解決する

先輩に話をしておきたいことが、とかわいい後輩の一人に耳元でひっそりと言われたとき正直なところ彼は大いに怯えた。彼女は賢く、いつでも先のことを考えていて、仲間想いの良い子である。一人で暴走しがちなところも近頃はめっきり見せなくなり、チームワークを大切にすることを覚えた賢い後輩である。そんな彼女が大変真面目な顔をして「あなたにだけ話をしたい」ときたものだ。周りの賑やかな連中が賑やかにやっているその輪から自分が少し外れたその瞬間を見計らったのごとく足音もなく近づいて。もともと、自分は前向きな思考の持ち主ではないのである。今でさえ分けもわからぬままにリーダーなどと呼ばれてもてはやされてはいるが、もともといるもいないもわからぬように静かに生きていた存在なのである。ここまできて「あなたにはもうついていけません」などと言われれば立ち直れない後ろ向きな自信が大いにある。誰かに話を聞いてほしかったが、先ほどまで一緒に補習のレポートに取り組んでいたはずの相棒は邪魔をしてきた少年に報復をしているところであった。まあ実際、隣でクマにコブラツイストをかけている相棒にうっかり溢そうものなら「えーまじそれ告白じゃねえの?やばくね?正直お前の謎のカリスマ性にうちのメンバーもみんなコロっといっちゃうってわけ?マジで?」などと目を丸くして言うことは目に見えていたので黙っていることにした。なんということでしょう今脳内でそのままの音声が再生された。
と、そこまで考えてはたと気がつく。告白か。あなたのこと嫌いとっていわれるより断然いいじゃないか。こういうときはどうやって返すのが一番なんだ。
しばし首を傾げて考えていると、横で技を決めきった相棒が「どした?」と声をかけてきた。「腹痛?」ああいや今お前のアドバイスは必要ないっていうかなんていうかと口を開こうとしたところ、足元から元気の良い声がした。「ヨースケはバカね。ヒトが悩むって言ったら恋の悩みクマ」「マジで?!大変だな!」ああもうぜんぜん違う。俺は今何のフラグも立っていないし、フラグを折るような相手もいない。今の一番の悩みはせっかくできた友達たちをなくさないようにしたいってことだけだよ。しばしどう返事をしようか悩んだ末、彼は考えることを放棄した。つまり、めんどうくさくなったので正直に話すことにした。もうどうにでもなれ。

「放課後に学校裏に一人で来てくれって呼び出しをうけたら、どういう対応をすればいいんだ」

友人たちは沈黙した。自分の顔をまじまじと見つめ、大変心配そうな顔で言った。「それはつまり、なんか怖いヒトに呼び出し食らったっていう?」「センセイ売られた喧嘩は買うクマ!いざとなれば完二を用心棒にするクマ!」「お前は行かないのかよ!」「ヨースケこそ"俺が加勢するぜ!"くらいのこと言いんしゃい。仮にも相棒なら!」「仮ってなんだよ!大体、喧嘩売られたとは限らないだろ」「なるほどー、そのジンブツはなにかセンセイの力を借りたいのかもしれないクマね」予想外の返事に、彼は笑った。ああ、なにか考えすぎていたのだなと彼は思う。クマの言うとおりだ。頼もしい戦友である後輩が何か自分に頼みたいことがあるのだろう。きっと皆の前では恥ずかしがりの彼女は言えないようなことが。かわいいじゃないか。
思わずに口角が上がってしまい、おおい大丈夫かと声をかけられる。「喧嘩するならほどほどにしろよ、お前が本気出したら相手、死んじゃうからな?」いざとなったら加勢してくれよ、と尋ねてみればそりゃもちろん、との二つ返事。ああなんと頼もしいんだ、我がチームの参謀たちは。直斗もこいつらに相談したほうが話が早いぞきっと。

「ああなんかみんなものすごくたよりになるな」「棒読みで言うくらいなら言わんでいいわ」








「ああ御足労いただいてすみません。実は折り入ってお願いがありまして」
「よしきた直斗の頼みなら何でも聞くよ。毎日昼に弁当作って欲しいとか制服のほつれを直して欲しいとか言い寄る男どもを粉砕して欲しいとか、何か事件の証拠品を預かって欲しいとか」
「あ、いえ」
「新しい武器と防具が欲しいとかだと要相談だけど」
「張り切っていただいたところ申し訳ないんですが、そうではなくて。今日僕は戦闘メンバーに入っていたんですが、別件で対応しなくてはいけないことがあってしばらくこちらに参加ができないのです。僕の家の…実に私事なのでまずは先輩に話をしておかないと思いまして」
「うん。わかった。無理するなよ」
「先輩大丈夫ですか?なんというか、その、態度が妙というか」
「いや今全部解決した。俺の悩みは直斗が元気に日々暮らしてくれることで解決するよ」

いやあさすが名探偵だ。俺の悩みが今一気に全部解決したよ、と清清しい気持ちとともに伝えれば後輩は困惑と困惑と困惑と微笑を足して4で割ったような表情をして「お役に立てたのならなによりです」と答えてみせた。











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どうでもいいことになやむセンセイと言葉の足らない真面目な後輩と喋りすぎる花村家。
リクエストありがとうございました!!