GIRLS BRAVO!


3日ぶりに戦国時代に戻ってきたというのに、は不機嫌なのであった。
 理由は―――まあ、ご想像のとおり、見知らぬおなごの手を握り、例のセリフを吐いていた法師のせいである。
「もう、弥勒さまってば信じらんない! たった3日留守しただけなのに、もう他の女の人に手を出すなんて!」
「あれは、私にとっては挨拶のようなものですよ。それに、たった3日と言うが、私にとってその3日間がどれほど長かったことか……」
「他の女の人を口説いたその口で、そんなこと言われたってうれしくない!」
 とどめの平手打ちを食らわすと、は大きなリュックを引きずりながら、その場を立ち去った。

 同じく3日ぶりに戻ってきたかごめも、また、不機嫌なのであった。
 理由はほんの些細なこと。何の話題からかも定かではないが、いつの間にか鋼牙の話になったのである。
「だから、あたしは鋼牙くんのことはなんとも思ってないって言ってるでしょ!」
「へ〜〜〜、どうだかな。あいつの名前が出ると、やけにうれしそうじゃねえか」
「犬夜叉、おすわり!」
 地面にめり込む犬夜叉を無視して、かごめはやはり大きなリュックを引きずりながら、その場を立ち去った。

「何をやってるんだか……」
 2組のやり取りをずっと見ていた珊瑚は、呆れ顔で呟いた。
「けんかするほど仲がいい、って言うけどね。あれは法師さまと犬夜叉が悪いよ。あれじゃあ、ちゃんとかごめちゃんが、かわいそうだよ」
「……じゃが、1番かわいそうなのは、けんかする相手もおらん珊瑚じゃな」
 珊瑚と並んで座っていた七宝が、ぼそりと呟いた。
 七宝は、ごく小声で言ったつもりだったが、珊瑚の耳にはしっかりと聞こえていた。七宝の右隣の空気が、いきなり冷えた。
「……あたし、別に、自分がかわいそうだなんて思ってないけど」
 そういう珊瑚の視線に、七宝は全身の毛が逆立つ思いがした。
 そうして、やはり珊瑚も不機嫌になって、その場を立ち去ったのであった。

「まったく、頭きちゃう。弥勒さまったら……」
「なによ。犬夜叉のバカ」
「………」
 女3人は、それぞれ不機嫌な顔をしながら、大きな木の下に腰をおろした。
「ねえねえ、怒ったらお腹すいちゃった。なんか食べようよ」
「あ、いーね。やっぱ、こういう時は甘いものに限るよね」
 とかごめが、それぞれのリュックから大量にお菓子を取り出すのを見て、珊瑚は呆気に取られた。
「……ねえ、これ、いくらなんでも多すぎない?」
「だーいじょうぶ。これくらい、軽いって。珊瑚ちゃん、このアップルパイ食べてみて。あたしが作ったの」
 それは、が弥勒に食べさせようと思って作ったのだった。
「ポテトチップも、たくさん買ってきたんだ」
 それは、かごめが犬夜叉のためにたくさん買っておいたのだった。
(こんなにたくさんのお菓子、七宝が見たら喜ぶだろうな……)
 一瞬考えてしまって、珊瑚は慌てて首を振った。そして、はしゃいだ声で言った。
「おいしそうだね。いただくよ」
 こうして、女3人の、傍目にはにぎやかな宴会が始まったのだった。

「おまえが悪いんですよ。あんなにかごめ様を怒らせるなんて」
「けっ。てめえだって人のことは言えねーだろうが」
「どっちもどっちじゃがの」
 男3人は、森の中に座り込んで互いに責任を押し付けあっていた。
「そういう七宝は、どうして珊瑚を怒らせてしまったのですか?」
「てめえのことだから、またいらねーこと言ったんだろ」
 七宝は、言葉に詰まった。
「ほら、図星だ。なに言ったんだよ」
「おらは……ただ、『けんかする相手のおらん珊瑚がかわいそう』じゃと……」
 弥勒と犬夜叉は、顔を見合わせた。そして、異口同音に言った。
「それは、おまえが1番悪い」
「なんで、おらばかり責めるんじゃ! 弥勒だって犬夜叉だって、やかごめを怒らせたのは同じじゃろうが!」
「七宝の言葉が、1番おなごを傷つけると思いますよ」
「そうだよ。てめえ、行って謝ってこいよ」
「謝りに行くなら、弥勒も犬夜叉も一緒じゃ! おまえら女連中が怖いんじゃろ!」
 犬夜叉が、グーの手で七宝の頭を殴った。
「なにするんじゃ!」
「なんだとぉ!」
「まあ、まあ、まあ……」
 男3人の不毛な争いは、いつまでも続くのだった。

 森の中の別の場所。
 そこでは、邪見が木の陰に隠れながら女3人のはしゃぐ様子を窺っていた。
「邪魔なりんも置いてきたことだし、今日こそは、殺生丸様のために鉄砕牙をいただかなくては」
 邪見は、後ろにぼーっと突っ立っている無男に言った。
「いいか、あの中の、という名前の女をさらってこい。間違えるんじゃないぞ、だ。あの女だけが何の技も持たず、1番簡単に捕まえられるからな」
だなー。わかったー」
 今ひとつ頼りない返事を残し、無男はのっそりと女たちのほうへ歩いていった。
「……大丈夫かなー、あいつ……。それにしても、あの女ども、次から次へとよく食べるなー。……あたたた、見ているこっちの胃が痛くなってくるわ」
 不安を感じながらも、邪見は事の成り行きをこっそりと見守っていた。

(の、のっぺらぼう?)
 木陰からのっそり現れた無男を見て驚いたのは、1人だけだった。
「あら?」
「いつかの、無男じゃないか」
 かごめと珊瑚は、面識があったので驚かなかった。かごめに至っては、無男にポッキーを勧めている。
「か、かごめちゃん、この人、口がないのに食べられるの?」
「あ、そうか。うーん、どうなんだろ?」
「こういう妖怪は、人間と同じ物は食べないと思うよ。それより、何か用?」
 珊瑚の問いに、ようやく無男は用件を切り出した。
って、誰だ―?」
「え? あたしだけど……」
 が答えたとたん、無男はの腕を取って後ろにねじり上げた。
「痛っ!」
ちゃん!」
「何するんだ!」
 咄嗟に珊瑚は飛来骨に手をかけた。
「武器から手を離せ! その女が怪我をするぞ!」
 そう言って、木陰から飛び出してきたのは、もちろん邪見だった。
「邪見!」
「また、懲りもせず鉄砕牙を狙いに来たのか?」
「ふん、今度こそは鉄砕牙を殺生丸様のもとに送り届けて見せるわい。無男、その女を連れてこっちに来い! 無男その2、この文を犬夜叉に届けろ!」
 邪見が叫ぶと、地面が盛り上がり、無男が現れた。その新たな無男が犬夜叉たちのもとへ向かうのを、かごめと珊瑚は呆然と見守っていた。

「だーかーらー、おめえが代表して謝ってこいって言ってんだよ!」
「嫌じゃー! おら1人で行くのは嫌じゃ!」
 弥勒は、やれやれとため息をついたが、ふとその表情が引き締まった。
「犬夜叉!」
 同時に気配に気づいた犬夜叉も、犬耳をぴくりと動かした。
 やがて、木々の合間から見えたのは、無男だった。
「なんだ。無男じゃねえか」
 相手が無男とわかって、犬夜叉の緊張は解けた。
「おまえがー、犬夜叉―?」
 無男は、手に持っていた文を犬夜叉に渡した。横から弥勒が覗き込み、その弥勒の背によじ登って、七宝も文を覗き込んだ。そこにはこう書かれていた。
―――女は預かった。女の命が惜しければ、鉄砕牙を持ってこい。邪見―――
(かごめ?!)
(まさか、が?!)
(珊瑚……は大丈夫じゃと思うが、かごめたちを助けようとして無茶しとるかもしれん)
「邪見はどこにいるのです?」
「さっさと案内しねえと……」
 犬夜叉は、指の関節を鳴らした。
「こっちだー」
 殺気立った犬夜叉たちに気づいていないのか、無男はのっそりと歩き出した。

「こら―、無男その3、その4、その5、おまえたち、だらしなさすぎるぞ!」
 邪見は叫んだ。質より量とばかり呼び出した無男たちが、次々と珊瑚に膝蹴り、肘打ち、顔面パンチを食らって地面に横たわっていた。
 珊瑚は、無男たちとの闘いで上気した顔を、邪見に向けた。
「邪見! 卑怯な真似は止めて、さっさとちゃんを離しな!」
「何を生意気な……。この女がどうなってもいいのか」
 邪見は、人頭杖をの頬に押し当てた。に怪我をさせてはと、かごめも雲母も動くことができなかった。珊瑚は唇を噛んだ。
(ごめん、珊瑚ちゃん。……この手が動かせられれば……)
 は、なんとか手を動かそうとしたが、無男の力は強かった。
(このままだと、また、足手まといって言われちゃう……)
 しかし、無男は手をゆるめる気配もなく、は悔しさに唇を噛み締めた。

!」
 囚われの身になっているに、真っ先に気づいたのは、弥勒だった。道案内していた無男その2を追い抜き、一気に邪見に向かって駆け寄り錫杖を振り上げた。
「近寄るな! 女が怪我をするぞ!」
 邪見はそう叫ぶと、弥勒に向けて人頭杖から炎を噴出した。
「危ねえ!」
 犬夜叉が飛び出し、弥勒を横抱きにして炎を避けた。
「落ち着け、弥勒! 奴の狙いは鉄砕牙だ。をすぐに傷つけたりしねえ」
 邪見はニヤリと笑った。
「物わかりがいいな、犬夜叉。鉄砕牙をかごめに渡せ。かごめは、鉄砕牙をこっちに持ってきてに渡すんだ」
 それは、邪見の考えた作戦だった。犬夜叉を自分のそばには近づけず、邪見自身が鉄砕牙に触れる危険もない。後は、に鉄砕牙を持たせ、人質として犬夜叉たちを足止めしたまま、殺生丸のもとまで行き着けばいい。
「犬夜叉……」
 かごめは、不安そうに犬夜叉を見た。だが、かごめを見た犬夜叉の目に迷いはなかった。犬夜叉は、鉄砕牙をかごめに差し出した。
「さあ、これを……」
「ありがとう、犬夜叉」
 かごめは鉄砕牙を抱きかかえるように持つと、のもとに走り寄った。
「ねえ、離してくれなきゃ受け取れないわ」
 がそう言うと、無男は、ずっと掴んでいた彼女の腕を離した。
(今だ!)
 は、ポケットから黒い物を掴み出し、無男に当てた。スイッチを入れると、その先から青い電流が走った。
「ぎゃあ!」
 その衝撃に、無男はしゃがみこみ、ぶるぶると震え出した。
「な、なにぃ?」
 邪見は、初めて見るその技に呆然とした。がこのような技を使うとは、まったく予想もしていなかった。
 犬夜叉と弥勒も、驚いてを見つめていた。
 珊瑚は、その隙を見逃さなかった。飛来骨を掴むと、邪見に向かって投げつけた。
「ぐぇっっ!」
 飛来骨は邪見の腹に当たり、邪見を引っ掛けたまま空高く舞い上がった。そして、ちょうど崖の上できれいな放物線を描き、邪見をその場に落とした。
「た、助けてくれ〜」
 邪見の姿は、そのまま崖の下へ吸い込まれていった。

、大丈夫ですか?」
「うん、あたしは平気。弥勒さまこそ、大丈夫?」
「私なら、全然大丈夫ですよ。ほら、この通り」
 弥勒は、無事な姿をよく見せるために、両腕を開いた。
 は、その腕の中に飛び込むと、弥勒の胸にぎゅっと顔を埋めた。そして、微かな声で言った。
「……弥勒さまが、真っ先に駆けつけてくれて、すごくうれしかった……」
……」
 弥勒は、開いていた腕をの背中の上で閉じた。そして、その手が徐々に下がっていった。
 ふと、弥勒の身体に何か固いものが当たった。それが何であるかに気づくと、弥勒の顔は青ざめた。
、それは何なんですか?」
 は、弥勒を見上げてにっこりと笑った。
「これはスタンガンといって、あたしたちの時代では痴漢よけに使うのよ」
「……痴漢ですか……」
 弥勒は青ざめた顔に、引きつった笑みを浮かべた。
「弥勒さま、むやみに女の子に触ったりしたら、これでお仕置きしちゃうからね」
 は、天使のような顔で微笑んだ。

「犬夜叉、これ……」
 かごめは、無事だった鉄砕牙を犬夜叉に手渡した。
「おう」
 犬夜叉は、鉄砕牙を受け取ると腰にさした。
「……あの、犬夜叉、ありがとう。ちゃんを助けるために、鉄砕牙を……」
 かごめは、赤い顔でうつむきながら言った。
「別に。邪見相手なら、すぐに取り返せると思ったんだよ」
 犬夜叉は、そっぽを向きながら、やはり少し赤い顔で答えた。
「……それよりよ、さっきは………その………」
 すまなかった、という言葉を、犬夜叉は小声でぼそぼそと言った。
「え? なーに? 聞こえなーい」
 かごめが聞き返すと、犬夜叉は急に不機嫌そうになった。
「なんでもねーよ! それより、おまえたちだけでこんなに食ってたのかよ」
 犬夜叉は、まだ残っていたポテトチップの袋を手に取ると、バリバリと食べ出した。
「勝手に食べないでよ! あたし、まだ、許すって言ってないんだから!」
「へーんだ。もう食っちまったもんね」
 犬夜叉は、空になった袋を逆さにヒラヒラと振ってみせた。
「い〜ぬ〜や〜しゃ〜」
 犬夜叉が、ハッと気づいたときは、もう遅かった。
「おすわり!」
 かごめの声が、夕焼け空にこだました。

 邪見は、崖下まで転落したわけではなかった。
 運良く、途中に張り出した木の枝に引っかかっていたのだ。
「あー、邪見様ってば、こんなところにいた!」
 阿吽にまたがったりんが、空を駆けて邪見のそばにやってきた。
「殺生丸様、怒ってたよー。『邪見はこの頃勝手な行動ばかりする』って」
 りんの言葉に、邪見の目から、はらはらと涙が零れ落ちた。
「……もういや、こんな生活……」

「あんたたち、もう行きな。今度こそ、悪さするんじゃないよ」
 珊瑚は、無男5人組を逃がしてやった。もともと、たいした悪さをする妖怪ではないのだ。
 と弥勒、かごめと犬夜叉たちから、珊瑚はそっと視線をそらし溜め息をついた。
(けんかして、仲直りできる相手も無しか……)
 珊瑚は唇に苦い笑みを浮かべた。
 何を今更。法師さまがちゃんを選んだときから、わかりきっていたことなのに……。
 思わず涙が零れそうになって、珊瑚は慌てて空を見上げた。それでも、美しい夕焼け空が、次第に潤んでくる。
「……珊瑚」
 七宝の声に、珊瑚は慌てて振り向いた。その拍子に落ちた雫を、どうか七宝が見ていませんように、と珊瑚は願った。
「なに?」
 七宝が、赤い顔でもじもじしながら、彼岸花を珊瑚に差し出した。
「……おらは、珊瑚が1番綺麗だと思うぞ」
 最初は戸惑ったように目を瞠っていた珊瑚は、優しく微笑むと、その緋色の花を受け取った。
「ありがとう、七宝」
 珊瑚は、彼岸花を髪にさした。鮮やかな緋色は、珊瑚の白い肌によく映えた。
「七宝、お菓子食べにいこうか。急がないと、犬夜叉たちに全部食べられちゃうよ」
「お菓子じゃと! どこだ、珊瑚? 急がねば!」
 慌てて駆け出す七宝を、珊瑚は優しい目で見つめた。その向こうに見える、と弥勒、かごめと犬夜叉のことも。
「珊瑚ちゃーん」
「珊瑚ー、早くこないとお菓子が無くなりますよ〜」
「今行くよー!」
 珊瑚は手を振って、仲間のもとへ駆けていった。
 そうして、再びにぎやかな宴会が始まった。今度は、男女6人で。


   ◆◆◆ End ◆◆◆


瑞穂:「こんにちは。久々の表ですw」
弥勒:「久々の表だというのに、私の出番が少ないですね( ̄_ ̄メ)」
瑞穂:「ごめんなさい、一応女の子たちが主役の話なので……」
弥勒:「それにしても、今回は突っ込みどころ満載ですよ。なんですか、あの手抜きの敵キャラは?」
瑞穂:「うっ……、どうしても思いつかなくて……」
弥勒:「邪見を書くのも、かなり苦労してたようですし」
瑞穂:「そうなんです〜。どうしても邪見の雰囲気が出なくて……。読者様は、読む時に頭の中で長嶋さんの声に吹き替えて読んでくださいね。そうすれば、少しは雰囲気でますから(;^_^A 」
弥勒:「……(゚д゚) 自分の文章能力のなさを棚に上げて、そういうことをお願いしてどうするんですか」
瑞穂:「す、すみませ〜ん……」
弥勒:「捨てたと思ったスタンガンネタも(裏ドリ「光」後書き参照w)、しつこく覚えてたんですね」
瑞穂:「貧乏性だから、1度思いついたネタはなかなか捨てられないんですw。本当は、もっと強力な電撃にして、ちゃんに『ダーリン、浮気は許さないっちゃ〜!』って言わせたかったんですけど(^0^ゞ 」
弥勒:「オイヾ( ̄▽ ̄;) それ、違うマンガでしょう……」