SF(サイエンス・フィクション、あるいはシュードサイエンス・ファンタジーウソ科学ファンタジー)には、当然のように小道具として、「コンピュータ」が用いられる。ところが、当然ながら、この「コンピュータ」、作家の想像力の限界というものを如実に表現してしまうのである。そして、どういうわけか、「コンピュータ」ではなく解りやすい「入力機器」をもって「コンピュータ」のシンボルであるかのように扱われがちである。

ホレリスの穿孔カード

竹宮「地球(テラ)へ」の漫画版:
「エリート」氏が、キーボードで打った結果の穿孔パターンを、透明なカードに打っている……。いや、当時(よりもかなり昔)、そういうものは確かにあった。しかし、恒星間飛行をしようという時代のコンピュータ(あるいは試験提出用のレポートか何か)が、穿孔カードというのは、いくら何でもないのではないのか?

紙テープ

円谷「ウルトラマンシリーズ(特撮)」
蔵書などよりも、こちらのほうが一般的であろう。
出力装置から紙テープが穿孔パターン(スキだネェ、みんな)が出力されてきて、「怪獣発見」とかいうパターンのシーケンスに用いられる。
実は、不可能ではない。当時、穿孔パターンを文字情報に変換する装置というものは、限られていた。つまり、多人数でコンピュータを使う・かつ・急ぐ場合には、人によっては、穿孔パターンそのものを読んだほうが速かったのである(ということが、取材した監督たちに大きな印象を与えたことは想像に難くない)。
そして、こういったシロモノは、バイナリー(二進コード)である。慣れた人ならば、アルファベットに換算することは、たやすかろう。というのも、私でもJISコードx20、EBCDICコードx40が空白1文字というのは、すぐに解る。それぐらいと同様に、紙テープを見ても、何が書いてあるか見当をつけることは、難しくない。
ただ、問題は、「放映当時の一般的なコンピュータの記録媒体」というものが、「紙テープ」「磁気テープ(後述)」というものであって、設定条件の「未来」「最新」科学ではない、ということである。
磁気テープ
横山「バビル2世」
手塚「マグマ大使」
映画「博士の異常な愛情」「ウォーゲーム」etc.
くどいほど、オープンリールの磁器テープが、コンピュータのシンボルとして用いられた。……フロッピーディスクを「コンピュータ」と言うのと大差ない話である。
そう、あのオープンリール磁器テープといえば、フロッピーディスクと全く同じである。ただ情報を書き留めただけのものに過ぎない。
しかも、普通、シーケンシャルアクセスしかできない。
シーケンシャルアクセスといえば、「前から順番に最後まで」読むしかないのである。
「あれ、アレは何だっけ?」
と元に戻りたいときは、いったん先頭まで(手操作で、あるいは「戻れ(リワインド)」とキーボードで入力して)戻して読み直さなくてはならない。
あの機械が威力を発揮するのは、データベースの手入れ(月次の締め切りとか減価償却とかetc.)の時ぐらいである。
私がなぜそういうことを言えるかというと、私自身手であのテのオープンリール磁気テープを操作したことがあり、しかも某メーカの受発注DBの定期更新処理の際、一度に3台動かした覚えがあるからである。
ゆえに、断言できる。「怪獣登場!」「危機発生!」というときには不向きである。むしろ、「今月の怪獣による被害総額はいくらか。明細はいくらか」という統計情報の記録・参照にこそ利用すべきである。
なお、アニメ版「バビル2世」は磁器テープが印象的であるが、漫画版では脇に追いやられている。
薀蓄の上塗り:電子の仕事をしていた人には、あの磁器テープの表面を見て情報がわかった人がいたという(!)。というのも、昔の磁気テープは非常に粗く、遠めにも「書いてある」「書いてない」状態がバーコード風に解ったという。そういう人ならば、多分、バーコードを見て情報がわかるのであろう(ちなみに、私は、分析しはじめるとキリがないので、なるべくバーコードを見ないようにしている)。
ディスク
映画「ウォーゲーム」フロッピーディスク8インチ。
映画「おかしな関係」フロッピーディスク5インチ。
映画「MI」光学式ディスク(MO)
映画「ロボコップ」CD
8インチディスクとは、恐れ入る。しかし人のことは言えない。家には5インチディスクが山のように積んであるからである。
映画「おかしな関係」では「最新鋭」戦車の設計図をなんと5インチディスク1枚に収めている。……1MBで収まるのかい、ええ?
映画「MI」も問題である。確かに、莫大なリストのバックアップを取るにはMOは(比較的)良い媒体ではある。しかし、アクセスが遅い(だから、ああいう結末になっちまうのに)。「CD−Rに焼けよ」と思ったのは私だけであろうか?
その点、「ロボコップ」のCD書き込みは、今日見ても遜色がない。当時は「つまらんことに高い媒体使いやがって、金持ちのつもりか」と思ったものであるが、今ではバルク品がいくらでも安価に入手できる。つまらん動画を焼いておくには、ちょうど良い。……映画の小道具がLDサイズ? 気にしない気にしない。
こうして見てみると、未知の素材を考え出した人たちは、エライと言えよう。
ガラス球
映画「(未来惑星)ザルドス」
球面は数多くの情報を蓄えることができる
ということで用いられたが、突飛すぎると、観客に通じにくいという好例でもある。
ガラス? の直方体
映画「2001年」「2010年」
このシリーズの映画のテーマは「非自然」である。自然界にない存在の象徴として、直方体が多用されている。反乱を起こす(イズァローンバグだろう)コンピュータの動作を停止させようと、主人公、必死の破壊活動を行う。
ガラス? の直方体を次々に抜き去って。
おお、ROM/RAMだぞ。
未知の素材、ひょっとすると(後述の)アレかもしれない
という説得力に溢れていた。
薀蓄の上塗り1:いっそ「部長ンコ作」のように「RUM」とワザと綴りを間違えてみるのも良いかもしれない。
もちろん正しくはRead Only Memory/ Randum Access Memoryである。
薀蓄の上塗り2:このシーン後述「美衣暁」氏に影響を与えた。
ホロメモリークリスタル
小説「竜の卵」
物は見えなくても、すげぇ説得力に溢れた素材名称である。立体の、記憶の、クリスタル、結晶体。どのような形で、どのような大きさかは明示されていないが、おそらく前述「ガラスの直方体」よりも記憶速度・容量ともに高性能であることが推測できる。「美衣暁」氏が後述のもの(?)を考えてくれるまでは、私は、この素材を第一位としていた。
「はぁ?」
美衣暁「ルナティックナイト」
90年代初頭の、ただのパロディ18禁漫画である。その餌食は「バビル二世」「ヤマト」「ガンダム」「2001年」と広範囲にわたる。しかし、パロディ18禁漫画と断じるには惜しいシーンもいくつか散見されるのである。
(ペルシャ湾に展開する某超大国空母で「司令」、「トマホーク乱れ打ち」を指示したついでに)
「国際貢献といえば、金は日本が出す」
まさに、この「失われた10年」、そうなり続けた(今後とも、あの超大国が消滅するか、日本が別の某大国に併合されるまで、続くであろう)。
予言者の風格さえ漂うシーンであった。
「最新のコンピュータ」を紹介された主人公、ずっこける。というのも、「バビル二世(アニメ版)」に酷似した、MT(磁器テープ)満開なメインフレーム(?)だったからである。当時の高級なホームユーザの使用するパソコン限定の知識で、主人公が性能を問いただす。問われた「ポセイドンという名の女の子」(笑)ロデムのほうだったかな?(爆)の応えたのが、「はぁ?」である。考えてみれば、当然である。今日の世界から、このページの上部「ホレリスの穿孔カード」を(パスカルの蒸気式? 解析エンジンの試案も)見れば、「はぁ?」の一言で終わるに相違ない。また一方で、パスカルが今日のPC用語を聞けば(最初は)「はぁ?」の一言で終わるに相違ないのである。「下手な小細工を弄するよりも、話をちゃんと作れ」と各作家連中に「はぁ?」一言で言っているようにも聞こえるところが、秀逸である。