青い星の北半球、シルト語でアーガイトと呼ばれる大陸にある、「断崖都市」アルトガイツを王都とする、世界随一の強大な軍事力を誇る王国にして、「五大国」の一員です。周囲の国との争いが絶えない為、「対立の国」とも呼ばれます。
王位は王族たるシルトの当主が代々受け継いでいます。シルト家の子供は幼いうちから厳しい教育を受け、一国の王たるに相応しい能力を持つように育てられた上で、その中の一人が王により選ばれ、当主の地位と王位を受け継ぐこととなります。王位を継ぐ事のできなかった者の反逆が昔から絶えませんが、クーデターが成功した事は現在までありません。
現在の王は、屈強な肉体と鋼の意志、そして勇猛かつ苛烈な人格で知られる七代目シルト王、ヴォーレン・ガルムブルデ・フォールンハイト・ディア・シルト(ヴォーレン・シルト)です。武勇に優れ、人望の厚い人物です。
王には官僚の中から選び抜かれた十人の補佐官「リヴァルド」が付き、その手足となって情報を提供し、意思決定を助けます。リヴァルドとなるには、幾重もの厳しい試験を勝ち抜かねばなりません。この試験はリヴァルドに欠員が出るたびに一年を掛けて行われ、10万人を超える官僚の中からたった一人だけを選び、新しいリヴァルドとして迎え入れます。
一年に一度、教会暦で十月の第二週に当たる七日間、王都アルトガイツにて俗に「大会合」と呼ばれる会議が開かれます。王国からは王とリヴァルドが、正教会からは五大騎士長と五大教示長と最高司祭が、精霊教団からは三大精霊にそれぞれ仕える三人の最高位の神官が、そして各ギルドからはその最高責任者が参加し、シルトの国政等について様々な意見を主張し、交換します。此処での意思決定はシルト国内においては非常に重大なものであり、また逆に重大な意志決定を表明する場でもあります。
シルトの産業と言えばこれ、と言われる程に盛んであるのが、豊富な鉄鉱石を用いた鉄、及びそこから作られる鋼の生産です。この鋼が軍事力を支え、鉄が見つかる前は一弱小国に過ぎなかったシルトを強大な軍事国家まで育て上げたと言っても、決して過言ではありません。鉄鉱石と混ぜて用いる石炭は、国内で生産されたものでおよそ九割を支え、残り一割は海の向こうのレオフィから輸入して賄っています。
鉄が豊富にあるため、武器防具の生産と研究も盛んです。新しい武器防具の多くはシルトで生み出されたものであり、他の国はその一部を買い取って複製するに止まっています。
また、王都周辺のエルサーナ地方では伝統的にガラスや陶器の生産が盛んで、特に「オイロス」と呼ばれる選ばれた職人の作品は質が非常に高く、世界中の陶器職人の憧れとなっています。正教会の教会に使われるステンドグラスの殆どは、この地域で生産されたものです。
シルトで用いられる通貨の単位はディルであり、1ルート=0.5ディル程度で取り引きされています。武器防具、ガラスや陶器の工芸品などは他国に高値で輸出され、シルトの財政を潤しています。
シルトの領土は、アーガイトの南部に東西に広がって分布しています。
主要部は三箇所あります。
最も古い領土である、シルト西部(オルサーナ地方)世界随一の鉄鉱石の産地で、鉄と鉄を用いた物品の生産が盛んであり、人口の多くは炭鉱周辺に集中しています。気候は冷涼湿潤で、落葉樹の森と畑が広がっています。土地はやや痩せており、食料の生産はそれ程多くなく、人口を支えるので精一杯です。
王都のあるシルト中央部(エルサーナ地方)は、温暖かつやや乾燥した気候であり、樹木よりも草が目立ちます。土地が肥えており、穀物を始めとする食料の生産が盛んで、シルトの穀倉地帯となっています。陶器の材料となる、良質の粘土も産出します。
比較的新しい領土であり、他国との紛争の最前線であるシルト東部は温暖かつ乾燥した気候で、南部は砂漠と貸しており、北部も辛うじて農業を営める程度の降水しかありません。然し最東部、隣接するザハト王国との国境付近は冷涼、かつそれなりに湿潤であり、樹木が見られるようになります。
シルトの最南端付近(メルサーナ地方)は熱帯に属し、一年を通して高温多湿、独特の植生が見られます。リルザに睨みを利かせる軍事上の要衝であり、多くの兵士が此処に所在を置いています。
王都アルトガイツには、ウェレスティロムス・ネムリアス大教会が置かれ、シルトにおける正教会の活動の中心地となっています。此処には五大騎士長「炎熱の女帝」ソフィア・ビスティテート、五大教示長「手品師」グリス・ディザプロニア、最高司祭ティーン・シェルフェンデルトを始めとして、高位の正教会聖職者が集っています。
五大騎士長ソフィアの激しい人柄は官僚の間では特に有名で、「大会合」で毎年のように国王ヴォーレンと壮絶な口論を続ける事で知られます。間に他の誰も口を挟めないまま、口論が一時間ずっと続く事もしばしばです。然しそれは会議の中だけでの話であり、外では二人は親友であるとも言われますが、真偽は定かではありません。
積極的に政治に関係を持とうとすること無く、静かに活動を行っています。彼らが政治の舞台に顔を出すのは「大会合」だけです。
青い星の南半球、リルザ語でルカリエスと呼ばれる大陸にある国で、「水上都市」フェルナを首都としており、穏やかな国民性と、豊富な海産物、それに南部の厳しい寒さで知られます。フェルナは「世界で一番美しい都市」とも呼ばれ、季節になると観光に訪れる者で街はごった返す程です。造船技術と海上戦闘に掛けては最強と言われており、「五大国」の一環を成します。基本的に他国との目立った緊張関係は無いのですが、北にあるシルトとだけは激しく対立しています。これは、幾度と無くシルトがリルザに侵攻して来た歴史によります。
政治的な問題は全て中央議会で処理されます。議員は41名おり、その内40名は選挙によって選ばれます。選挙権は中上流階級の者が、被選挙権は上流階級の者がそれぞれ持っており、下層階級の者は特別な例外が無い限り政治に参加する事は出来ません。残った一席はかつての王族、デルモンド家の主人が代々受け継ぐ事となっており、現在はルークス・カルパニア・アルティチュール・デルモンド(デルモンド15世)がその座についています。
リルザ周辺の海には魚介類や海藻が豊富に分布しているため、漁業が盛んです。気候が冷涼であるため作物がそれほど育たず、食料の多くを海産物に頼っています。
また、漁業に必要な航海技術や造船技術も発達しており、航海の安全さと大型船舶の完成度は全ての国の中で最高水準です。これらを背景として、リルザの海軍は屈指の強さを誇っています。
正教会の国であるフィロに近いため海上交易が盛んであり、魔化された物品や学術書が行き交います。また、特殊な材料が手に入り易い事から錬金術が盛んでもあり、ギルドの総本部がフェルナに置かれています。
リルザの通貨はエマーニャであり、おおよそ1ルート=2エマーニャというレートで取り引きされています。5エマーニャ硬貨を編んだ髪の毛の中に隠しておくと幸運が訪れるという伝承があり、それを信じて多くの人々が実践しています。
リルザの主要部は三箇所あります。
ルカリエス北部(サルファイド地方)は温暖多雨、広葉樹が鬱蒼と生い茂る地域であり、最も人口の多い場所でもあります。農業も漁業も盛んですが、特にサルファイド地方西部の海洋は潮目となっており、良い漁場となっています。また、首都フェルナは此処に置かれており、リルザの玄関口となっています。
北西部(シルベスタ地方)は冷涼湿潤、落葉樹の森と一年草の草原が広がる地域であり、冬の間は雪に覆われます。人口はそれほど多くなく、港のある海岸付近に集中しており、内陸部では船を出す事の出来る川の周辺に集落が集まります。農漁業はそれなりに行われており、また南東の産地では銅鉱石が産出します。また、シルベスタでは霊薬の材料となる様々な植物や鉱石が多く産出するため、錬金術の中心地ともなっています。
西部(アナリシア地方)は寒冷で湿潤、針葉樹の森が広がります。冬になると街は雪で閉ざされますが、海は凍結することなくクリアに保たれるため、船が人々の生命線となります。農業は寒さに強いイモ類が栽培される程度で、食料の多くを漁獲と輸入に頼っています。アナリシアの直ぐ西には正教会が治めるフィロ諸島があり、交易が盛んに行われています。
首都フェリアにはコルツォネ・インデグリアム大教会が置かれ、五大騎士長「氷の妖精」ミリィ・オリブドネア、五大教示長「静寂」トリティア・ヒーベルモント、最高司祭ゲフェリエ・キーネンがリルザの正教会を統括します。最高司祭ゲフェリエは中央議会の議員でもあり、リルザの政治に対して大きな影響力を持っています。
フィロとの交易に対してリルザの正教会は大きな権限を持ちます。特に、正教会の資金的な命綱でもある魔化された物品に関する貿易では、正教会が取り引きの現場に直接介入して厳正に管理しています。
多彩な自然に囲まれているリルザでは自然に対する関心が高く、結果正教会よりも精霊教団がより多い信者を抱えています。然しながら、その教義上の性質から政治的な問題に積極的に介入する事はしないため、社会に対する影響力は正教会と五分と言った所です。
レオフィは交易で潤う国であり、様々な物品が各地の都市で盛んに取り引きされており、魔化された物品や霊薬なども多く扱われています。街道が網の目のように張られており、また「門」の周囲には必ずと言って良いほど都市が出来ています。
産業としては、糸と織物があります。織物は地方ごとに特色ある織り方が編み出されており、その中の何種類かは特に芸術性が高い事で有名です。他国の貴族も、レオフィの織物を愛用するほどです。
レオフィの通貨はバラトであり、1ルート=10バラトで取り引きされます。
レオフィは、北から大まかに最北部地方、北部地方、中央地方、南部地方、最南部地方に分けることが出来ます。
最北部地方は石炭の一大産地であり、海峡の向こうに臨むシルト西部のオルサーナ地方に向けて、船で大量の石炭が輸出されています。鉱山から港へ、港から都市への石炭流通は商人達が取り仕切っており、利権を巡って派閥争いが絶えません。気候は冷涼で湿潤、寒さに強い草花と木々が生い茂り、穀物をそれなりに収穫できる程度の農業が営まれています。
北部地方は温暖でやや乾燥しており、穀物を中心とした乾燥に強い植物の栽培が盛んで、レオフィの穀倉地帯となっています。中央地方や最北部地方の食料は、北部地方で収穫・貯蔵され運ばれていくもので支えられています。
北部地方と中央地方の境目付近には「エクローマ・リア」(レオフィ語で"乾いた砂"を意味します)と呼ばれる砂漠があり、厳しい環境と所々に点在するオアシス、その周囲に人が集まって出来たオアシス都市で知られます。そのオアシス都市の中には、「水の宝珠」によって潤う王都エルムも含まれています。
中央地方は赤道直下の熱帯であり、一年を通して高温多湿、此処でしか収穫できない野菜と果物で有名です。雨が降りすぎるため土地は痩せており、食料の生産には向きません。また、ペスパと呼ばれる蚊のような昆虫が媒介する、ネスカ熱という恐ろしい伝染病が十数年に一度蔓延し、大きな被害を出す事でも知られます。
南部地方は温暖で湿潤、鬱蒼とした広葉樹の森林と草原が広がっています。農業はそれなりに行われており、野菜類が多く収穫されます。また、西部にあるヴェスパ山地には幾つかの金鉱山があり、金を求めて多くの人が集まります。
最南部地方は大陸から突き出た半島でやや山がちであり、気候は冷涼です。海の向こうにフィロ諸島を臨み、そのため正教会の影響力が特に強い地域となっています。
レオフィの南部地方の遥か西には険しい山々がそびえており、それを越えると奥レオフィと呼ばれる地方に辿り着きます。一般の人々からすれば言わば「秘境」であり、地図には未だ海岸線しか描かれていません。
奥レオフィは正教会が宿敵と見なすシェリル=フェルム教会、「死者の足音」の勢力下にあります。然し、険しい山と足音の神官に阻まれて正教会も大きな動きを取る事ができず、攻撃を仕掛ける事が出来ない状態にあります。一方で、足音の方も山脈を越えようとしさえしなければ、一切外部に干渉をしない態度を貫いており、二百年以上もこの均衡状態が続いています。
王都エルムに置かれるルーティア・ベディクティス大教会には、五大騎士長「闇を映す鏡」セレン・ハルモニア、五大教示長「高貴なる魂」アリア・ロナーロ、最高司祭ケーリー・アドミニオンの三人が住み、レオフィ内の正教会ならびにレオフィの政治そのものを統括しています。
レオフィでの正教会の最大の使命は足音の動向を監視することであり、そのため勢力は南部地方に集中しています。大教会に居を置く三人も、しばしば足音の絡むと思われる件に対処するために、南部の大都市の教会に現れる事があります。
正教会の圧倒的な影響力下にあるレオフィでは、精霊教団の信者が他の国に比べかなり少ない傾向があります。特にそれは南部地方において顕著で、信者の割合にすれば正教会が10の精霊教団が1と言った状態になっています。
政治には特に介入せず、足音に対しても中立の立場を貫いており、目だった動向は無いようです。
ルーフィスとアルカリエスの間、レオフィ南部からリルザ西部に掛けて、弓状にフィロ諸島があります。此処は、二つの教会の始祖たるシェフィールが生まれ育った地といわれており、現在は正教会が直接統治を行っています。
フィロ諸島には大小さまざまの「門」が集中しており、世界各地への連絡場所となっています。また、島の所々にマナが非常に濃密な地点が存在し、正教会の術師による魔化が盛んに行われています。
教会共通語は元々フィロで使われていた言語であり、今では世界各地で共通語としての地位を確立しています。
フィロの産業は、正教会が関わっているものが殆どです。その最も重要なものは魔化された物品の生産と流通であり、正教会の最大の資金源となっています。また、学術研究が盛んで学者が集まる場所でもあり、出版や文房具に携わる人間も数多く住みます。
フィロで使われている通貨はルートであり、1ルートがGURPS Basicにおける1ドルに相当します。Apocalypseの物品の価格は、基本的にこのルートを基準にして表します。(ルートをRと略記する時もあります。)
フィロ諸島は小さな島々が密に集まった形をしており、所々に大き目の島が分布しています。シェール=フェルム正教会の総本山である中央大教会はその一つ、フィロ諸島の中で最も大きいアルセス島に置かれています。
気候は全体的に冷涼で、農作物は良く育つとまでは行きませんがそこそこの収穫は上げています。
フィロに住んでいる人間は、その殆どが正教会の信徒であり、精霊教団の人間は極僅かです。居るとしても都市部に居る事は無く、奥深い山中に隠れ住んでいる事が多いようです。
正教会にとって、フィロはあらゆる聖地の中でも最も重要な場所の一つです。始祖リフィリアが生まれ、そして母リフィリアの意志を継いだシェールが正教会を立ち上げた最初の場所であるためです。
その他にも、フィロにはリフィリアと初期の正教会にまつわる伝説や遺跡が多く存在しており、それらは正教会による手厚い保護の下で厳重に保存されています。