登場人物 |
名前 | マキ |
職業 | ウィザード |
BLv/JLv | 75/45 |
主要装備 | スタッフオブソウル |
ステタイプ | AGI-INT 避けWiz |
スキルタイプ | 氷念のみ |
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物語の主人公、氷念のみのAGI先行避け魔術師。
所属していたギルドがGvGに参加することになり、
枠空けの為(本当は邪魔者扱いされたくなくて)脱退、
フラフラしていたところでブチ虎たちと出会う。
陽気な性格で口は悪いが、実は寂しがり屋。最年長らしい。
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名前 | ブチ虎(ぶちとら) |
職業 | アサシン |
BLv/JLv | 84/50 |
主要装備 | 幸運剣二刀流 |
ステタイプ | LUK-AGI 完全回避クリアサ |
スキルタイプ | 二刀ハイドクローク |
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「愉快ナふいんきノ中間たち」改め、
「愉快な雰囲気の仲間たち」ギルドのマスターで、
生まれ持った回避力と完全回避で敵の攻撃を一切受けない、
しかしとっても非力なアサシン、ハイド大好きで声がデカい。
言動はやや変人だが、基本的にはギルメン思いのいい人。
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名前 | 桃丸(ももまる) |
職業 | スーパーノービス |
BLv/JLv | 68/42 |
主要装備 | +10QDロッド |
ステタイプ | DEX 高速詠唱スパノビ |
スキルタイプ | 各色ボルトスティール |
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無詠唱を目指す低INT魔法スパノビ、カートもあるよ。
ブチ虎を先生と呼び慕う、メンドに淡い恋心を抱いている。
リアルラックが高く、倉庫にレアが山積みされているという噂が。
性格が素直すぎて、毒が混ざることも…。たぶん最年少。
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名前 | メンド |
職業 | アコライト |
BLv/JLv | 95/50 |
主要装備 | 各種状態異常鈍器 |
ステタイプ | STR-AGI 素手殴りアコ |
スキルタイプ | 退魔支援 |
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正体不明、謎のカワイコちゃん峰不二子。
落ち着いた物腰とは裏腹に、ギャンブル好きで笑い方が怖い。
武器を持たずに素手でモブをぶちのめす殴りアコ。
わざとなのか天然ボケなのか、非常に分かりづらい言動を取る。
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名前 | 不明(ギルマス) |
職業 | クルセイダー |
BLv/JLv | 不明 |
主要装備 | 不明 |
ステタイプ | 不明 |
スキルタイプ | 不明 |
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マキが脱退したギルドのマスター、人望も厚く面倒見がいい。
マキはこのギルマスに密かに想いを寄せている。
ギルドも雰囲気がよく、脱退したマキをみんな気に掛けている。
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第一話 |
「元気でな、何かあったらいつでも連絡くれよ?」
「うん…」
「…ってか、何にもなくてもたまには連絡くれよ?」
そんなこと言われたら、ちょっと期待しちゃうよ…、などと思いつつも、
口から出るのは、
「うん…、そうする」
ああぁぁ、本当は嬉しいくせに、どうしてこう素っ気ない態度になるんだろう…。
「あと、これはギルドのみんなから」
「えっ?」
差し出されたのは、何か長いものを包んである布の袋。
「え…と、これは…?」
「後で見てくれ。それと、断られると俺の立場がないからな、とりあえず受け取ってくれ」
「あ、う、うん、ありがとう…、みんなにもよろしくね、絶対ねっ」
「わかった、必ず」
クルセの彼にしてみれば、片手でひょいと持てる重さかもしれないけど、
受け取ったこの包み、かなり重いよ…。
…さて、ここにじっとしている訳にもいかない、行かなくちゃ!
「じゃあね、ギルマス」
「ああ、お前なら大丈夫、自分の信じる道を突き進めよ」
密かに想いを寄せているギルマスに見送られながら、
ギルドの溜まり場だった伊豆前から歩き出す私はマキ、AGI先行の避けWiz。
みんなは引き留めてくれたけど、攻城戦への参加が決まったこのギルドにいても、
メンバー枠を無駄に埋めちゃうことになるから、私は自分からギルドを脱退することにした。
「…みんな、無理しちゃって」
受け取った包みの中身は、みんながお金を出し合って買ってくれたスタッフオブソウル。
まだ完璧に使いこなせるようなレベルじゃないのが、なんとも申し訳ない感じだけど、
盾に頼らない上手い立ち回りが出来るように頑張ろう、うん、ひとつ目標が出来た。
今までも一人で狩ることが多かったので、行動自体にこれといって変化はない。
いつも通りに国境近くの台地で、旅人達を襲うモブを討伐する。
他の魔法士や魔術師がファイアーウォールでまとめて仕留めていく中、私は…、
「ソウルストライク!!」「ソウルストライク!!」
粉々に砕け散る巨大な赤い芋虫にしか見えないムカデを横目に、
脇から突っ込んでくる巨大カマキリに向かって詠唱を始める。
「フロストダイバー!!」「ナパームビート!!」
念力の爆発にも耐えきったカマキリに向かい、
両手でスタッフオブソウルを振り抜いて、トドメを刺す。
「ふぅ…」
辺りが静まり返ると、気にしたくなかったことが気になってくる。
ソロ狩りは慣れているけど、やっぱりギルド会話がないのは寂しいな…。
今もこうしてレベルが上がっても、伝える相手も祝福してくれる仲間もいな…
「おめでとう!!!」
「うへぁっ!?」
背後からの突然の声に、驚いて振り向くと…、
「ん? 今レベル上がったよな、おめでとう!」
「ぶふーーーっ!!?」
「…なんだねキミは、失礼だな! 祝っているのにブーイングとは!」
そこには、半分土に埋まってこちらを見上げているアサ。
そして、その後ろにアコさんとスパノビが、同じように土に埋まって、こちらを見上げていた。
「あ、あの…、ありがとう…、で、そこで一体何を…」
「ああ、ハイディングの何たるかを、この♀アコと♂スパノビに叩き込んでいるところだ!」
「初めまして、アコのメンドと申します」
「こんちは〜、スパノビの桃丸でーす」
「そしてオレはアサのブチ虎、一応このギルドのマスターだ!」
「はあ、こ、こんにちは、Wizのマキです…」
なんで私、自己紹介してるんだろう…。
立ち尽くす私と土に埋まった三人。途切れる会話、しばしの沈黙、そして…、
「先生、マキが困ってます」
おいスパノビ、いきなり呼び捨てか。
「そうか? オレの次の言葉を待っているように見えるが?」
…はい?
「わたしもそう思います、全然立ち去ろうとなさらないし…」
「い、いや…、え?」
立ち去るも何も…、このまま放置していいの?
「あの…、行ってもいいなら行…」
「Wizの娘よ! これも何かの縁だ、これをやろう!」
私の言葉を遮って、アサが叫ぶ。
”やろう”と言っているアサは土に埋まったままで動けなさそうなので、
仕方なし近付いて取引要請を受ける…、手渡されたものはずしりと重かった。
「ベルト…、ハイドベルト?」
「そうだ! ようこそ我がギルドへ! それはメンバーの証だ! さあ一緒にハイディン…」
「いらんわー! どぇーい!」
重たいハイドベルトを思い切り地面へ投げ捨てる。
「うぐぉ! 人の贈り物になんちゅうことをっ! キミは本当に失礼だな!」
「先生、マキにベルトは厳しいんじゃ?」
だからなんでお前は呼び捨てなのかと。
「あ、わたし、ベルトでも大丈夫ですから、こ、このハイドクリップを…、あぅ」
アコさんが自分のクリップを外そうと、土の中で一生懸命藻掻いている。
「いや、そういう問題じゃ…」
なんだか変な人たちに絡まれちゃったみたいだけど、
”ようこそ我がギルドへ”ということは、ギルド勧誘なのかな?
こんなところでハイドしながら、待っていたの?
「(先生、もう一押しですよ)」
いや、全然そんなことないし、聞こえてるんだけど、そこのスパノビ!
「うーむ、重いのか? その腕っぷし、キミは殴りWizだろう?」
「!!!………な…んですって…?」
「でだ、殴りWizのキミもぜひ我がギルドにどうかと思ってな!」
「ぜひぜひご加入をお願いいたします」
「結構楽しいよ、殴りWizでも全然大丈夫〜」
”殴り殴り”って…、アサとスパノビはいっぺんグーでぶちましょうか。
「あの…一つ、いいかしら」
「なんだね?」
「…私、殴りWizじゃないんだけど…」
「「「えええぇぇぇっ!!?」」」
私はそんなに腕っぷしが強そうですか、そうですか…。
「マンティスをマイトスタッフでぶん殴っていたじゃないか、あれはなんだ!」
「なんだ、ってこれはマイトスタッフじゃないし、殴ったのは最後だけで…」
「そういえば先生、さっきマキがソウルストライクも撃ってましたー」
…もう呼び捨てはどうでもいいや。
「フロストダイバーも使っていらっしゃいましたね」
「なに!? 殴りじゃなくて普通のWiz…、氷雷あたりか…」
何故かガックリと、残念そうに視線を落とすアサ。
アコさんもスパノビも、そんなに悲しそうな顔しなくても…。
今の時代、氷雷が普通かどうかは置いといて、うーん。
ちょっと誤解されてるようだし、誤解されたままも嫌だし、
それに…、これを聞けば勧誘もしなくなるでしょ…。
「あー、えと…違うよ」
「ん? 違うのか? やっぱ殴りか?」
「違う! ………もごご」
「なんだ? よく聞こえないぞ?」
「…氷念! 火も雷も地もいっさい持ってない、氷念のみだから!」
そう、私は最も中途半端で最も使い所の少ない、氷念魔術師…。
マジシャン時代からいろんなギルドに在席してきたけど、
この特異なスキルのために、狩りに誘われることも希で…。
最後にいたギルドは、みんないい人だったけど、
攻城戦ともなれば、参加する人数が多い方がいいだろうし…。
今までもギルド勧誘は何度かあったけど、
氷念しか持っていないことが分かるとみんなそそくさと離れていった。
「だから…、いいの、慣れてるよ、気にせず勧誘はなかったことに…」
ね? もう私となんか目を合わせられないでしょ…。
…って、あれ?
めっちゃ合ってる…。
無理矢理合わせてくる!?
ひっ、瞳が光り輝いてるっ!?
「おおお! なおさら我がギルドに持ってこいじゃないか! なあ?」
「ですね先生、普通のWizなら逆にお断りだけどねー」
「やっとメンバーが増えるのですね、お姉さんが出来たみたいで嬉しいです」
「はいい!?」
むしろ、殴りWizと勘違いされていた時よりも嬉しそうな顔でこちらを見ている三人。
「だ、だって、クァグマイアもないんだよ? ファイアーウォールもないんだよ?」
「そりゃそうだな、氷念だけなんだから!」
「ギルド狩りに行っても、範囲魔法ないし、効率出ないし、役に立てないよ、私」
「ふははははっ、アホゥめ!」
いきなりアサが笑い飛ばす。
とその時、三人の向こう側に三体の赤芋が突然姿を現し、こちらを狙っているのが見えた。
「う、後ろ!!!」
魔法の詠唱に入るため杖を握り直して構える私。
「ふご! 総員ハイディング解除! 行くぞ!」
「了解いたしました」
「ラジャ山ラジャ夫56歳」
もの凄い勢いで飛び出し、赤芋に向かう三人。
「Wizの娘よ! 我らの力、しかと見届けよ!」
振り向きざまにアサが叫ぶ。
ってことは、ここはお任せしていいのかな?
アコさんとスパノビがちょっと不安だけど、とりあえずお手並みを拝見。
「ブレッシング!!」「速度増加!!」
アコさんからの支援が飛ぶ。
「thxメンド、そして頼んだぜ、我が愛剣たちよ!」
支援を受けたアサは低い姿勢で走り込みながら、腰から二振りの短剣を引き抜く。
あ、あれはフォーチュンソード二刀流!?
「ニンッ!!!」
三体のタゲすべてを受けつつ、攻撃を繰り出すアサ。
バシュバシュッ!バシュバシュッ!ザザンッザン!バシュバシュッ!ザザンッザン!
…非常に効率が悪そうなクリティカルとダブルアタックの交互攻撃。
そして回避は…、まったく喰らっていないけど、特に避けている訳ではなくて、
たまたまタイミング的に赤芋の攻撃がスカってる、いわゆるラッキー…。
…す、すごい…、幸運剣二刀のクリティカルと完全回避はすごいけど、
与ダメがなぜそんなに少な過ぎですか…。
「はあああっ!!!」
アサとスパノビに支援をし終わると、今度は自分にもブーストを掛け、
アコさんがホーリーラ…あれ、違う!? シャキーンってスピポ飲んだの!?
あ、あっ、武器も持たずにそのまま突っ込ん…、殴りっ!?
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!
ミスはあるものの、速いっ、両手を組んだ高速ゲンコツ!
しかもアサより高ダメージって…。
あ、あのむかつくスパノビは!?
「スティール!!」「スティール!!」「スティール!!」
赤芋相手に華麗にスティールを決め、そして一歩離れて…、
「ファイアーボルト!!」
Lv1のファイアーボルトを詠唱…、ってあれ?
七発、八発、九発、十発…十発の炎の矢が…、
い、今のファイアーボルト、Lv10の詠唱なのっ!? 速い!
でも、そのダメージの少なさはいったい…。
気が付けば、倒した赤芋に腰掛けて、三人は笑い合っていた。
「さすが先生、一発も貰いませんでしたね〜」
「何匹に囲まれても無問題だ! 倒すのに時間掛かるがな!」
「桃丸さんも相変わらず華麗なスティールで、うっとりしてしまいました」
「えへへー、あ、先生、エル一個出ましたよー」
「でかした! メンドも凄かったぞ! ぶっちゃけお前が一人で倒したようなもんだ!」
「そうだよメンちゃん、惚れ直したー」
「きゃー」
赤芋でこんなに盛り上がれるものなのだろうか…。
ぽかーんと口を開けて佇んでいた私に、思い出したようにアサが声を掛けてきた。
「ところでWizの娘、今ので分かったと思うが我がギルドは…」
「…趣味ステ趣味スキル集団?」
「まあ、身もフタもないが、そんなところだ!」
驚いた…、今のこの世界にこんな人たちが未だに頑張っていたなんて…。
「でだ! さっきの続きだが、どうだ?」
「え?」
それはつまり、こんな私でも勧誘してくれると…、いうの…?
「稼ぎなんぞいらん! 効率なんて糞喰らえ! レベルはその内上がるもんだ!」
「ご自身が持てる力のすべてを使って、一緒にモブを討伐しましょう」
「マキのフロストダイバーとおいらのライトニングボルトで、ガンガン行けるよー」
「まあ、あれだ!
…オレらは見ての通りの趣味ステ趣味スキル。
このギルドを結成する前までは、それぞれで頑張ってきたわけだが、
どこのギルドでもお荷物扱いで脱退、もしくはそうなるのが嫌で言われる前に脱退、
正直、人生やり直そうかと思うことも多々あった。
だがな、
それは本当の自分じゃないだろう? だからオレたちは集まった。
一人一人の力は同じ職の連中に比べれば弱いかもしれない、
いや、確かに弱い、しかしだ!
それらが合わさったとき、とてつもない力を生むとオレは信じている!
まだそんな事は一度もないがな!
それと…、一人じゃ寂しいだろう?
大丈夫だ、キミの仲間は、ここにいる!」
「…ぅ、うぅ」
不覚にも、涙が溢れた…。肩の震えが止まらなかった…。
ずっと一人で気を張って強がって、我が道を行く魔術師を演じていた。
本当は、辛くて辛くて挫けそうだった。
強力な魔法を使いこなす他の魔術師を羨ましく思ってた。
攻城戦で人数が必要だからなんて嘘、本当は厄介者になるのが怖かったから。
だから、そうなる前に自分から抜けた、本当は寂しくてどうかなりそうだった。
でも、でも…、この人たちは、こんな私を…。
「はっはっはっ! そんなに面白かったか!」
「マスター、マキさんは泣いているように見受けられます」
「なんだと!?」
「あー、先生が泣かしたー」
「ばっか、違うよ、ばっか、オレじゃねえよ、マジで!」
「マスター、お謝りなさい」
「うん、ごめ…じゃない! 泣いてねえって! 笑ってるんだって!」
「まー、こんな先生だけど、許してやってね〜」
「…うぅ…、…ぅぷっ、くすくすっ」
…ホントにこの人たちは…、雰囲気ぶち壊しだよ、ふふふ。
「あ、笑ってるー」
「よかったです」
「だろ? どこが面白かったのかさっぱりだがな! ふははは!」
「くくく…」
「あははははー」
「もう…、好きにしてよ、ふふふ」
アコさんの笑い方がちょっと怖いけど…。
こうして私は、成り行きで新たな仲間を見つけることが出来た。
ギルマス聞こえる? 私はここで頑張れそうだよ。
「時にマキよ、キミの最大火力はなんだね?」
「おいらは三色ボルトLv10〜、とスティールLv10」
いや、お前は聞かれてないよ、桃丸くん。
「わたしはこの拳…」
メンドさん、拳握るときだけ目付きが変わるのね…。
「ちなみにオレは、この短剣しか持ってない、というか他を買う金がない!」
「先生、幸運剣の為に装備品全部売っちゃうんだもんなー」
「黙れ! これが昔っからの夢だったんだからいいんだ!」
夢か…、私の夢は…、
「私は…」
「なるほど!」
「まだ言ってない! ったく、私は…、ギルマスと二人で慎ましくも幸せな生活を…」
「ふお!? なんだいきなり! ギルマスって、オレに一目惚れか!?」
「え? うへぁ!? 違う違う、話題が違う!!!
最大火力だよね、えぇと、なんだろう、コールドボルトLv10かな。
あとはソウルストライクLv10と、フロストダイバーLv10」
「ほほう! あとは?」
「え? あとは…、
ナパームビートLv10、セイフティウォールLv10、
SP回復力向上Lv10、…とモンスター情報」
「それから?」
「え? ううん、これだけ、これで全部」
「「「………」」」
な、なに、その憐れみの眼差しはっ!?
辛そうな顔で近付いてきて、ぽんと肩に手を置くスパノビ。
「苦労したんだね…、おいらも魔法職だから何となく分かるよ」
くっ、微妙に悔しい気がするんですけど!
そして、何故か半分涙目のアコさんがぽつりと。
「そこまで徹底的に氷念でいらっしゃるとは…、マゾですね」
そして、
「スキル少なくて寂しいだろう、これを受け取れ!」
アサが差し出したものを、そのまま勢いをつけて地面へ。
「うお! こら、ちゃんと受け取れ、このハイドベル…」
「いらんわーーーっ!」
「では、わたしのハイドクリッ…」
「だ・か・ら、そういう問題じゃなーーーいっ!!!」
なんでこの人たち、こんなにハイドが好きなんだろう…。
「マキよ、お前はどうやってギルド勧誘するつもりなんだ!?」
「ほ?」
「一人だけ外に突っ立ってるとでもいうのか!?」
「はあ!? 私にもあれをやれと!? あんな勧誘出来るかーっ!」
「…最初は、辛かったです…、でも慣れって怖いです…」
「だねー、恥ずかしいのは最初だけだよ〜」
「そら見ろ! これが我がギルドのスタイル!」
「…それで、今までに私以外で勧誘に成功したことはあるの?」
「………さ、行こうか!」
「流すなーーーっ!」
訂正:ギルマス聞こえる? 私、頑張らないといけなそうだよ…。
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第二話 |
崖際に立つと、吹き上げてくる心地よい風が私のくせっ毛を揺らす。
眼下に流れる雲を眺めながら、そっと自分の腰に手を伸ばしてその存在を確かめる。
後ろにはギルドの仲間たち、でも私の行動は大きなローブのおかげで彼らには見えない。
それは、カチャリと、軽い金属音と共に簡単に外れた。
あとはこの手の力を緩めれば、雲の下に広がる湖の底へそれを連れて行ってくれることだろう…。
でも、私には出来ない…! そんなの生温い!
豪快に振りかぶらないとこのモヤッと感は消えない!
貰い物だけど、私は謝らないっ!
「どぇーい!」
「きゃー!」
「あっ! 先生、マキがっ」
「うお! 待てマキ! 早まるな!!!」
振り上げた腕をアサに掴まれ、腰のあたりをスパノビに後ろから巻き付かれ、
涙目で見上げるアコさんに足元にすがり付かれて、
ジタバタともがく私はマキ、氷念特化の避け魔術師。
溜まり場としては少々不便で迷惑なゲフェン西の展望台で、
ギルドPT狩りの後の休憩をしてたところなんだけど…。
「ふう、迂闊に目を離せんな!」
ようやくおとなしくなった私の腕を離しながら、
額に汗を浮かべて、腕のしびれを取るような動きをしつつ、
ギルマスのアサ、ブチ虎がため息を吐きながらぼやく。
「私ってそんなに腕っぷし…じゃなくて、
こんなのギルド勧誘の時だけ着ければいいでしょ?」
ギルドに加入して、このハイドベルトの装着を義務づけられたけど、
どうして普段の狩り中も着けてなくちゃいけないんだか…。
「確かにそうだが、勧誘のチャンスってヤツはいつ訪れるか分からんからな!」
「だね〜、マキの勧誘の時もそうだったしー」
相槌を打つこやつはスパノビの桃丸。
あれ、そうだったの? 誰か来るまですーっと待ち伏せしていたのかと…。
「備えあれば憂いなし、ベルトが重いのでしたら、わたしのハイドクリ…」
「だ、大丈夫、そういう問題じゃないし…」
事あるごとにクリップを勧めてくるアコのメンドさんは、
この中では一番まともそうな人なんだけど…、未だ正体不明。
STRが低い私のようなWizにとって、この重いハイドベルトは確かに厳しいものがあるけど、
私にはもう一つ悩みがあるとです! どうにかならんのかい、これ!
■■マキ(見て!もっと見て!)
■■愉快ナふいんきノ中間たち[氷念]
「ゆかいなふいんきのちゅうかんたち」…。
PT名は置いといて、エンブレムがただの無地なのが唯一の救いかな。
ちらり、他の連中のも見てみる…。
■■桃丸
■■愉快ナふいんきノ中間たち[盗人]
■■メンド
■■愉快ナふいんきノ中間たち[素手]
■■ブチ虎
■■愉快ナふいんきノ中間たち[さすらい忍者 運任せ派]
みんないつの間にこの恥ずかしいPTを抜けたの!?
/leave! /leave!
「ね、ねえ、ブチ虎さん、このギルド名なんとかならないの?」
「はん? ギルド名だと!?」
「うん、これってさ…、
×ふいんき → ○ふんいき
×中間 → ○仲間
雰囲気にすれば一文字短くなるから、半角も必要なくなって、
『愉快な雰囲気の仲間たち』になるでしょ? 本当は」
「「「!!!」」」
まさか、全員気付いてなかったの?
「みんなでお話し合いをして、頑張って11文字に詰めたのですが…」
「中間はおいらも気付いてたけど、ふいんきが変換出来ないのはそういうことか〜」
「ごめ! マジごめ! チョー恥ずかしい!」
む、いつも何か言い返してくるのに、この反応は…!?
「…みんな、やけに素直ね」
「ギルドの看板だからな! ここはひとつ、キチッと直そう!」
ほ、ブチ虎さんも基本的にはまともな人だし、よかったよかった。
「だね〜、今ならちょうど全員集まってるしー」
「そうですね、あとはエンペリウムさえあれば大丈夫ですね…」
そして、三人の視線が私に集まる。
「…何?」
「オレは、ない! 何もない! 元からない!」
「昨日ドロプスc買っちゃったから、おいらもない〜」
「青箱破産したばかりですので…ちょっと…」
くっ、素直だった理由はそれかっ! きぃー!
「まあ、落ち着けマキ! ギルド名のことは実は気付いていたんだがな!」
いや、それは結成する前に気付いて欲しい…。
「あ、ほら〜、言い出しっぺが…とか言うじゃなーい?」
「みんなそんなに裕福じゃないので、言い出せなかったのです」
誰かが青箱破産したことは聞かなかったことにしておこう…。
まあ確かに、言い出したのは私だし、エンペリウムならなんとかなるかな。
こそこそと財布の中身をチェックしてみる。
「おお! スゴイぞ、マキ! 小銭の山だな!」
「うへぁっ!? 覗くなこらーっ!」
ふむ、買えなくはない懐具合、ここはひと肌脱ぎますか。
「エンペリウム代は私が出すから、今度は失敗しないでね?」
「かたじけない!!!」
「やった〜」
「マキさん、本当にありがとうございます」
メンドさんにお金を渡すと、首都←→溜まり場直通ポタでサクッとエンペリウムゲット。
黄金に輝くその金属が、ブチ虎さんに手渡される。
「と、その前にだ! またオレがマスターでいいのか?」
「うん、おいらは異議なし〜」
「わたしはマスターというガラではないですし…」
かなり言動におかしなところはあるものの、このブチ虎さん、
面倒見もよく、ギルド勧誘も積極的で、ギルド狩りなどもよく企画してくれるし、
何よりこのメンバーをまとめているという点はかなり凄い。よって、
「私も異議なし、マスターはブチ虎さんしかいません」
「わかった! ありがとう、みんな! 期待は裏切らないっ!」
決意に満ちた表情で、エンペリウムを握る拳に力を込め、
空に向かって突き出したその腕は、かなりガクガクと震えてる。
「久々で緊張するなっ!!!」
お、落ち着いて…。
「失敗したらエンペリウムが水の泡〜」
おいこら桃丸、プレッシャー掛けるな!
「い、行くぞ! 『愉快な雰囲気の仲間たち』だよな!?」
うんうん、頑張れ。
「マスター、ギルド結成のコマンドは覚えていらっしゃいますか?」
えぇと、コマンドは確か、/guild かな。
「………」
ん? ちょっとどうしたのブチ虎さん、固まってますけど…。
あれ? ギルド勧誘? 結成出来たの?
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『でいいんだよな!?』ギルドから
加入要請のメッセージが来ました。
加入しますか?
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「はっはっはっ…はっ…、すまん…、ホントごめんなさい…」
「昔『でいいんだっけ?』というギルドは見たことがあります」
「うわ〜、やっちゃったなー、先生…」
「………CANCEL」
さようなら、私のほぼ全財産。
そして、私に力を貸してくれる? ねぇ、スタッフオブソウル…。
「ままま待て! ははは話せば分かる!!!」
メンドさんからブレスが掛かり、私の頭上で天使が回る。
「…問答無用、ゲフェン塔のてっぺんまで吹っ飛べーっ!」
ブンッ、ズガゴーンッ!
「ぐぼぁっ!? やっぱそれマイトスタッフだろおぉぉぉ〜………ぉぉぁぁ………ぃゃぁぁぁ………ぁっ」
ぼちゃーん。
「お金が貯まったら、今度はおいらが買うよ〜」
「わたしが余計なことを言ってしまったのでしょうか…、あ、草」
「いや、まあ、緊張してたみたいだし…、しょうがないか…、はぁ」
ニョッキリと展望台に生えてきた輝く草をぽこぽこ叩くメンドさんを眺めながら、
ちょっとやり過ぎちゃったかな、とプチ反省。
ぽこぽこ、ポロ…。
「あ、…エンペリウムげっつ」
「「ぶーっ!!!」」
湖に浮かぶブチ虎さんを回収し、無事『愉快な雰囲気の仲間たち』が結成されたのは、
それから間もなくのことでした、まる
|
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第三話 |
「へい、らっしゃーい! 安いよー!」
「来年もよろしくね!」
「温かいミルクはいかがですか〜v」
「うほっ、いいお年、を^^」
喧噪に耳を澄ませば聞こえてくる、暮れの元気なご挨拶。
久々に立ち寄った首都プロンテラは、小雨混じりのあいにくのお天気だったけど、
聖職者も走る年の瀬、街は異様な活気に満ち溢れている。
「それにしても寒ーい、雪になるかしら…」
人波でモミクチャにされたローブを深く重ね合わせて、
真新しいマフラーをしっかりと巻き直す。
これは、この間のギルド狩りで出たスロット付き。
みんな持っているから、と私に譲ってくれたものだけど、挿すカードがまだなくって。
でもなかなかどうして、薄い作りのわりに暖かいものなのね…。
「さてと、サンタポcも売れたし、お買い物お買い物v」
ギルド『愉快な雰囲気の仲間たち』に入ってから随分経つけど、
なんだか未だに新人さん扱いの私はマキ、氷念特化の避けWiz。
確かに私が一番新人だけど、いつもいつもお世話になりっぱなしなので、
この間のアベック狩…じゃない、偽サンタ狩りでプレ箱からサンタポcが出たので、
これを売って、みんなに何かプレゼントしようかなって。
まあ、クリスマスは知らない間に過ぎちゃったし、
何もないのにプレゼントと言うのはちょっと照れるので、名目はお歳暮にしておこう。
マスターのブチ虎さんには、幸運剣の為に売ってしまったと言っていた、
ウサギのヘアバンドを購入、極LUKだもんね。
「マタ嫌いー、マタ怖いー」と言っていた桃丸くんは極DEXだから、
これ狙いなのかな? ということでゼロムcを。
メンドさんはほとんど装備が揃っているのに青箱好きなので、
グレードアップ版の紫箱を贈ることにした。
倉庫に保管しようと、西門のグラリスさんを目指して人でごった返すメイン通りを歩いていると、
「ジングーベー、ジングーベー、ジングーローラベー♪ あれ、マキだ〜」
「ぶーっ!」
クリスマスは過ぎているというのに…、キミのカレンダーは何日遅れですか、桃丸くん。
というか、そのいい加減な歌詞はいったい…。
「首都で会うなんて、珍しいね〜」
「私も久々に来たから。と、桃丸くんも何かお買い物?」
「う…、ううん、違うよ違うよ、さ、散歩散歩〜」
…ぁゃιぃ。
「あれ、先生も来た〜」
「おろ!? 桃丸にマキじゃないか! ひ、久しぶりだな! 元気だったか!?」
「いや、さっきまでゲフェンで一緒だったし…」
そう、少し前まで全員溜まり場で次のギルド狩りの打ち合わせだったじゃないですか。
「あら皆さまお揃いで…、本年も何卒よろしくお願い申し上げます」
「「「………」」」
…素なのかボケなのか時々わからないメンドさん。
何故か首都で再集結してしまった『愉快な雰囲気の仲間たち』ギルドの面々。
「ところでお前たち! こんな所で何をしているんだ! ええ!? どういうことだ!」
「ちょ、なんで急に喧嘩腰なのよ」
「おうおうおう! オレの行動は筒抜けなのかYO!?」
「…はい?」
「先生、先生、訳わかんないですよ〜」
いきなり取り乱し始めたブチ虎さんを見て、メンドさんがポンと手を打つ。
「あっ、マスター、今日買いに来たのですね、みんなに内緒でいきなり渡すと言っていたあの…」
「うわあああーーーっ!!!」
「ほぉがぐぐ!」
慌ててメンドさんの口を塞ぐブチ虎さん。
「こらメンド! 危うくバレるところだったぞ! みんな、ナンでもない! ピザ生地だ!」
…いや、なんか半分バレてしまったような気がしなくもないんですけど…。
「ナンじゃなくてピザなんだー、なるほど〜」
桃丸くんも何に納得してるんだか…、あ、向こうのバードさんがメモしてる。
ジタバタしていたメンドさんもようやく解放され、
「もが、ごめんなさい…わたしったら…、で、みんなにお歳暮を…」
「うわあああーーーっ!!!」
…メンドさん、私、あなた好きよ。
「こほん! じ、実はだな!
日々ギルドの為に頑張っているみんなにプププ、プレゼントを!
と思っていたんだが、クリスマスはなんか知らん間に過ぎ去ってしまったし!
かと言って、みんなお年玉という歳でもないだろう、いや明らかに違うし! 特にマキ!」
「言い直すな、名指しするな」
「そこでだな! あまり仰々しいのもなんだから、お歳暮ということでだな!
こう、みんなに内緒で渡そうかと思ってな! うっはっはっ!」
そう言って、のしが掛かった二個の包みを取り出すブチ虎さん。
立派に仰々しいというのは置いといて、どんなにお馬鹿を装っていても、
ギルドのみんなのことを本当に思ってくれているこの人に、ちょっと感激して涙が…、
「バレてしまったのは仕方のないことです…、さあマスター、気を取り直して」
「うむ、そうだな! thxメンド!」
…もしかして本当にお馬鹿なのかな。
そして、お歳暮という発想が私と似ているよ…。
「ちなみにオレとメンドはお互いさまということで、これはキミたちの分の二個だ!
あと、オレとメンドの共同購入だ! いろいろ気にするな!」
「わ〜い、あ、でもね先生、実はおいらも…」
「ん? なんだ!?」
ごそごそとカートから三個の包みを取り出す桃丸くん、
…のしが掛けられている、まさか。
「おおっ!? お前もか! 桃丸よ!」
「えへへ〜、この間のクリスタルでちょっと稼げたからー」
「くくく、考えることはみんな一緒なのですね」
そして、私が抱えているのし付きの三個の包みに、みんなの視線が集まる。
「…そういうことなのか、マキよ!」
「お察しの通りよ…、ふふふ、ホントにみんな考えることが同じね」
「あははー、やったー、お歳暮交換会だ〜」
「なんだかワクワクしますね」
みんながみんなバレてしまったので、さっそくというか、
人混みを離れ、首都西の地下水路入口辺りでお歳暮の交換に。
まずは桃丸くん。
「はい、これ先生〜、カードは好きなの挿してね〜」
「おおっ!? ブーツではないか! これでサンダルとおさらばだ! ありがとう!」
サンダルだったのか…。
「これはメンちゃんに〜、えへへ〜」
「まあ、カード帖、ありがとうございます」
カ、カード帖ーっ!?
「ドロップ品だけどね〜。そして、マキにはこれ〜」
「えっ!? と、とんがり帽子ーっ、い、いいの!?」
「いいのいいのー、マキ、頭装備ないもんね」
そうです、私、頭装備ないんです…。
そして、次は私から。
「ぬっふぉおおおーっ! お帰りウサ耳ーっ! ありがとうありがとう!!!」
「まあ、紫箱、今宵はギャンブル漬けになりそうです、ありがとうございます」
「わわわ、夢にまで見たゼロムだー! ありがと〜、狩りに行けなかったから嬉しいー」
ふふふ、よかった、みんな喜んでくれたみたい。
「では最後だ! オレとメンドから二人へ!」
さっそくウサ耳を装備したブチ虎さんから、包みが渡される。
「桃丸さんへのお歳暮は、マキさんとちょっと被っちゃいましたけど」
「うわわ、またまたゼロム〜と、クリップがえ〜と、いっぱーい」
「スパノビはアクセサリが限られているからな! アミュレットにはないMSP+10だ!
なーに数は気にするな! 一時期アラームたんに会ってみたくて籠もっていただけだ!」
アラームたんって誰? そして、私は………私もクリップ?
「今まですまなかったな、マキよ! やっとカードが手に入ったのだ! 今度は軽いだろう!」
「ハ、ハイドクリップーッ!!! きいぃーっ!」
「はっはっはっ! 嬉し過ぎてちびるなよ! まあ、あれだ! 箱はすぐに捨てるな!」
ほ? 箱? あれ、底に何か…、こ、これって!!!
「それにしても冷えますね、この雨も雪に変わりそう」
メンドさんが肩をすぼめながら、目を細くして空を見上げる。
「ねーねー、みんなで雪、見に行かない〜? ルティエならきっと雪だよ〜」
そういえば、今年はまだ一度しか雪を見てなかったっけ。
「ルティエは危険だ! この間アベック狩…ごほほっ、ちょっと遊びに行ったら、
アクエンが徘徊していて死んだぞ! なんだ、あれは!」
ブチ虎さんも行ったのね、アベック狩り…。
「あ、それは結婚式だと思います、おそらく」
「それは怖いな〜、けど雪見たいよー」
雪か…、この小雨なら、もしかしたら…。
「本当はストームガストがあればいいんだけど…、ちょっと試してみるね」
「「「???」」」
「ソウルストライク!!」
遥か上空に向かって精霊を解き放ち、細かな雨粒をもっともっと散らせる。そして、
「コールドボルト!!」
Lv10の長い詠唱、沸き上がる魔力によって、周囲の温度が少しだけ下がる…、と。
「あ…、ああっ、雪だ〜〜〜っ!」
「まあ…」
小雨は雪の結晶に生まれ変わり、静かに私たちの上に降り注いだ。
「よ、よーし、おいらもコールドボルトを〜」
「桃丸さんは詠唱が早すぎて雪にならないような…」
「あ、そっか〜…」
「ふふふ、まあ、ここは任せて」
精霊が舞い踊る中、青白い光の柱を中心に、静かに降り積もる白い雪。
周りにいた人たちも徐々に集まり、肩を抱いて空を見上げているカップル、
はしゃぐ子供たち、そして共に詠唱を始めてくれる魔術師たち。
「わー、すごいすごーい! ルティエにも負けないよ〜」
「綺麗ですね」
「うん。って、あれ? ブチ虎さんは?」
ふと、ブチ虎さんの姿が見えないことに気付き、辺りを見回してみると、
こちらに背中を向けてしゃがんで、何かやってる。
「うっひゃー! うめぇー! おい桃丸よ! 赤ポ持ってこい!」
「あー! 先生だけ何してるの〜、おいらもー」
「…ったく、イチゴシロップの代わりかしら、冬にかき氷なんて…」
「子供みたいですね、…ともあれ、今年のように来年もみんな一緒で、よい年でありますように」
メンドさんが手のひらで雪を受け止めながら、ぽつりと呟いた。
「うん…、それと、ありがとうね、ずっとずっと大切にするよ」
私は相づちを打って、詠唱で乱れたローブを深く重ね合わせて、
真新しいウィスパーが宿ったマフラーをしっかりと巻き直し、とんがり帽子をちょこんと乗せた。
冷たい空気を胸一杯に吸い込んで、
ひらり、童心に還って雪の上を駆け出す、ブチ虎さんと桃丸くんに向かって。
本当にありがとう、そして、みんな、来年もよろしく!
「こら〜っ、かき氷にはメロンシロップでしょ〜? うふふv」
「わー、先生本当にうまい〜」
「だろ!? 可愛いだろ、この雪ルナティック! 赤い目がポイントだぞ!
ってどうしたマキ、子供みたいに雪なんか喰うのか!? 食いしん坊だな!」
「ぶふーっ!」
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第四話(未完) |
カラカラカラ…、カララッ! カラララーーーッ!
船長の舵捌きに軽快に反応して、荒れ狂う波を次々と乗り越えてゆく船。
操舵室でも立っているのがやっとの嵐の中、甲板に立つ人影がひとつ。
横殴りの雨を受けても、波飛沫を被っても、
その人影はある場所を目指して着実に歩みを進めていた。
「むぅ、次のはデカそうじゃ、全員掴まっとれぃ!」
船長の声が操舵室に響き渡る。
慌てて近くの柱に抱きついてはみるものの、甲板の人影がやはり気になってしまう。
私と船長の他にもう二人、操舵室にいる仲間もやはり気持ちは同じだった。
我慢できなくなったのか、その内の一人が近くの窓を開け放って、甲板の人影に向かって大声で叫ぶ。
「次の波デカいみたいで〜す! そろそろ諦めて〜!」
「あ、あの舳先(へさき)で、あの舳先でーっ! ふおおおーっ!!!」
甲板の人影、アサシンが振り返りもせず、歩みをさらに進めながら叫び返した。
はあ、と溜め息をつくのは操舵室のもう一人の仲間。
「…一人タイタニックでしたら、今日でなくても出来そうですが」
「…そうね、どうして好き好んで今やるのかしら…」
理解に苦しむ私はマキ、氷念特化の避けWiz。
今日はアサのブチ虎さん、スパノビ桃丸くん、アコのメンドさん、そして私の四人で、
お雑煮という期間限定のメニューを食すためにアルベルタから船に乗ったんだけど…。
「漢の浪漫じゃ、好きにさせてやりなされ…っと、来やがったぞぃ!」
眼前に迫った高波を捉えて、船長の表情がより一層険しくなった。
今までで一番大きな波、それに向かって巧みに船首を操る船長が雄叫びを上げる。
「こいつを抜ければ、アマツじゃ!!!」
ドッパーン! 船首から高波に突っ込む船。
正に波に呑まれるような恰好になり、船体が軋みギギギーと悲鳴を上げる。
轟音と操舵室に襲いかかる波の衝撃で、船長以外は全員その場から吹っ飛んだ。
壁にしこたま後頭部をぶつけて倒れた私は、天井で激しく揺れるランタンを見上げて、
出航した時はあんなに晴れていたのになあ、と太陽の光をだぶらせながら、闇に落ちていった…。
ニャア、ニャア…、ザザーン、ザザ〜。
「ん…、と、ここは…って、いたたた…」
まだ少し痛む頭をさすりながら身体を起こしてみると、
操舵室の窓から見えたのは海原ではなく、広い広い砂の海岸。
「よーし、もう少しだ、みんな頑張れー!」
「おうよー! 一気に引くぞー、そーれっ!!!」
私たちが乗っていた船は、海岸近くで座礁していたのか、
何人もの人が船体を岸に引っ張り上げている最中だった。
隣では、メンドさんと桃丸くん、そして船長も床に突っ伏したまま。
…って! ブチ虎さん! 甲板にいたブチ虎さんが無事なはずない!
まさか海に…、と慌てて甲板を覗いてみると…。
なんということでしょう!
ブチ虎さんは無事に舳先に辿り着いていたのです!
一人タイタニックの恰好で、気絶しながらも、うなだれるようにして舳先に。
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