我らは唯一の神を信ず  OP73

 
やっぱり自分は死を望んでいたと思う……。
自分が生きて変わるものがあると言われても、それでもどこかで死を望んでいる。
……人間の本質なんてそう簡単には変わらない。


自分にかけられた手錠……何か嬉しかった。
自分は今から罪人として裁かれるのだ。
法の元で死ぬことが出来るのだ……。
死んですべての罪が償えるなんて思ってはいないけど、それでも……。
……神に殺されたかった……。

 

「どういう事ですか…?」
耳を疑った。
あれだけの罪を犯したのだ……自分は絶対に死刑になる、そう思っていたのに。
自分は罪を償う事もできずに死ぬまで罪を背負って生きて行かなければならないのだ。
……罪を背負って生きて行く事が、自分に科せられた罰なのだろうか。
罪にまみれて生きていく事が……。
それが自分にあっているのかもしれない。
そうして生きて行かなくてはならないのかもしれない。
それでも……やっぱり僕は死を望んでいた。

 

「またか……」
まったく手の着けられていない食事をみて三蔵がそう呟く。
八戒はここに来てから一度も食事をとっていない。
妖怪の中には何年も食事をとらなくてもいいタイプもいるが、八戒はそうではないだろう。
目に見えてやせ衰えてきている。
もう限界も近いだろう。
「いい加減何か食え。餓死でもする気か?」
そう言うと八戒の前にもう冷たくなってしまった食事を置く。
「はい……」
八戒は三蔵の方を見ずにそう答える。
このまま食事をとらなければ自分は死ぬ……。
死ぬことができるのだ。
やせ衰えて…弱って…動く事もできずに…そうして死んで行きたい。
「そんなに死にたいのか?」
「…………」
その言葉に八戒は三蔵を見る。
三蔵は強い光を放つ瞳でじっと八戒を見つめる。
この人は自分に『死』を与えてくれるのだろうか。
「僕は……『死』を求めています……」
そう言えば貴方は僕を殺してくれますか?
その強い光に焼かれるようにして……僕を殺して下さい。
「…なら…俺がお前を殺してやる…」
その言葉に、八戒はここに来て初めて安堵した。


自分は一体どうやって殺されるのだろう。
八戒はじっと三蔵を見てそう考える。
胸がどきどきと高鳴っているのが分かる。
自分は期待しているのだ。
今から訪れる『死』に……。

「八戒…」
三蔵が与えられたばかりの八戒の名を呼ぶ。
八戒は目を閉じるとじっと訪れるべき時を待つ。
目を閉じるとまるでここに自分が存在しない様な気になる。
重力も何も感じない。
『無』に等しい状態。
…ああ、これから自分は『死』を与えられ『無』になるのだ…

「ん…な…三蔵…」
不意に唇に暖かさを感じる。
その感じには覚えがある……。
これは……。
自分の唇に触れているものは人の唇。
それは分かる……。
でもその理由が分からない……。
何故今自分は口づけを受けているのだろう。
その相手は……三蔵……?
どうして?
自分は『死』を与えられるのでは無かったのだろうか……。
「三蔵?」
問いかけても何も返事は帰ってこない。
あれだけ『無』に近かった体にどんどんを重力がもどってくる。
何も感じ無かったのに。
体に三蔵の重みも体温も伝わってくる。
「……八戒……」
息づかいも……鼓動さえも……。

……………どうして……………?

 

「お前を殺すのは俺だ。
だから俺が殺すまでは死ぬな……」
まだベッドの上で虚ろな目で天井を見つめている八戒に三蔵はそういうと部屋から出ていく。
一人部屋に残された八戒は視線を移すこともなく、まだはっきりしない頭で考える。
三蔵に抱かれた体が痛む……。
自分はまだ生きているのだ。
三蔵はなぜあのような事をしたのだろうか……。
殺してくれるのでは無かったのだろうか……。
なぜだか目の端を涙が伝った。

あれは三蔵の優しさだったのかもしれない……。
でも……

『死』を奪われ……僕はどう生きていけばよいのだろうか……。

 



900HitのKUMA子サマのリク『38 斜陽殿話 ダーク』でした。
ダークと言われたのでとことん暗くしてみました。
いかがでしょう……。
でしょう…………………………。

 

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