「地雷を踏んだらサヨウナラ」

企画製作 :Zero Project
原  作 :一ノ瀬泰造作
      (『地雷を踏んだらサヨウナラ』講談社文庫刊)
脚本・演出:酒井晴人(激弾BKYU)
後  援 :毎日新聞社 
協  賛 :Nikon・シナリオセンター

2000年11月 中野ザ・ポケット


ナイキ  「…… 泰造。お前の写真、こりゃ、特攻隊の写真だよ。
      命を代償に被写体に突っ込む。周りが見えてねえ。」
泰造   「オレは、そうやって写真に命を吹き込んできたんだ。」
ナイキ  「いいか、泰造。カメラマンは、ただ被写体を写すだけじゃ ないんだ。
      被写体を取り巻く社会を切り取るんだ。」
泰造   「言ってる意味がわかりません。」
ナイキ  「お前、死んだクァンから目をそらしただろ。」


ネアン  「余計な物を見るなって、神様がくれたプレゼント。
      あ、そうか、泰造は目が見えなきゃ商売にならないか。」
泰造   「いえ、商売…… というか…… 。」
ネアン  「ナイキさんに、何か、言われたの?」
泰造   「カメラマンとして未熟だと言われました。
      わかってるんです。そんなことは。
       …… いつも頭をよぎってました。」


泰造   「…… 手紙、書かなきゃ。手紙。…… お父様、お母様。
      …… お元気ですか。
      …… アンコールワットを目前にして、戦況の変化著しく、
      何一つ今までの経験が役に立ちません。また三ヶ月かかっ て
      調べなおすには僕には問題があるし、時間がありません。
      何もわからないまま行き当たりバッタリで、最短距離で突入を
      試みてみます。
      今回は、去年のようにしのび込むなど、
      あまり危険を冒すつもりはありませんし、アンコール一番乗りなども
      そう考えていません。ただ、早くアンコールワットが撮りたいだけで、
      できればクメールと一 緒に。
      プレスカードがなく、司令部からの紹介状ももらえず、
      前線に行くのも困難ですが、しかし、前線に入ったら、
      みんなメシをもてなしてくれます。アンコールに入っても、
      彼らも同じようにもてなしてくれるだろうなあ… 。」


レ・ファン 「やっと思い出してくれたのね、泰造。
       船着場で別れた あと、私はいつもあなたのことを考えていた。
       悲しくなか ったと言えばウソになるけど、不思議と涙は出なかった。
       だって、あなたとの幸せな時間を思い出すだけで、自由に なれたから。」

レ・ファン 「…… 自由は心の中にある。たとえ戦争の真っ只中だって、
       私の心までは縛れないんだよね。
       私、この国に生ま れてよかった。今は誇りに思っています。
       2人で撮った記念の写真、私の目の奥にしっかり焼き付いてるから。」