■ ES-IS
前回から、OSIプロトコルのルーティングプロトコルであるIS-ISの説明をしている。
Integrated IS-ISですね。
うむ。CLNPを使ったデータ転送の際に使用されるルーティングプロトコルとして、ES-ISとIS-ISがある、という説明をしたな。
ES-ISが「ホスト-ルータ間」、IS-ISが「ルータ-ルータ間」のルーティングプロトコルでしたよね。
[FigureRT23-05:IS-ISとES-IS]
よしよし。ちゃんと覚えているな。
さて、このES-IS、IS-ISにドメインとエリアという概念を組み合わせてみると。
ドメインとエリアを組み合わせる?
ドメインはAS、エリアはOSPFのエリアと同じような論理的なグループだったですよね? 組み合わせる?
うむ、組み合わせるのだ。
つまり、順番に考えていこう。CLNPデータグラムが発生するのはどこだ?
データグラムが発生する?
データが作られるのは、ホストですよね。
うむ。次に、インターネットワークの場合、そのデータグラムはどこに送られる?
そのホストのデフォルトゲートウェイとなるルータです。
そう、つまり、ESからISへ。
一番最初に実行されるルーティングプロトコルはES-ISとなる。これがレベル0ルーティングと呼ばれるルーティングだ。
れべる0るーてぃんぐ。データグラム転送の時に最初に行われるルーティング?
前回、ES-ISはARPみたいなもの、って話がありましたよね。
うむ。ARPもデータグラム転送の前に必ず行われるだろう?
ES-ISは本題ではないが、簡単に説明しておこう。こうなる。
[FigureRT24-01:ES-IS]
ESHとISH…。
こんにちはパケットまたもや登場ですか。
うむ。Helloはあとでもう1つ登場する。
役割的にはES-ISはやっぱりARPに近い。ESHはゲートウェイへのARP要求、ISHはARP応答、かな。
でも、ISHによりゲートウェイを知ることができるんですね。
あ〜。う〜ん、そうだな。そう考えるとARPよりはCDPやDHCPに近いと言えるな。
どっちなんですか? ARPなんですか? DHCPなんですか?
ルーティングプロトコルだな。やはり。
なんですか、そりゃ?
ARPかDHCPどちらに似てるかって話でしょ? そりゃES-ISはルーティングプロトコルですよ?
似てると言えば似てるし、似てないと言えば似てない。そういうものだ。どちらかといえばARPかな、やはり。
実際の役割としてはルーティングプロトコルというよりも、ディスカバリプロトコル、だな。
でぃすかばり。発見プロトコルですか。
あ〜、なんか納得できるような。
■ 階層ルーティング
さて、ネット君。さきほどの話の続きだ。
データグラムは、ESから発生し、隣接ISへ送られる。次は?
次?
次はルーティングして、ベストパスのルータに送られます。
うむ、それはそうなのだが。
では、以下のような図の場合は?
[FigureRT24-02:2つのエリア]
え〜。
送信元から、近接ISへ行って。で、ルーティングして宛先のあるエリア2へ接続されている隣のISへ行って…。
あ〜、そこまででいい。
つまり、ES-ISの次は同一エリア内のISへ転送するわけだな。
そうなりますね。
うむ、それがレベル0ルーティングの次、レベル1ルーティングとなる。
[FigureRT24-03:レベル0・1ルーティング]
れべる1。
レベル0、レベル1、次はレベル2ですか?
そうだな。
先ほどの図で言えば、次はどのISに渡される?
ESから隣接ISへ。で、宛先のエリアであるエリア2に接続しているISへ行って、次はエリア2のISへ、ですね。
そう、エリア間のルーティング。これがレベル2ルーティングだ。
[FigureRT24-04:レベル2ルーティング]
へへぇ。じゃ、レベル3もあるんですか?
ある。その前にレベル2ルーティングの話をもう少し。
さてネット君。レベル2ルーティングはエリア間ルーティング、つまりエリアを接続する。エリアを接続するという話は前回別の言葉で説明したな?
エリアを接続する?
エリア…。
ネット君。OSPFですべてのエリアを接続するものは?
エリア0、バックボーンエリアです。
……。あぁ、そうか。レベル2ルーティングはバックボーンってことですね?
そういうことだ。レベル2ルーティングとは、宛先ESの存在するエリアまでバックボーンを形成する、ということだ。
このレベル1とレベル2ルーティングがIS-ISの役割だ。
[FigureRT24-05:レベルルーティング]
同一エリア内ならば、ES-IS・レベル1IS-IS・ES-ISでES間を接続する。
異なるエリアならば、ES-IS・レベル1IS-IS・レベル2IS-IS・レベル1IS-IS・ES-ISとなるわけだな。
ははぁ、エリア内とエリア間、ESとISで階層が出来ている、と。
ちなみにレベル3はどういうルーティングなんです?
レベル3ルーティングはドメイン間ルーティングだ。
OSIプロトコルでのドメインは、ASと同じ意味だ。つまり?
つまり?
え〜っと、EGPsが必要?
その通り。
ドメイン間のルーティングプロトコルはIS-ISではなく、IDRPというEGPsで行う。
ってことは。IS-ISはIGPなんですね。
何をいまさら。
…………っと、言ってなかったか?
全く。
あ〜、なんだ。
河童の質流れというじゃないか、ほら。
ずいぶんとかわいそうな河童ですね。それは。
■ Integrated IS-IS
ゴホン。
ともかく、CLNSでのルーティングは以下の形になる、ということだ。
Level 0 | ES-IS | ESとIS間 |
Level 1 | IS-IS | 同一エリア内IS間 |
Level 2 | 同一ドメイン内異エリアIS間 | |
Level 3 | IDRP | 異ドメインIS間 |
[TableRT24-01:レベルとルーティングプロトコル]
ふむふむ。
さて、ネット君。
IS-ISのさわりを説明してきたが、何か気がついたことはないかね?
気がついたこと?
うむ。
ES-IS・IS-IS以外のとあるルーティングプロトコルがちょくちょく名前が出てきているのだよ。それは何だ?
他のルーティングプロトコルの名前が出てきている?
…………。OSPF?
うむ。そうだ。
それは何故かというと、IS-ISはリンクステート型ルーティングプロトコルなのだよ。
リンクステート型? OSPFと同じ?
そうだ。
OSPFと同じSPFアルゴリズムを使ったルーティングプロトコルだ。
ははぁ。リンクステートといえばOSPF以外教えてもらってなかったので、他にもあるとは新鮮です。
うむ。IS-ISはトポロジカルデータベース、SPFツリーを使いトポロジの状態を把握する。LSUによるアップデート、フラッディング、ほぼOSPFと同じ機能を持っている。
なんか、OSPFそっくりというか、そのままというか。
OSPFそっくりというよりも、OSPFがIS-ISの初期型を参考にして作られたから、OSPFがIS-ISに似ているのだよ。
あ〜、そうなんですか。親子みたいなもんなんですね。
そういうことだ。もともとIS-ISはDECnet Phase Vをベースとしたルーティングプロトコルだ。
だが、IS-IS自体はOSPFと同じように優秀なルーティングプロトコルである。こうなるとTCP/IPでも使ってみたくならないか?
まぁ、そう言われればそうかも。
CLNP以外にIPもルーティング対象プロトコルにしたIS-IS。それがIntegrated IS-ISだ。 ▼ link
いんてぐれーてっど。「統合IS-IS」。
うむ。CLNPとIPを統合して使えるようにしたIS-ISということだな。
なお、IPだけの運用も可能だ。
ははぁ、それで「統合」なんですね。
EIGRPみたいに、複数のルーティング対象プロトコルを使える、と。
そういうことだ。
もちろん、Integrated IS-ISは最近のIPルーティングプロトコルの必須事項である以下の機能を持っている。
- VLSM
- ルート再配布
- 経路集約
ということは、プレフィックス長を含むアップデートを行うってことですね。
その通り。
ははぁ、やっぱりOSPFと似てるんだ。
確かにIS-ISを理解する方法としてOSPFの動作に当てはめて考えてみるのは有効だな。
ただ、もちろんOSPFとIS-ISは全く同一ではない。
へぇ。どんな所が違うんですか?
それはIntegrated IS-ISの説明をしながら順に話していこう。
■ エリアとIS
さて、ネット君。
複数のエリアを使うIS-ISは、マルチエリアOSPFと似ている。
そうなんですか?
そうだ。マルチエリアOSPFでそれぞれのルータが役割をもっていたように、IS-ISでも各ISは役割を持っている。
役割? ABRとかASBRとか?
うむ、それだ。
名前 | 役割 | OSPFとの対比 |
---|---|---|
レベル1ルータ | レベル1ルーティングを行う | スタブエリア内Internalルータ |
レベル2ルータ | レベル2ルーティングを行う | バックボーンエリア内ルータ |
レベル1-2ルータ | レベル1・レベル2のルーティングを行う | ABR |
[TableRT24-02:ISの役割]
レベル1・レベル2・レベル1-2?
行うルーティングのレベルによって分けられるんですね?
そうだ。同一エリア内のみのレベル1ルータ。エリア間を接続しバックボーンを形成するレベル2ルータ。その双方の役割を担うレベル1-2ルータだ。
例えば、先ほど使った図を役割で表現するとこうなる。
[FigureRT24-06:ISの役割]
赤の実線はバックボーンだ。
真ん中のルータはレベル2だけなんですか?
他のはレベル1-2なのに。
中央のルータは、同一エリア内で他のレベル1ルータと隣接していない。なのでレベル2だけになる。
他のレベル1-2ルータはOSPFでいうところのABR、エリアと他のエリアを結ぶルータになる。
ははぁ。
ただし、OSPFのABRと違う点がある。
それはエリア境界はルータ間のリンク上にあるということだ。
エリアの境目ですか? 確かに図ではルータとルータの間のリンク上にありますね。
うむ。OSPFではABR内にエリア境界がある。
Left [FigureRT24-06:OSPFのエリア境界]
Right [FigureRT24-07:IS-ISのエリア境界]
なんで違うんですか?
それはOSIプロトコルのアドレッシングがIPアドレッシングと異なるからだ。
う。
そうか、IPアドレスとは別のOSIのアドレッシングが存在するんですね?
もちろんだ。
それは次回にして、今回は終わりにしよう。
了解です。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- CDP
-
[Cisco Discovery Protocol]
Cisco専用の近接ルータ、ブリッジ、スイッチの情報を送受信するプロトコル。
これによりCisco製機器同士ならば、デバイスの情報を交換できる。
- IDRP
- [InterDomain Routing Protocol]
- SPFアルゴリズム
-
[Shortest Path First Algorithm]
最短パス決定法(SPF)を使い、ループのないSPFツリーを作成するアルゴリズム。
あ、いやループのないツリーを作るのはスパニングツリーアルゴリズムか。
ダイクストラのアルゴリズム[Dijkstra's Algorithm]とも呼ばれる。
- DECnet Phase V
- ディジタルイクイップイメント社[Digitial Equipment]独自の通信機器およびプロトコルのこと。Phase VはDEC独自のプロトコルだけでなく、OSIプロトコルもサポートする。
- Integrated IS-IS
-
もしくはCLNSとIPルーティング双方を行う Dual IS-ISとも呼ばれる。
RFC1195参照。
- ハイパーネット君の今日のポイント
-
- IS-ISではルーティングを階層にわけて行う。
- ES-IS間のレベル0ルーティング(ES-IS)。
- 同一エリア内のIS間のレベル1ルーティング。
- 異なるエリアのIS間でバックボーンを形成するレベル2ルーティング。
- 異なるドメインと接続するレベル3ルーティング(IDRP)。
- IS-ISはリンクステート型ルーティングプロトコルである。
- CLNPとIPの双方(またはどちらか)のルーティングが可能なのがIntegrated IS-IS。
- ルーティングのレベルによりルータの役割が異なる
- エリアの境界はL1-2ルータ間のリンク上にある
- IS-ISではルーティングを階層にわけて行う。