48 STUDIES Op48
8.撞木ぞり(しゅもくぞり)




「今日は星が綺麗ですね」
たき火の前で八戒はぽつりと呟いた。
今日は次の街までは着けなかったので森で野宿となった。
風は少し冷たかったが、雲は全くなく綺麗に星空の見える良い天気であった。
自然は嫌いではないし、こういう天気であれば野宿も悪くない。
なんだかいつもとは違う神秘的な感じにじっとしてられなくなる。
「三蔵、少し散歩しませんか?」
三蔵にそう言葉をかけるが三蔵は動こうとしない。
予想はついていたので、軽く溜息をつき一人で散歩に行こうと方向転換をしたその時……
「……三蔵……」
自分の手に伝わる暖かな手の感触……。
「……散歩、行くんだろ……」
「はい」


「いい風ですね」
さらりとした冷たい風。
まだ少し肌寒い気がしたけど、その分繋がれた手から伝わってくる体温が心地よい。
そこにいることを感じさせる暖かさだ。
「あ……湖ですね」
森の切れ目に小さな湖を発見する。
その水は透き通る程透明で、月の光を綺麗に反射させている。
風が吹くたびに水面に波がおこり、月の光がキラキラとゆらめく。
「少しここで休憩していきましょうか」
「ああ」
八戒の言葉に三蔵は湖の畔に腰を降ろす。
「ありがとうございます」
そう少しこの湖を見ていたかったから。
……三蔵と二人で……。


誰にも言ってはいなかったが、八戒は雑踏とした街よりもこういった自然の中の方が好きだった。
作り出された物や作り出された音の中にいるよりも自然に存在する物の中で自然にあふれ出る音を聴きたい……。
だから野宿の時は一人で散歩に出た。
自然の中に一人で立っていると、そのうち自然にとけ込めそうな気がしてくる。
自分は自然になる事を許される存在では無いけれど……。
それでも……少しは汚れが薄れるような気がするから……。
だから……一人で自然の中にいた……。
でも今日は一人ではなく……三蔵といたかった。
あまりに綺麗な星空だったから……。
いつまで二人でこうして星空を見られるか分からない……。
だから今は……二人で星をみていたい……
「三蔵、愛してますよ」
八戒の方から三蔵にそっと口づける。
そこに居るのを確かめるように……。
離れようとした八戒の腕を三蔵が掴み自分の方へと引き倒す。
「ちょっと……さんぞっ……」
今度は三蔵の方から八戒に口づける。
さっきよりも深い口づけ……。
「三蔵……もしかして……ココでするんですか……?」
八戒が少し顔を赤らめ問う。
「嫌なのか?」
「……いえ……」
八戒は三蔵にそっともたれかかる。
……すべてをゆだねるように……。


「あ…ん……さんぞ……」
八戒の声が静かに森に吸い込まれていく。
「八戒……いいか?」
「……はい……」
地面が冷たいのを気遣って、三蔵は八戒を自分の上へと降ろす。
「ん…あああ……」
どんなに行為を繰り返しても余り楽にはならないらしく、八戒の瞳から痛みの為に涙がこぼれる。
三蔵は八戒の呼吸が落ち着くまで、八戒を背中から優しく抱きしめる。
八戒の背中に三蔵の体温と鼓動が伝わってくる。
「さんぞ…あ…いしてま…す……」
何度も何度も確認するように呟く……。
目の前に広がる闇が余りに広すぎるから……。
だから……不安になってしまうから……。
だから……何度も……確認するように呟く……。


「……三蔵……?」
行為が終わっても三蔵が体内に収まったままで、いつまでも三蔵が動かないのに八戒は不思議に思う。
「……わ!……ちょっと…三蔵……」
いきなり三蔵は八戒の体を掴んだまま背中から後ろへと倒れ込む。
横になった三蔵の上に同じように八戒が横になった状態になる。
その瞬間八戒の目の前に星空が広がる。
「…きれいだな……」
「……はい……」
星空は綺麗だけど、やっぱり闇と同じで余りに広すぎて……八戒の心に何か不安が広がっていく……。
「……ねえ、三蔵……。いつまでこうして二人で星を見ることができるんでしょうね……」
こらえきれずに不安を言葉にしてしまう。
「……死ぬまでだろう……」
「……じゃあ、長生きしなきゃいけませんね」

ずっと二人で星を見ていたいから。
だから星に願い事をしましょう……。
ずっと二人でいられるように……

 

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