魔弾の射手 Op.56
こんにちは。私、八百鼡と申します。
私は紅孩児サマの命で、三蔵一行抹殺のため、この街の食堂にウエイトレスとしてはいることになりました。
……それがどんなに大変な事か、私は分かっていなかったのです。
「君が今日からはいるバイトの子?」
「は…はい…」
「ちょうどバイトの子が何人か辞めて困ってたんだよ。
はい、これマニュアルだから目を通しておいてね」
そう言って渡されたのは何枚かの紙……。
それには基本的な事が書いてあります。
……コレ通りにやればいいって事なんですよね……。
「……」
その紙の一番下に書かれている文……。
『好意は持っても殺意は抱くな』
これって……一体何なのでしょう……
……私は飲食店と言う物を……甘く見ていました。
仕事自体は単純な物で何も問題はありませんでした。
初めの何日かはとても平和に過ぎ去りました。
……それはまだ私が新人だったから…なるべくヒマな時間に入っていたからだったんです。
仕事に慣れた頃、私は始めてピークという物を体験しました……。
それは……まさに地獄絵図でした……。
……次々に鳴る入店を示すチャイム……。
お水の出ていないテーブル……。
レジにならんでいる人々……。
オーダーを呼ぶ人……。
そして厨房から運びを求める声……。
……どれから手をつけたらいいのでしょう……。
それでも順番にこなせば……。
……なんて私の考えは甘かったんですね。
……どうして……。
どうしてこういう時にかぎって、ビール・つまみ・デザートのオーダーが沢山はいるの?
これらは厨房ではなくホールの担当……。
こんなにいっぱいいっぱいなのに……なんで客は(もう様もつけたくありません)我が儘ばっかりいうのでしょう……。
こんなに忙しいのにビールとつまみを一緒に出せとか言わないで下さい。
一人しかオーダー決まってないのに呼ばないでください。
『ご注文以上でよろしいですか?』ってきいて『はい』って言ったのに『あと…』って付け足さないでください。(最近のオーダーは機械で転送です……)
オーダー送信しちゃってからメニュー変えないで下さい。
勝手に片づけてもいないテーブルに座らないで下さい(その上メニューがないとかテーブルが汚いとか言うし……)
書いてある事はちゃんと読んで下さいー!
もう言い出したらキリがありません……。
営業スマイルはもはや固まった(ひきつった)笑顔と化してしまいました。
怒りを抑えるだけで精一杯です。
それでもこらえきれない怒りのため私は見えない所で壁を殴りました。
イヤな事があるたびに一発ずつ……。
仕事が終わる頃……私の手には青紫の痣がいくつも出来ていました……。
……私は飲食店の仕事という物を甘く見過ぎていたようです……。
……三蔵一行…早く来て下さいー。
─── 好意は持っても殺意は抱くな……
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