いている。
本気。
本気だった。
そうだこいつは今までの侵入者達とは違うまともじゃないまともさが足りない笑いながら何をするかわかったもんじゃない。
…。
もしかすると自分は思い切り早まってしまったんじゃないだろうか。
じりじりと皮膚を刺すような沈黙の中その膠着状態をぶち壊すかのように頭から切り込んできたのは一人の少女。
彼女は必死に二人の間に両手を広げて立ちふさがる。
その全くいつもと変わらない態度に彼は安堵と恐怖を覚えた。
ああなんと怖いもの知らずなことか。
「駄目だよ九チャン!皆守クンとケンカしちゃだめだよっ!」
「やっちー、仕方ないんだよ。こうするしかないんだよ」
「だ、だってだって!九チャンがいなくなっちゃったら皆守クンの友達いなくなっちゃうよっ」
「やっちーがいるじゃない」
その言葉に彼女は少し考え込むように首を傾げる。
しばらくののちああそっか!と手を打って皆守クンとなにかを決意したような顔。
「なんだ」
「…あたしはいつまでも皆守クンの友達だよ…!君と友達になれたことは一生忘れないからね…!」
「死ぬのか、俺は。永遠の別れなのか」
それだけ言うと彼女は満足したのか葉佩の後ろに下がり、これまで幾度も化人たちを葬り去ってきた愛用の血染めのテニスラケットとボールを持ち直す。
彼はそれを見てぼんやりと思う。
ああ俺は敵対する人間を間違えてしまった。
「最後に一言だけ言わせてくれ」
「…どうぞ」
「俺がこの学校に来て三ヶ月…」
「そうだな」
「その間に普通に食べる食事の回数約90食だ」
「は?」
「そのうち65食はカレーの餌食になった…」
「ま、まさかお前」
目の前の男は微笑んでいた。
どこまでも澄んだ慈愛の笑みだった。
微笑んでメイスを構え、そして言った。
「俺の65食分の青春の重さを思い知るがいい!!」
「私怨じゃねえか!!!」
正体ばらさなきゃよかったかなあと彼は鉄の塊が風を切る音を聞きながら考えるしかなかった。
=
最終バディやっちーつれてったんですが生徒会長も副会長もテニスボールの餌食になりました。強い。