2002年9月8日

「光あれ」コヘレトの言葉(伝道者の書)1:1〜7

 「空の空。伝道者は言う。空の空。すべては空。」(新改訳) 「何をやっても結局、全ては空しいものだ。」と語る彼の言葉は一つの方向に私たちの心を向かわせます。それは、神によらない労苦は空しいものであり、「神を畏れ、戒めを守る」人生にこそ空しさからの開放があるということです。

 1962年、小型ヨット「マーメイドT世号」で単独太平洋横断航海を成功させた当時24歳であった堀江謙一さんは今年7月17日(日本時間18日)、40年ぶりに再び単独で太平洋横断に挑み成功しました。その堀江さんが1974年に単独無寄航世界一周航海を成功させた時、彼がある雑誌で告白していた記事を読みました。大冒険を成功させて帰国した彼はたくさんの歓迎と賞賛を接岸した大阪忠岡港に集まった人々から受けました。しかし、彼は言ったのです。「たくさんの人に迎えられ、さみしいというのはおかしいかもしれないが、なぜか洋上よりもむしろさみしさと孤独を感じていた。・・・航海を成功させたのは嬉しかった。しかし、同時に空しかった。」堀江さんは最初の航海の時、冒険とその計画、その準備の段階がどれほど充実し、希望に満ちていたか。そして、彼は知っていたのです。それを達成した途端、自分が目標を失って空しくふぬけた人間になってしまうことを。

 先日、Xジャパンという数年前多くの若者に愛され、影響を与えたロックバンドの元メンバー、TOSHIという人のトーク&ライブコンサートが近くの施設で行われたそうです。当時から大変な人気と賞賛の中で、メンバーは充実した人生を歩んでいたに違いありません。しかし、彼らはどれほど人々から熱狂的に支持され、コンサートを開けば連日の満員だったとしても、CDが売れれば売れるほど心は空しかったと言います。メンバーのある者は解散後ボランティア活動に力を注ぎ、TOSHIさんも今はありのままの自分を歌に託し、全国のさまざまな施設でのコンサートをこなしているそうです。本当に人は自分の望みを実現することができても、人からどんなに賞賛されるような成功を納めても、心の中の大切な何かが埋まらなければ満足することはありません。神学者パスカルは、「人の心の空洞は、神をもってしか埋まることはない。」と言いました。

 「空の空」まさにコヘレトが言うように、神が私たちの人生に立ち会ってくださっておられなければ、私たちがその神を信頼して、神に従って生きていくことがなければ、全てのことは空しいのです。そして、神は、神と私たちとの間にある大いなる空しさ、私たちと神とを隔てていた罪という溝を一人子イエス・キリストによって埋めてくださいました。そのイエスこそが私たちの命のパン(ヨハネ6:35)、生ける水(同7:37)、世の光(同8:12)なのです。神無しに歩む私たちの空しさという暗闇の中に、無から有を生み出すことのできる唯一のお方、神がキリスト・イエスを通して宣言されるのです。「光あれ!」と(創世記1:3)。「地は形なく、むなしかった」(口語訳)この世界を神はその口から出る言葉で創造されたのです。その神との関係無しに私たちの人生と本当の満たしはありません。