問と答 Op61


 恋……ってなんだろう……。
 人を好きになる事と恋とは何が違うんだろう……。
 俺にはよく分からない。
 好きだって思う人はいっぱいいる。
 でも……これは恋とは違うんだろう……。
 好きと恋の違いって……。


 「ねー、八戒。ちょっと聞いてもいい?」
 俺はそっと八戒の部屋に行った。
 今日は一人部屋が4つだから、悟浄や三蔵に話を聞かれずに済む。
 あの二人が聞いたらきっと俺の事を馬鹿にするから……。
 「どうしたんですか?今お茶を煎れますから座っていて下さい」
 八戒がにっこりと笑って俺に席を勧める。
 なんか優しい空気に心が落ち着く。
 やっぱり八戒に所にきて良かった。
 「はい、どうぞ」
 俺の前にあったかい紅茶が置かれる。
 ちょっと変わった香がする。これってハーブティーってやつかな。
 一口飲むとすごく体中に暖かさが広がっていく。
 「それで、話って何ですか?」
 「んとさ…『好き』と『恋』って何が違うの?」
 「……それはまた突然ですね……」
 いきなりの事に八戒が驚いた顔をする。
 少し考えるように自分用に煎れた紅茶に口を付ける。
 そして優しく微笑む……。
 「そうですね。それは人それぞれだと思いますけど……。
 好きの中でも特別な想いを恋と呼ぶのかもしれませんね」
 「……特別……?」
 「ええ、たとえばですけど……いつも一緒に居たいと思ったり、ドキドキしたり、その人のためなら何でも出来る……とかですね。
 あくまでも例えですけど……」
 「そっか……、ありがと八戒」
 俺は残ったお茶を一気に飲み干して八戒の部屋を出た。


 特別……か……。
 俺にとって特別な人……。
 八戒も三蔵も悟浄も好きだけど……やっぱり特別っていったら三蔵かなー。
 でも一緒にいたいとは思うけど、ドキドキはしないなあ……。
 じゃあ……これは恋じゃないのかなあ……。
 ……恋ってどんなのだろう……。


 「悟空、どうしたんですか?」
 夕食後に宿の裏庭でぼーっと考えてたら八戒がやってきた……。
 「ここ座ってもいいですか?」
 八戒が俺の隣を指してそういう。
 俺は無言で首を縦に振った。
 八戒がにっこりと笑って俺の横に腰を降ろした。
 お風呂上がりだったらしく、風にのって石鹸の爽やかな香りが流れてくる……。
 「悟空、昼間言った事で悩んでいるんですか?」
 八戒の質問に俺はこくっと頷く。
 「悟浄になにか言われたんですか?」
 う゛……。
 確かに俺がこんなに悩んでいるのも、悟浄に『サル、お前どーせ初恋もまだなんだろー』っていわれたからだ……。
 八戒には……バレバレだ……。
 「恋って……」
 「え……?」
 いつもよりもすごく穏やかな声……。
 「恋って無理にするものじゃないんですよ。
 好きで好きで……どうしようもない想い…なんですよ……」
 いつもよりも優しい表情……。
 そんな八戒から……目が離せない……。
 「……八戒は好きな奴いるの?」 
 俺の質問に八戒は少し慌てる。
 「え…ええ……」
 少し顔を紅くして恥ずかしそうに笑う……。
 そんな八戒の表情が……いつまでも頭から離れなかった。


 俺は寝付きはいい方だ……。
 旅に出てからは疲れもあって、いつだってベッドに入ったらすぐに寝れた……。
 でも今日はなかなか寝付けない。
 なんか……頭の中に八戒の事ばっかり浮かぶ。
 すっごく優しく微笑んでいたり、ちょっと困ったように笑っていたり……。
 あの恥ずかしそうな笑顔だったり……。
 どの顔もっとっても綺麗……。
 なんか、八戒の事考えるとドキドキする。
 ドキドキして苦しくなって……どうしようもなくなる。
 もしかして……これが恋ってヤツなのかなあ……。
 そう考えると、ますますドキドキしてくる。
 自分じゃこの鼓動を押さえられない。
 ふと窓の外を見ると、まだ隣の八戒の部屋に明かりがついているのが分かる。
 八戒はまだ起きているんだ……。
 俺はガバっとベッドから起きあがる。
 八戒に会いに行こう。
 八戒に会ったら、もっとドキドキするかもしれない。
 それでもきっと八戒はなんとかしてくれる。
 俺はそのまま隣の八戒の部屋に行った。
 大きく深呼吸をして八戒の部屋のドアをノックする。
 「はい……?」 
 すぐに八戒が中から出てくる。
 …………?
 なんで八戒の部屋に悟浄が居るんだ?
 「悟空どうしたんですか?こんな時間に……」
 「そーだぞ、お子さまは早く寝ろ」 
 「もう悟浄!……眠れないんですか?ちょっと待ってて下さいね」
 八戒はそう言うと部屋の奥の方へと行く……。
 俺はなんか複雑な気持ちで取り残されてしまう……。
 こんな時間に八戒と悟浄が二人っきりでいて……。
 それで……二人で会話している時は俺……なんか入れない感じで……。
 もしかして……八戒の好きな人って……悟浄なのかな……。
 なんか……胸が痛い……。
 「悟空、お待たせしました」
 八戒が俺に湯気の立つカップを差し出す。
 「八戒……コレは……?」 
 「これを飲むと落ち着きますから、きっと眠れますよ」
 やっぱり……八戒は優しいな……。
 八戒の煎れてくれた飲み物を飲むと、なんかほっとして暖かくて……八戒みたいに優しい。
 「落ち着きました?」
 「うん」
 俺、やっぱり八戒の事が好きだ、悟浄に負けないぐらい。
 「ありがと八戒」
 俺はめいっぱい背伸びをして八戒にキスをする。
 もちろん唇に。
 「…悟空!?」
 「おやすみ八戒!」
 俺八戒の事好き。
 だから今のキスはその気持ちと悟浄への宣戦布告!
 俺、絶対負けないから!

 

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