たたく

お前弱みとかなさそうだな、と脈絡のない言葉をかけられてネメアは手元のグラスをテーブルに置いた。口に出したのは自分と似た境遇の男である。自分のことはさておき、弱みなど全くなさそうな男に言われるとは思っていなかった。ネメアはお前にはあるのか、と問い返すと何を言ってるんだという顔をしてアレウスは答えた。

「ある」
「お前なら、そんなものあるわけないだろうと突っぱねるかと思ったが」
「少し前ならそうだったろうが、意地を張るのも馬鹿馬鹿しくなったんだ」

手の中のグラスの中の溶けかけた氷をじっと見つめながらアレウスは答える。少し前の彼は家族が殺されて、友人に裏切られて心が死に掛けていたとネメアの養父は言っていた。彼がここまで持ち直したのは底抜けに明るいボルダンと賢いダルケニスのおかげなのだろうとネメアは思う。彼ら三人はとてもよくバランスの取れているパーティだ。戦力的にも精神的にも。アレウスが自らネメアに飲みに誘うなどあのころであれば考えられない行動だろう。

しかし突然何を言い出すのかと口にすれば、お前には相談相手がいなさそうだからと呟かれる。ああ、どうやら心配をされているようだとネメアはようやく気がついた。人の心の機微に鈍い自分を人の心の機微に鈍いであろう従兄弟が思いやってくれたのか。良くも悪くも様々な種族が様々な思惑でひとつにまとまっている彼らのパーティに比べ、自分たちはネメア行動すべてを肯定し旅をするものの集まりだ。ネメア自身に迷いがあったとしても誰にもいえないのではないかと考えたのであろうか。ネメアという男には弱みがあってはいけないし、悩んで立ち止まっ手しまうことは許されないと。自分がかつてそうであったように。
思わずこみ上げた笑いに息を吐いてごまかす。酒が効いてきているのかとネメアは思った。自制がきかないほと酔うことなど数えるほどもないというのに。
ここで何か気の利いたことを答える必要があるのだろうと朴念仁のネメアもさすがに考えた。血を分けた従兄弟がここまで気を遣ってくれているのだ、嘘を付かずにいたい。
暫し口をつぐんで考えていると、気を害したと思ったのか別に無理に答えろって言ってるんじゃないとアレウスがこちらに視線をやってくる。ネメアは首を振った。

「いや、弱みとは言えないかもしれないが私にも勝ち目がないと思うものはある」
「…尋ねておいてなんだが、お前がそんなことを言うとは思わなかった」
「私とて、人だ。お前もだろうアレウス」
「まあ、それもそうだ」

アレウスは少しだけ笑ってそれだけ言った。アレウスがあるといった弱みに関しては、ネメアは聞かないでおこうと思った。ひととして、の気遣いを自分もしてみてもいいだろうと思ったので。
私の弱みを教えてやろうか、と酒を注ぎ足しながら問えばアレウスは大変驚いたように目を開いてこちらを見返してきたので大真面目な顔をしてネメアは教えてやることにした。楽しい時間の礼のつもりで、これを知られたら私は終わりだ、という顔をして、堂々と。










「父だ」
「…」
「父は昔から私が間違ったことをすると一撃見舞ってきてな。私はいまだあれに弱い」
「…しつけは割と武闘派なんだなあの人」











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トリニティの従兄弟たち。
リクエストありがとうございました!!