我が家の前の桜も満開となり、釣りの神様が「川へ行かんかい」と耳元で囁きます。花見の誘いも断り、(いつものように)家族も顧みず馬瀬川に出かけました。何か気が落ち着かず、朝早く目が覚めてしまったので、息子のためにアンパンマンのタイマー録画を予約して、荷物を車に積み込み出発しました。前日の雨で水量が心配でしたが、今年はこんな事ばかりですし、いつ行っても同じやという気持ちで車を北へ走らせます。 途中の佐見川は大増水しています。「ゲッ!」と思いましたが、後には退けません。アクセルを踏み込み、そんなものは見なかったことにして、一路馬瀬川に…。

 アホみたいに早く家を出たので、のんびりと川沿いを走りながら、様子を伺いました。数河地区を過ぎると、橋という橋に餌釣りの人たちが陣取っています。土曜日が放流日だったので、集まってきたのでしょう。水はかなり高く、風も吹いています。 そのまま上流へ車を走らせます。川上を過ぎると、山の中にはまだ雪が残っています。パスカル清見周辺でも何人かの人が竿を出しています。しばらく見ていましたが、誰も釣れていないようでした。

 麦島まで来るとさすがに雪も多く、冬の様相です。橋の上から見ると、サッと動くものが!じっと見ていると、何匹かの魚が泳いでいます。急遽釣り支度をし、静かに川に近づきました。そっとニンフを沈め、魚の居る所に流し込みます。と、その時橋の上から声がします。見上げるとおじさん(おじいさん?)が何か言っています。「釣れるか?」と聞くので、「魚が見えたので、今始めたばかりだ」と答えると、そのまま行ってしまいました。
 気を取り直し、少し間をおいてからキャスティングを始めようとすると、今度はチリンチリンという派手な音が…。見るとさっきのおじさんが、腰に熊鈴をつけて降りて来るではありませんか!手にはしっかり竿を持っています。そしてそのまま私の流しているポイントの横を通り過ぎ、下へと歩いて行きます。余りにも予想外の出来事に、怒りもどこかへぶっ飛んで、しばしボーゼン・・・。その場をすぐに離れたのは言うまでもありません。

 もう一度下流に戻り、車を止めました。餌釣りの人が激流の中に立ち混み、大石の裏を丁寧に探っています。「昨日大水が出たばかりで、そんな激流の中にいるのかいな?」と思いながら見ていると、竿が満月のようにしなりました。暫く激流の中でやりとりをした後、その魚は無事ネットに収まりました。思わず拍手をしてしまった私の方を見て、その人はにっこりとし、こちらに近づいてきます。見せてもらうと尺は軽くある大岩魚でした。上手のプールで釣らせてもらうことにし、ライズを待ちました。

 11時を回る頃、チラホラとカゲロウが出始め、散発のライズも始まりました。ライズの間隔が短くなるのを見計らって、キャスト開始。水面を流れるカゲロウが補食されているのもはっきりと見えます。増水のため流れがきつく、すぐにドラッグがかかってしまいます。立ち位置を変えたり、プレゼンテーションの位置を変えたりして何とかドラッグを回避しようと努力するものの、30pもドラッグフリー流すのがやっとです。ライズは益々増えてきました。ところがことごとくフライは無視されます。

 一体何を食べているのでしょう。目の前のライズと無視され続けるフライ…。頭の中は完全にパニック状態です。かなり大きな赤茶色のカゲロウです。かなりボリュームがあるその姿は初めて見るものでした。とはいえ、魚がそのカゲロウを食べているのかどうかも定かではありません。ひょっとしたらもっと小さいものを食べているのかも知れません。水面を観察してもユスリカが見えるだけで、他には何も発見できません。試しにミッジを流して見るもやはり無反応…。

 そうしてライズも少なくなり、やがてはもとの静かな川へ…。今日も惨敗でした。