◇30日目◇(エンディング)


◆エンディング1『悲しい心』

「僕は…これからどうするんですか?」
 三十日目の朝、八戒がそう呟く。
「どうしたい?」
 『神』がにっこりと笑いそう言う。
 八戒はそんな『神』から視線を逸らす。
「帰りたいに決まってるじゃないですか…」
 それは本心だろうか。
 自分は本当にそう思っているのか自信がなかった。
 初めのうちはずっと帰りたいと思っていた。
 この男のする酷い仕打ちに…耐えられなかった。
 でも、ずっとこの男と共にいて…何かが違うと思った。
 本当にこの男は、ただ楽しいと思ってこんな事をしているのだろうか?
 そうではない気がしてならない。
 だから、それを知ることが出来ないうちに帰っても良いものかと迷いが出る…。
「そうだと思って迎えを呼んでおいたよ」
「え……」
「どうしたの?嬉しくないの?」
 『神』の言葉に八戒は再び俯く。
「嬉しいですよ…」
 小さな声でそう呟く。
 嬉しいはずなのに…嬉しくない。
「じゃあ、揉め事は面倒だから、僕は彼らが来る前に出ていくよ。
 ここでお別れ。次に会うときは敵だね」
 じゃあね、と言い残し『神』は姿を消す。
 八戒はただ黙ってそこに立ちつくした。


「八戒、大丈夫か?」
 その少し後に悟浄達が部屋に入ってくる。
「あの野郎はどこ行った」
「カミサマなら、どこかに行ってしまいましたよ」
 悟浄は扉の方を見て小さく舌打つ。
 そして、八戒の方に向き直ると八戒の身体を抱きしめる。
「でも、八戒が無事で良かった…」
「……悟浄…」
 悟浄が今、目の前にいる。
 とても懐かしくて嬉しいのに…。
 …どこか寂しい気持ちが心の中に残っていた。

END



◆エンディング2『別れ』

 三十日目の朝、『神』がいつもより遅い時間に八戒の部屋に行くと、そこには誰もいなかった。
「帰ったのか…」
 そう呟いて、今朝まで八戒が使っていたであろうベッドに腰を下ろす。
 部屋の扉は開けておいた。
 だから八戒が出ていったとしても不思議ではない。
 約束は三十日間だったのだから。
 だから…。
「…………」
 『神』は俯いて息を吐く。
 何か胸にポッカリ穴があいてしまったかのような気分だ。
 こんな気持ちは初めてだ…。
 寂しい…?
「まさかね」
 今までそんなこと考えたこともない。
 そんな、たかが玩具を一つ失ったぐらいで『寂しい』ハズはない。
 別に、また新しい玩具を探しに行けばよいのだから。
 ……でも、そんな気分にはなれなかった。
 ただ、ぼんやりと八戒のことを考えるだけ。
 そんなにもあの男は自分の中で重要な位置を占めていたのだろうか。
 なぜ…どうして……?
 愛していた…?
「まさかね…」
 『神』は再びそう呟く。
 でも、その気持ちは否定できなかった。
 自分は…八戒を愛していた…?
 だんだんと自分の気持ちを自覚する。
 そっとベッドに横になると、八戒の香りが流れてくる。
 それだけで胸が締め付けられるような気持ちになる。
 八戒を…求めている。
「…八戒……」
 でも、もう遅い…。
 今更その気持ちに気付いてももう遅いのだ。
 逃げてしまった小鳥はもう戻ってこない。
 ………一生…。
 もう自分の手の中には戻ってこないだろう。

「……八戒…………」

END



◆エンディング3『紡ぎ歌』


 その日、時間になっても『神』は部屋に現れなかった。
 いつまで待っても姿を見せない。
 「…………」
 八戒は立ち上がると扉を開け部屋を出た……。


 「何しに来たの?」
 八戒のいた部屋から少し行った所の小さな部屋に『神』はいた。
 「もうゲームは終わったんだ。帰ればいいだろ!
 大体アンタ変だよ。
 逃げようと思えば何時だって逃げれたのに何で逃げなかったのさ!」
 まるで小さな子供のように喚きちらす。
 確かに部屋には鍵はかけられていなかった。
 逃げようと思えばいつでも出られただろう。
 でもそうする気は起きなかった。
 逃げれば悟浄が酷い目に遭うかも知れない…という考えもあった。
 でも…それよりも……
 「…貴方の事…放って置けなかったんです…」
 30日一緒に過ごしているうちに少しずつ見えてきた…本当の『神』の姿…。
 「何だよそれ!」
 ……愛される事を知らない子供……。
 「貴方は可哀相な人……。
 人の愛し方を知らない……」
 八戒はそっと『神』を抱きしめる。
 「何言ってんだよ!
 はなせよ…はなせ……」
 小さい子の様に言う『神』の目に少しずつ涙が溜まっていく。
 「…貴方も僕と同じ……愛される事を知らない子供……。
 だから人の愛し方を知らないんですね……。
 本当は寂しかったんですよね…。
 でも……もう大丈夫ですよ…」
 八戒は『神』の頭を子供をあやすように優しくなでる。
 八戒の胸で『神』が小さく震えているのが分かった。


 ……愛する事を知らない子供達……。

 ……何も知らず……に歪んだ愛を育てる……。

END



◆エンディング4『熱狂』


「さぁ、もう君は自由だよ」
 そう言って笑う『神』に八戒は俯く。
「どうしたの?嬉しくないの?帰れるんだよ」
 その様子に『神』は不思議そうに八戒の顔を覗き込む。
「……たは…」
「え?」
 聞こえるか聞こえないかの声で八戒が呟く。
 聞き返す『神』に八戒はゆっくりと顔を上げる。
「貴方は、もう僕のコトなんてどうでも良いんですね」
 顔は笑っているのに笑っていない八戒…。
「何言ってるんだよ…」
 『神』が少し驚きながらそう言う。
 『神』が一歩後ろに下がった瞬間、大きな音と共に建物が揺れ始める。
「な……」
「貴方はすぐに僕のこと忘れてしまうんでしょうね」
 揺れる建物の中でも八戒は変わらず淡々とそう言う。
「何言ってんだよ…こんな時に」
 慌てる『神』に近付きながら八戒は言葉を続ける。
「貴方にとって僕はただの『玩具』なんですからね…。
 貴方はすぐに新しい玩具を見つけるのでしょう」
 そう言い、にっこりと笑う。
 殺意に近い笑顔。
「でも、僕はそんなのは嫌なんです。
 貴方が僕以外を見るのが…許せないんです」
「…………」
 建物全体を襲う振動は収まらない。
 壁や天井が崩れ始める。
「だから一緒に死にましょう」
 そう言い、八戒は『神』の身体を強く抱きしめる。
「は…離せよ…」
「だって、僕たちずっと一緒にはいられませんからね。
 だから、この建物と一緒に消えてしまいましょう。思い出と共に…」
「この揺れは…お前……」
 最後まで言い終えるよりも先に、二人の上に崩れた天井が降りそそぐ。

「貴方を愛しています…ずっと貴方と共に……」

END



◆エンディング5『悲歌』


「おはよう、朝だよ」
 『神』がいつものように部屋の扉を開ける。
 しかし、中から返事はない。
 変わりに部屋の中に立ちこめる…噎せ返るほどの血の匂い。
「あーあ」
 床を見ると血塗れで倒れている八戒。
 もう息はなかった…。
 おそらく手に握られているナイフで自殺を図ったのだろう。
「残念、BAD ENDだったみたいだね」
 『神』はそう言い、クスクスと笑う。

「さぁ、次は誰で遊ぼうかな」

END




◆エンディング6『失われた夢』


 そして三十日目の朝が来た…。

「さ、ゲームは終わりだよ。やっとお家に帰れるね」
 『神』は笑い、部屋の扉を開ける。
 扉の向こうには自由な世界が見える。
 ずっと待ち望んでいた自由が…。
 でも……。
「………!?」
 突然背中に痛みを感じ、『神』は床に踞る。
「何を…」
 痛みをこらえながら振り返る。
 そこには血に濡れたナイフを持った八戒…。
「…帰れるわけないじゃないですか……」
 無表情に近い笑顔で八戒が言う。
「今更どんな顔をして帰れって言うんですか。こんな風にして…今更……」
 語尾が震えているのがわかる。
「………」
「だから、一緒に死んでください」
「何を…」
 ナイフを振り上げる八戒似『神』は後退る。
「やめろよ…」
 しかし背中はすぐに壁にあたってしまう。
 八戒に向かって攻撃する。
 八戒の身体から血飛沫が飛ぶ。
 それでも八戒は何事もないかのように『神』に向かって進む。
「や…やめろ…来るな!」
「貴方だけは…」
 小さく呟き『神』に向かってナイフを振り下ろす。

「僕から全てを奪った貴方だけはどうしても許せないんですよ…」

END



◆エンディング7『帰郷』


 三十日目の朝、目を覚ました八戒はベッドの上でぼんやりとしていた。
 遂に三十日目が来た。
 このゲームも今日で終わりだ。
 でも、自分はこれからどうしたらよいのだろう。
 こんな汚れた身体ではもう皆のところになんて帰れない。
「……悟浄…」
 自然と口からその名前が漏れる。
 もう、悟浄には会えないのだろうか…。
「…………」
 その時、部屋の外に大きな物音が響く。
 何事だろうかと八戒はベッドを降りる。
 そして、鍵のかけられていない扉を小さく開き、そっと外の様子を窺う。
 そこには『神』と戦う三人の姿が…。
「どうして…?」
 体が震える…。
 三人は自分のために『神』と戦っているのだろうか。
 こんな自分のために傷ついているというのだろうか…。
 見ていられない…でも、見ずにはいられない。
「…あ……」
 その時、二・三の会話の後、悟浄がこちらに向かってくるのが見えた。
 八戒は反射的に扉を閉める。
 こんな姿を悟浄に見られたくない。
「八戒、大丈夫か?」
 扉の開く音に八戒はビクッと身を震わせる。
「こ…来ないでください」
 震える声でそう言う。
 悟浄が大きく息を吐く音が聞こえる。
 呆れてしまっただろうか。
 わざわざ来てくれたのに、こんな態度をとる自分に…。
「八戒…」
 でも、かけられた声は意外なほど優しかった。
 大丈夫だから、と何度も言いながらシーツを取り去る。
 涙で滲む視界の先に悟浄が見える。
「悟浄……」
「八戒、帰ろう」
 そう言って手を差し出されるが、八戒は首を横に振る。
「駄目です…。もう帰れません。
 …だって、僕はこんなに汚れてしまって……」
 涙を流しながら言う八戒の身体を、悟浄はそっと抱きしめる。
「悟浄?」
「大丈夫…。
 八戒は八戒だ。何も変わっていない」
 優しく伝わる温かな体温に、身体に入っていた力が抜ける。
「帰ろう…みんなのところに……」
「……はい…」

END


このEDは後からコピー本でED集としてだしたものです。
本編の方にはED3が使われていました。
『交響的練習曲』を発行してから、やっぱりエロゲー式ならEDは複数なきゃなー、なんて思って発行。
実際のトコ反応はどうだったのか、謎。



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