不安　　Op58

……僕は悟浄を愛しています……。
悟浄も僕の事を愛してくれる……。
それでも不安になるんです。
貴方は誰にでも優しいから。
何時だって僕だけの事を見てくれるわけじゃないから。
独占欲……。
前は愛してくれるだけでよかったのに……。
いつの間にか僕の中で独占欲が強くなっていく……。

だから僕は彼の気をひこうとするんです。
どんな事をしてでも……。
雨の日に貴方は風邪を引いている女の人を送っていきましたね……。
あの時、僕がどんな気持ちだったか分かりますか？
貴方が他の人の手を取るなんて嫌です……。
たとえ病人相手であっても……。
貴方は優しい人だから、そんなあの人を放っておけなかった事ぐらい分かります……。
それでも嫌だったんです……。
……だから……
だからあの日…僕は雨の中、傘も差さずに帰った……。
そうすれば貴方が少しでも僕の事を気にかけてくれるから……。
本当はあのまま風邪をひけばよかったと思っていた……。
あの時…あの人の事がとても羨ましかったから。
だから本当は風邪をひきたかった……。

そこまでして気を惹いているのに……いつも貴方は色々な所を見ていて……僕だけを見ていてくれない……。
どうしたら僕だけを見てくれますか？
どうしたら何時も僕の側にいてくれますか？

だから僕は自分で自分の体に傷をつけます……。
そうしたら……貴方は僕の事を気にかけてくれるでしょ……。
心配して、僕の側にいてくれるでしょ……。
だから傷をつけるんです。
側にいてほしいから……。
貴方の優しさにつけ込んでいる事は分かっています。
それが正しい行いでない事も分かっています。
それでも僕は繰り返す……。
何度も……何度も……

『何でこんな事をするんだ……』
貴方は僕の傷だらけの手を取ってこう言いましたね……。
……貴方の事を愛しているからですよ……。
貴方が僕の事だけを見ていてくれるのなら……何でもします。
貴方が僕の側にずっと居てくれるのなら……何でもするんですよ……。
貴方がもし一生僕の事を考えてくれるのなら……死んでもいい……。
もしも貴方が僕の前から居なくなってしまうのならば……貴方の目の前で死にましょう……。
そうすれば……僕の事…忘れられないでしょ……。

心の病んだ者には……病んだ愛し方しかできない。
だから僕は今日も自分を斬りつける……。
貴方の為に……。
この傷の数が……貴方への愛の数だから……。