邂逅3


 3日ほど過ぎた。
 久々の雨が降り、埃も、村人たちの血もきれいに洗い流してくれた。
 犬夜叉たちは、家の中にいた。屋根に打ちつける雨の音だけが、静かな小屋の中に響いていた。
 粗末な藁布団に寝かされていたは、静かに目を開いた。眠りが深かったせいか、疲労感はほとんど消えていた。
「目が覚めたんだね」
 のぞきこんでいた珊瑚が、ほっとしたような声を出した。
「待ちくたびれたぜ。聞きてえことが……」
「はいはいはい、その前に食事でしょ。ずっとなにも食べてなかったんだから」
 の枕もとにどさりと座った犬夜叉を押しのけるように、かごめが重湯の入ったお椀を持ってきて言った。
「……あんた、何者?」
 は、お椀を受け取ったが口をつけないまま、かごめに訊いた。
「それは、こっちの台詞なんだよ。あの鬼はなんだ? 巫女は? 怪我を治すあの能力(ちから)は……」
「犬夜叉、いっぺんに訊くものではありませんよ。、落ち着いたら順々に話してもらえますか?」
 弥勒の言葉に、は頷いた。なにから話すべきか少し考え、やがて口を開いた。

「あたしの住んでいた村は、小さいけれど争いのない、平和な村だった。あの日、あいつがやってくるまでは……」
 あの日、不意に現れた幽鬼は地鬼たちを使って、穏やかに暮らしていた村人たちの心に、憎悪と恐怖を植え付けた。それまで争うことを知らなかった村人たちは、皆手に鎌や鍬を持ち、地鬼たちに立ち向かおうとした。その殺意が頂点まで高まったとき、悲劇が始まった。
「……それまでは、そのように人の荒魂を寄せてしまうようなことはなかったのですか?」
 弥勒の問いに、は静かに首を振った。
「あの日までは、誰も傷つけあうような憎しみの心を持っていなかったから。……村人や地鬼たちの陰の気が、あたしの身体に寄せ集まり、あたしの魂はそれらのつなぎになったの」
 そうして、人々の憎しみと恐怖の固まった大きな鬼が現れ、村人たちは皆殺しにされた。
 全てが済んだあと、幽鬼がやってきて言った。
「なんてすごい能力なんだ! ……、もう君は僕の物だよ。絶対に他の奴には渡さないからね」
 そして、消耗しきったを抱きかかえて、人殺しの旅へ連れて行ったのだった。

「……その後、村を3つ全滅させたわ。何人殺したのか、わからない……」
 そう言って、はうつむいた。膝の上に置かれたお椀は、とっくに冷めていた。
「でも、それはちゃんのせいじゃないわ。ちゃんが悪いんじゃない!」
「そうじゃ! 悪いのは、あの幽鬼と奈落じゃ!」
 かごめと七宝の言葉に、は少しだけ悲しげに微笑んだ。
は、奈落のことは何も知らないのですか?」
 弥勒の問いに、は頷いた。
「……しかし、奈落はのことを知っていた」
「おまえ、桔梗って知ってるか?」
 犬夜叉が言った。
「花のこと?」
「違う。巫女だ」
 は、首を横に振った。犬夜叉は黙り込み、弥勒がまた質問役に回った。
「その、怪我を治す能力(ちから)はいつから?」
「これは、物心ついた頃から」
は、巫女だったのですか?」
「ううん、あたしの村には巫女様はいなかったの。おばあちゃんがあたしよりも凄い能力の持ち主で、拝み屋とか祓い屋みたいなことをしていたらしいわ。母さんには能力はなくて、まったく普通の人だったけど」
「父親は……」
「あたしには父はいないの! 生まれる前から」
 父親のことを尋ねた弥勒の言葉を、は激しい調子でさえぎった。何か訳ありなんだろうと悟った一同は、父親については触れないことを暗黙のうちに了解した。
「あの、古代の衣装をまとった巫女については?」
「ごめんなさい。何もわからないの」
「あの巫女の言った、足りない魂というのは桔梗様の魂のことでしょうな」
 弥勒は、珊瑚に問い掛けた。珊瑚は、弥勒の意見に同意して頷いた。
「そうだね。かごめちゃんと、桔梗と、それからちゃんが揃うと、何か起こるのかもしれないね」
「そうなると……」
 弥勒は、一同の顔を見回した。
は、私たちと一緒に行動するべきですね。幽鬼は消えましたが、奈落が他の妖怪を差し向けないとも限りませんし」
 かごめも珊瑚も七宝も、弥勒の言葉に頷いた。
「……でも、あたしと一緒だと、みんな危険な目にあうよ。……もしも、また鬼が……」
 が困ったように言うと、犬夜叉は鼻で笑った。
「あんな鬼、俺たちが怖がると思ってんのかよ。それより、てめえみたいな物騒な能力持った奴が、他の妖怪の手に渡ったほうが危ねえんだ」
「かごめ様がそばにいる限り、は鬼を寄せることはないと思いますよ。心配することはありません」
 弥勒の言葉に、かごめも頷いた。―――もっとも、心の中には少しばかりの不安があったのだが。それを表情に出すことはなかった。
「じゃあ、今から、もおらたちの仲間じゃな!」
 七宝が、無邪気な声をあげた。
 その言葉には戸惑ったような表情を見せた。―――そして、こくりと頷いた。




私がHPを開設しようと思ったのは、この話を書きたかったからです。
ていうか、妄想になってて文字にするまで頭から離れてくれないw
かなり暗いドロドロ系の話で、ハッピーエンドにはならないかもしれない。
ドリームというよりは、ナイトメアという感じかも……オイヾ( ̄▽ ̄;)
書いているうちに、頭の中の妄想とは多少変わってきているので、
どう転ぶかは、まだはっきりしませんが。