2003年7月27日

「スローな選択」 詩篇 25:6〜12

 最近読んだ1冊の本:イマジン・ノート(槇村[まきむら]さとる)は人気漫画家の心の軌跡を綴っています。73年に別冊マーガレットでデビューし、「愛のアランフェス」「おいしい関係」「イマジン」等の代表作をはじめ多くの連載に携わっています。しかし複雑な家庭環境が槇村さんの心に影を落とします。12才の時に、母が家出。父、弟を含めた3人の家族の切盛りと学校で擦り切れる毎日。そして父の暴力。「でも彼は、私を愛しているんだ、きっと」と合理化せざるを得ない日々。愛って何?心って何?と問い続ける毎日。仕事場のアシスタント達と大衝突し、解体。「競争、勝負、意地、くやしさ、というものは良く知っていて、読者を驚かせたり、興奮させたり、盛り上げたりするこはできたが、肝心の心の触れ合いが分からなかった。」 当時(86年)始めたある連載を3回で中止。「漫画を描いている気がしない。ページが全然進まない。1コマ1コマに時間がかかってしんどくてつまらなくて、漫画家として最も恐ろしい事態」に陥ってしまう。

 しかし(90年)35才になったとき、小学生への虐待をテーマにした1冊の本を読み、自分自身と向かい合う。生きづらい原因が親の離婚のせいでもなく、父の暴力でもなく、実は父の性的な虐待であったことに行き着く。自問自答の末、ひとつの結論に導かれる:「父の行状は”事故にあった”ということにして、”こんなことされる自分は価値のない人間である”という考えは、自分で決めてしまったことだった」と。そして恵みだったのは、「やっと意識の中に捕まえた事態の全容と、私自身を慈しむ自尊心がしっかりあったこと。それが事実を思い出し、向き合い、乗り越えるためにずっと頑張って芯の所に生きていたことを発見した。」ことであり、12才の頃に戻って、もう一度生き直そうと決心したことであった。その後、めぐり合ったすばらしいパートナであるキム・ミョンガムさんの言葉:「彼女は苦しんだ末に、他人を嫌いになる人生を選ばず、好きになる人生を選んだ。」

 物事を決定する過程を振り返ってみると、人は選択する際、実は既に決めていることが多い。小さな選択を意識的にしない惰性と傲慢。性急な私たちは、慣れた出来事に対しては外部条件の変化にかかわらず、いつも画一的な決定を無意識に下していきます。もし、この小さな選択をする余裕があれば、いつもバランス感覚をもって自分自身と向き合い、そしていつもフェアに物事とかかわることができるでしょう。このことはとりもなおさず、神との交わりをもつ時間が持つことができた結果ともいえるでしょう。

 小さな選択の余地を残すためにはやはり、時間を十分にとって、神のみ声に耳を傾け、心を開くことではないでしょうか。つまり、急がない、スローな選択です。時間に追われるがゆえに、ほんとうに大事な判断するときに必要な神の恵みとすれちがってしまわないようにすることです。このスローな選択がもっとも必要とされるのは、私たちの物事に対する受け止め方、感情の持っていき方です。外的な刺激に対して、画一的な感情に直結しないスローな選択。

 最近、スローフードという事を耳にしますが、この「スロー」とは、だらだらと、やたら時間をかけて食べようということではなく、ふだん漠然と口に運んでいる食べ物を、一度じっくり見つめ直してみようという活動です。スローな選択もまさしく同じことです。わたしたちの生き方を常に、じっくり見つめなおすことなのです。神を畏れ、神のすばらしい恵みをいっぱいに受けて祈り、じっくりと選択していく人生。とてもすばらしいことではないでしょうか。