山のちょっと不思議なお話 -- 徳本峠へ

2001年のゴールデンウィークに、それまで行ったことのなかった徳本峠へ
行きました。展望台から前穂の写真を撮りたいと思ったんです。

朝、上高地を出発し、午前8時ぐらいには明神をすぎて徳本峠へ向かう道
への分岐まできました。しばらく行くと本格的な雪道になり、途中でやは
り徳本峠へ行くと言うおじさんが追い抜いていきました。
その後、他には誰も来ず辺りは静まり返っていましたが、さっきのおじさ
んのものと思われる新しいトレースがあったので特に不安はありません。
そのトレースをたどって沢に沿って左に曲がると本格的な登りになり、沢
横の急斜面をトラバースし、その後も延々と続く急斜面で休むところもほ
とんどなく、ただただ必死で登りました。

徳本峠への分岐から既に3時間30分が過ぎ、西穂山荘の辺りが同じぐらい
の高さに見えています。
なんか変?? 夏道と同じなら、コースタイムで2時間30分なのに...
それに、徳本峠の方が西穂山荘よりだいぶ低いはず。
でも、このはっきりしたトレースがあるんだから...
なんとなく心配になりながらも登高を続け、やっとの思いで稜線に上りつき
ました。ところが、辺りを見渡しても右も左も似たような樹林で、どこだか
よくわかりません。それに、稜線上は雪が堅くなっているせいか急にトレー
スがなくなっていました。

わたしは、はじめて道を間違えて違う沢を登ってしまったことに気がつきま
した。どこで間違えたのか、検討がつきません。それどころか、自分がどの
あたりにいるのかがよくわかりません。

「これは、まずい。道に迷った!」
「冷静にならないと。稜線上なんだから、北か南か二方向しかない。」

時計を見ると、12時を過ぎています。登るのに4時間かかった。かなり
傾斜が急だったから、元来た道を戻るには3時間以上はかかりそう。もし、
1時半までに徳本峠小屋が見つからなかったら、引き返そう。
でも、変にうろうろして、降り口がわからなくなったら、進退窮まる事態に
なる。
そう思って、ピッケルで雪面に目印を付けました。

稜線をしばらく北へ進んでみました。古いかすかなトレースを見つけました
が、こっちではなさそう。こっちは大滝山の方向らしい。引き返して、南側
へしばらく行くと急に樹林帯が開けて、下の方に無事徳本峠小屋を見つける
ことができました。
こんな経験は初めてでした。でも、冷静さを失わなくて良かったと思います。

小屋について、あの時追い抜いて行った人を捜しましたが、どうもそれらし
い人が居ません。他の方にも聞いてみましたが、大滝山の方向から来たのは
わたしだけとのこと。

じゃ、あの人はどこへ行ったんだろ?

大滝山の方へ行ったのかな。でもかなり距離があるし、この時期大滝山荘は
やってない。それに、徳本峠に行くって言ってたし...
まさか、どこか変な方向へ行っちゃった?

わたしがたどったトレースは、今日か古くても昨日ぐらいの新しいものでし
た。間違いなく、自分と同じ沢を登って行ったはず。もし、引き返したなら、
すれ違うはずだし...

地図でよく見ると、自分が登って来たらしい沢はだいたい検討がつきました。
徳本峠小屋のご主人にも話しましたが、そんな下の方で道を間違えるはずが
ないと言われてしまいました。

なんか、狐につままれたような変な気分でした。


どうしても、納得できなかったので、1年経った今年 2002年のゴールデン
ウィークに再度徳本峠へ行ってみました。

自分が間違えたところが、やっとわかりました。左に大きく曲がって沢の登
りになるところがあるのですが、奥の広い沢(黒沢)に行かなくてはならない
ところを手前の沢に入ってしまったようです。
でも、そこは樹林に覆われていて、積雪があるとは言え、とても登山道があ
るとは思えないようなところでした。もちろん、トレースなどありません。
どうして、こんな変なところへ入ってしまったんだろう?
去年のあのトレースは、いったい何だったのか?
間違えたポイントはわかったものの、疑問が晴れるどころか、ますます深ま
るばかりです。


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