Military March OP72
「八戒って三蔵の事『えこひいき』してると思う!」
その一言は、とある夕暮れののどかな空気の中で突然悟空の口から発せられた。
「そうですか?」
『えこひいき』とはまた懐かしい響きである……。
「絶対そうだって!」
「あ、俺もそう思うぜ〜」
悟空の意見に悟浄も便乗してくる。
何故いきなりそんな話が出てくるのだろう、と思いながら八戒は三蔵の前にコーヒーを置く。
「はら、そうやって三蔵にいっつもコーヒー煎れるし〜」
「ちゃんと二人の分も煎れますよ」
「でも絶対に三蔵に一番最初に煎れるじゃん」
……確かにいつも三蔵のコーヒーを先に煎れている。
だけどそれぐらいで何故ここまで言われなくてはいけないのだろうか。
「そう言われましても……」
ちらっと三蔵の方を見るが、三蔵はこちらの様子などまったく気にせずコーヒーを飲んでいる。
ある意味この問題の原因であるともいえなくもないのに……。
困った顔をしている八戒に二人はまだぶーぶーと文句(?)を言う。
その内容はえこひいきと言えばそうなのかもしれないが、普通に考えればさして気にする程のものでもない。
たかがそんな事に何故ここまで……と思ってしまう。
しかし悟空と悟浄にしてみれば、美味しいところをすべて三蔵に取られているようで面白くない。<br>
三蔵がえこひいきされているのが面白くないと同時に、自分もえこひいきしてほしいというのが本音なのだ。
「だからさ、今夜は俺と食い倒れツアーに行こうよ」
「バーカ。八戒は俺と飲みに行くんだよ。
八戒もそっちの方がいいだろ?」
「エロ河童は一人で飲みに行けよ!」
「バカ猿は一人で食いに行け!」
「……あの……」
八戒に返事をする暇すら与えない二人の口ケンカ(?)はついに手や足まで出始め、本格的に取っ組み合いの大ケンカになってしまう。
一体どうしてこんな事になってしまったのだろう……。
普段鋭い癖にこういう事は疎い八戒にはさっぱり理由が分からない。
「三蔵、どうしましょう」
困った顔で三蔵に助けを求める。
「ほっとけ。それよりも飯食いに行くぞ」
三蔵はさして気にする様子もなく立ち上がると八戒の手を掴み部屋を出る。
「……いいんですか?」
扉を閉めてもまだ少し聞こえてくる二人のケンカをしているだろう音はまだとどまる所を知らないと言った感じだ。
「そのうち飽きるだろう」
「ちょ……」
突然八戒の腰を掴み自分の方に引き寄せると軽く口づける。
「もう…こんな所で…」
顔を紅くして三蔵をにらみつける。
でも決して嫌がっているという顔ではない。
「行くぞ」
そっと……自然に手を繋ぐ。
「はい」
八戒もそれに応じるように三蔵に微笑みかけた。
…………数分後。
「しまった!八戒と三蔵がいない!」
ようやくケンカに飽きた悟空と悟浄が二人がいない事に気づいたが…時既に遅し……。
すっかり三蔵に出し抜かれた後であった……。
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