むかしむかし、とある格闘ゲームが発売された。

「闘*伝」である。「*神伝」は、その操作説明書に、いくつか気になる「設定」を書いてくれていた。

そのゲームの中で、プレートメールの鎧をまとって大きな剣を振り回す男のキャラは

という。……いるのか、そんな名のフランス人?

もしも、それが「公爵」という爵位のつもりであれば、当然、「DUC(デュ)」のはずである。
ところが画面に表示されている名前(?)はDUKE(イギリス英語)である。……大丈夫か、その会社?

さらに……。
ボンデージ着た「ロシア人」の女は、武器として「赤い嵐」という名のムチを使うという……。

ご丁寧にも、カタカナで「クラスヌイ」「ブーリァ」と書いてある。
……ロシア語やらずに、ただ単純に辞書ひいただけだろ、そのバカヤロ会社?

和露辞典を、どれでもよい、ひいてみよう。「赤い」という言葉を調べると……

красныйクラスヌイ
という言葉が出てくる。同じく「嵐」という言葉を調べると
буряブーリヤ
と書いてある。
なんだ「クラスヌイ」「ブーリヤ」と言っても問題ない……
とバカヤロは、そう考える

ちゃんとした辞書ならば、「ブーリヤ」の後ろに、こっそり、「女」と書いてある。
つまり、ロシア語の「嵐」という言葉は女性名詞なのである。

いっぽう、何も書いていないが、辞書は原則として、動詞・名詞・形容詞を原形で掲載する。形容詞は、「男性形」で。

英語も中途半端にしか学ばなかった者には、形容詞と名詞の「性別・数を一致させる」という概念がわからないものらしい。
ロシア語は形容詞・名詞の
「性別・格(要するに『てにをは』)・数(単数か複数か)」を一致させる必要がある。

「赤い嵐(が)」という言葉ならば、正しいロシア語では

「クラスナヤ・ブーリヤ」
と形容詞を女性変化させて、言うはずである。ただし「赤い嵐」「赤い嵐は」というときのみ。ロシア語で「てにをは」をつけていうと……。たとえば「赤い嵐を」というときは、主格形(原形)対格形に変化させる。すると。
「クラスヌユ・ブーリユ」
などとなる。

ということを、オモチャ作るしか能のない会社は気にしなかったのであろう。
そのゲームを作った会社の親会社(?)は、オモチャ売りたさに、定番ガ行+ダ行ネーミングのロボット物アニメーションを
またプロデュースした。

公式資料集によれば、「ラクス・クライン」の名はLACUSとつづられている。
ラテン語の泉・湖(男性名詞)である。

某(昔の)少女SF作家がデビュー前作品に、こんなネーミングをしたことがあるという。
登場人物ネプチューン(ただし女性)

その某(昔の)少女SF作家自身が、そのようなこと(普通の作品で女性に男性名をつけること)を「愚かしい」と断じている。
無理もない。

女性にポセイドンと名づけるようなものであるから。
あ、でも、90年代に、そんなキワモノ18禁マンガがあったなぁ
ロプロス・ロデム・ポセイドンという名の三人の女性が出てくる18禁マンガが)。

いずれにせよ、キワモノを狙うのでなければ、性数の不一致という誤りをあえて犯すべきではなかろう。