DUETTO Op.74
「悟浄、何してるんですか?」
昼過ぎ、八戒が買い物から帰ると何やら台所で気配がした。
まぁ、悟浄だというのはわかっているのだが。
最近はすっかり悟浄も"食べる"専門になっていたので珍しいなぁと思った。
しかし、料理しているにしては騒がしすぎるし、少々焦げ臭い…。
「悟浄?」
本当に何をしているのだろうと台所を覗くと、そこにはフライパンと格闘している悟浄の姿があった。
「あ、おかえり八戒」
「ただいま…で、何を作ってるんですか?」
フライパンを見るとガッタガタに切られたお野菜さん達がフライパンの中で半分ほど焦げ、そしてある程度はフライパンの外に放り出されてしまっている。
……これは?
「ん、炒飯作ろうと思ってさ」
炒飯にしては少々具が大きいのではないだろうか。
「で、これは……」
八戒はもう一つ、網の上で炭になっている物を指す。
「あ、ヤベェ。真っ黒ぢゃん…」
「元は何だったんですか?」
「……秋刀魚」
炒飯と秋刀魚ってどういう組み合わせなのだろう。
それ以前に…。
「その秋刀魚…今日の夕飯用のだったんですけど…」
「………ごめんなさい」
今日の夕飯内容は変更ですね…と八戒は溜息を吐く。
使ってしまったものは仕方がない…。
「もう、炒飯は僕が作りますから貴方はテレビでも見ていてください」
……悟浄退場。
「お待たせしました」
十数分後、悟浄の目の前にはとても綺麗に完成している炒飯と……秋刀魚…。
「あれ、秋刀魚いいの?」
「一匹になってしまったら夕飯には使えないじゃないですか。だからもう食べてしまってください」
悟浄は"いただきます"と手を合わせてかなり遅い昼食を食べ始める。
「起きたら八戒居ないし、昼飯無いし、餓死するかと思ったぜ」
「餓死する前にちゃんと起きて下さい」
時計を見ると三時を指している。
きっと起きたのは二時半ぐらいなのだろう。
…そして、これからは悟浄の昼食は作り置きしておかなくてはならないな…と八戒は思う。
せっかく綺麗に掃除しておいた台所も、あっという間に汚染(笑)されてしまった…。
それに、せっかく考えていた夕飯の予定まで大幅変更だ。
こんなことがたびたびあってはたまらない。
「やっぱり、秋は秋刀魚だよな」
そんな八戒の心中など微塵もわかっていないだろう悟浄が秋刀魚を幸せそうに食べながらそう言う。
「なんか、秋だなって思ったら秋刀魚食いたくなってさ」
「そうですか…」
平和な人だなぁと八戒は思う。
でも、きっと悟空あたりも同じ事を考えているだろう…。
「でも、本当にもうすっかり秋ですね。
紅葉もとても綺麗ですよ。
そうだ、今度紅葉見に行きましょうよ」
「紅葉狩り?俺はどっちかというと『松茸狩り』とか食える方がいいけど」
「………お弁当作りますよ」
不満そうに声を上げる悟浄のそう提案すると『ならいい』と言う。
最近、悟浄の思考が悟空に近くなっているように思えるのは気のせいだろうか。
それとも、これが『食欲の秋』という物なのだろうか…。
「楽しみですね。約束ですよ」
「あぁ、わかってるって。忘れねぇよ。
お前との約束だからな」
「おーい、天蓬ー。生きてるか?」
そう呼ばれて天蓬の意識が少しずつ浮上してくる。
「…あれ……?けんれん?」
まだボーっとした顔で天蓬が起きあがる。
自分の周りを見回すと散らばった多数の本。
ここは自分の部屋だろうか…。
「大丈夫か?
お前その辺の本に蹴っ躓いて本棚に激突して降ってきた本に潰されたんだよ」
だから掃除しろって…と捲簾がブツブツそう言う。
「……マジ大丈夫か?」
あいかわらず、ほえ〜っと笑っている天蓬に『頭ぶつけたからなぁ』と心配そうに覗き込む。
「夢を見たんですよ」
「はぁ?」
「僕と捲簾が下界で生活しているんですよ。名前は違ってましたけどね。
捲簾の髪が赤くて長くて、僕の髪が短かったです。
で、二人で一緒に生活していて、それで僕が捲簾のために掃除したり食事作ったりしてるんです」
「そりゃ、えー世界で……」
「それで、今度二人で紅葉見に行く約束したんですよ。
僕たちも行きましょうねゥ」
ウキウキとそう言うと部屋を出ていく。
一人部屋に残された捲簾は部屋を見回し溜息を吐く。
本の散らばった部屋…この部屋を片付けるのは自分だろう。
天蓬が掃除をして食事を作ってくれる世界…。
「そんな世界があるなら行ってみてー…」
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