(タイトル不明)  Op71


「9月21日……ですか?」

 楽譜を渡されながら、悟浄が言った日にちを聞き返す。
「そ、今年の定演(定期演奏会)は9月21日。
 伴奏ヨロシク……って何か用事あった?」
 悟浄から渡されたのはその定期演奏会で弾く曲の伴奏譜だ。
 悟浄が学園で行われる定期演奏会の代表メンバーに選ばれたのは知っていた。
 自分は悟浄の伴奏者なので伴奏をする事も分かっていた。
 9月21日……それは、自分の誕生日ではないか……。
「いえ、何も用事はありませんよ。
 勿論、引き受けさせていただきます」
 まあ、別に誕生日だからどうこうという訳でもない。
 むしろこれは喜ばしい事ではないか。
 ……好きな人と誕生日に一緒に演奏する事ができるなんて……。
 僕はにっこり笑うと、その楽譜を受け取った。


 悟浄の伴奏をするようになって数ヶ月……。
 悟浄の伴奏をするのは好きだ。 
 彼の音楽はとても心地よい。
 …だから一緒に演奏していて、とても楽しい。
「…9月21日…か」


 なんだかんだで、9月21日……。
「八戒、頑張ろうな」
 結局僕は悟浄に今日が自分の誕生日である事を言わなかった。
 別に言う必要もなかったし……。
「はい」
 こうして悟浄と一緒に演奏できるだけで……それだけで幸せ…。
 数ヶ月前までは、音楽がよく分からなくて。
 ただ楽譜に並べられている音を追っているだけだった。
 そんな風に音楽を作っていた。
 でも悟浄に会って、変わる事ができた。
 悟浄に会って僕も本当に『自分の音楽』を作りたいと思った。
 すべては悟浄のおかげ。
 だから、新たな一年が始まるこの日に悟浄と共に演奏できることが本当に嬉しいです。


「八戒、おつかれー」
 本番を終えて、舞台袖にもどると悟空(トランペット吹き)が出迎えてくれる。
「悟空、来てくれたんですね。ありがとうございます」
 でも先に悟浄に言ってあげないといけないような……。
 今回メインは悟浄のチェロですし……。
「あ、八戒に花束届いてたよ」
 はい、と手渡されたのは真っ赤な薔薇の花束。
 本数は……22本……?
 差出人の名前はなかったけど、代わりにカードが一枚……。
『Happy Birthday 八戒』
 これって……。
 僕は先に楽屋に戻って行った悟浄の元へ慌てて向かった。
 悟浄に誕生日は教えていない。
 でも……もしかしたら……。

「悟浄……」
「ん、どうした?」
 僕はチェロを片づけている悟浄にそっと近づく。
「これ……悟浄ですか……?」
 僕の言葉に悟浄が少し恥ずかしそうに目をそらす。
 それで分かった……あの花束がやっぱり悟浄だって。
「ありがとうございます」
 思いがけない幸せ…っていうんですかね。
「ちょっとキザかなって思ったんだけどな……」
「すごく嬉しかったです。最高の誕生日ですよ」
 悟浄…本当に貴方に出会えて良かったです。
「じゃあ改めて……」


ーーーーーーーHappy Birthday 八戒


半実話です。
18才のBDに一緒に定演で吹いてたのに、花置き場に年数薔薇が…というのを……。
まあ、過去の話です


2001年八戒さんBDSSです。
ってなSSを掃除しているときに手書きノートから発掘しました。
こんなの書いてたね…忘れてたよ。
タイトルは書かれてなかったけど、多分前サイトにあがる時には何かタイトルをつけていたハズ……なので不明で。

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